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膨らむフランスの政府債務

過去数か月、フランスでは長期国債利回りの急速な上昇が続いており、世界の債券市場に悪影響をもたらしている。フランスの10年国債利回りは現在5%近くまで上昇し、2002年以来の高水準に達した。2010年台前半のユーロ圏債務危機を想起させる動きだ。
 
マクロン政権のもとで、コロナ対策、ウクライナ戦争後のエネルギー不足への対応、イラン情勢を受けた原油価格高騰への対応などを通じて歳出が増加し、財政環境は急速に悪化した。それに政治不安が加わり、債券市場の不安が一気に表面化しているのが現状だ。
 
今後は、かつて超低金利時代に借り入れた巨額の政府債務を大量に借り換えることが必要となる。フランスは2030年までに1兆ドル(約158兆円)を超える国債が満期を迎える。しかも来年は、過去最高となる約3,800億ドル相当の国債を発行する予定だ。
 
現在、国内総生産(GDP)比120%近くに達しているフランスの政府債務残高は、長期国債利回りの上昇を通じてフランス経済の成長にも逆風となる。経済協力開発機構(OECD)の最近の予測によると、フランスは歳出を削減しなければ、政府債務の水準が2050年までにGDP比200%に達する可能性がある。

大統領選候補者らが政府支出の拡大を約束

さらにフランス国債の売りに拍車をかけているのは、フランスの政治統治が不能に陥り、悪化した財政環境を立て直すことができなくなるという市場の不安だ。ここ数年、国民議会(下院)の議員らは、歳出削減によって財政秩序を回復しようとした首相を次々と排除してきた。2027年春に大統領選挙を控える中、マクロン大統領の後任を目指す有力候補者らは、政府支出の拡大を約束して有権者の支持を得ようとしている。大統領は連続して3期務めることはできないという憲法の規定によって、マクロン氏は次の大統領選に出馬できない。
 
世論調査で首位に立つ極右候補のルペン氏は、フランスの定年退職年齢を最低で60歳まで引き下げることを公約に掲げている。この措置により国に年間90億ユーロ(約1兆6000億円)の追加コストが発生するとされる。
 
世論調査で2位につける極左指導者のメランション氏は、欧州中央銀行(ECB)に対して、フランス銀行が保有するフランス国債4,880億ユーロ相当を凍結または帳消しにするように求めている。

深まる政治混迷

ロラン・レスキュール仏財務相はインタビューで、財政悪化で投資家の需要が揺らぐ中、国債の新規発行を戦略的に行うと述べている。具体的には、長期国債利回りをさらに上昇させることを避けるために、短期国債の増発を検討している。
 
さらにレスキュール氏は、来年度予算をめぐる交渉が行き詰まった場合、政府は特別な憲法上の権限を行使し、議会を通さずに数十億ユーロ規模の歳出削減を可決する用意があると述べている。最終的に議員の過半数が予算案の可決に応じない場合、政府はフランス憲法第49条3項を発動するものだ。この条項は、国民議会での採決なしに法案を成立させることを政府に認めている。
 
一方、政府が憲法第49条3項を行使した場合、議員らは内閣不信任決議案を提出して対抗することができる。不信任案が可決されれば、政府は退陣し、予算案も廃案となる。
 
ただしその場合でも、政府には予算を成立させるための手段が残されている。予算法案が期限内に成立しない場合、政府がオルドナンス(行政立法)で実施できる。
 
ただしそうした措置は、政治の混迷をさらに加速させるだろう。フランスの政治情勢の悪化と国債市場の混乱は、出口が見えない状況だ。
 
(参考資料)
“France’s Appetite for ‘Magic Money’ Has Turned Into a Debt Bomb(フランス「魔法のお金」依存、債務爆弾と化す)”, Wall Street Journal, October 8, 2026
“France Considers Issuing More Shorter-Term Debt After Bond-Market Turmoil(仏、短期債の増発検討 国債市場の混乱受け)” , Wall Street Journal, October 8, 2026
“French Government Is Willing to Bypass Parliament to Pass Billions in Cuts (仏政府、議会通さずに歳出削減案を可決の用意も=財務相)” , Wall Street Journal, October 7, 2026

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。