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第3弾を含めて対米投資額は合意された5,500億ドルの4分の1程度に

米国の半導体受託生産大手グローバル・ファウンドリーズ(GF)は10月14日に、ニューヨーク州に新たに工場を建設すると発表した。これは、2025年に日米関税交渉で合意した5,500億ドル(約87兆円)の対米投資計画の第3弾である。
 
11月3日の中間選挙に向けてトランプ政権が自らの成果を有権者にアピールするため、公表がこのタイミングとなった可能性が考えられる。トランプ大統領は、この投資によって、ニューヨーク州で建設と供給網に関連する高賃金の雇用2万7,000人分と、1,000人を超える高度技能の製造業の雇用が創出されるとした。
 
投資総額は最大210億ドル(約3兆3,200億円)が予定されている。約100億ドルの初期投資で300mmの新工場を建設して2029年に稼働させ、さらに約100億ドルで2棟目を建てる計画だ。2棟目を建てるかどうかは2028年末までに決めることになっている。東京エレクトロンが半導体製造装置を供給し、半導体大手ルネサスエレクトロニクスが半導体の調達側(顧客)となる。
 
工場は米政府と日本側が共同保有し、GFが運営する。米政府はすでにGF株の3%を保有している。今回、CHIPS法補助金の修正に関する別の合意で4%を追加取得し、保有比率は約7%になる。
 
GFによると、米政府は新たな半導体工場の持ち分を取得するが、投資資金はすべて日本が提供するという。
 
2026年2月に発表された第1弾の投資では、テキサスの石油・ガス、オハイオの発電、ジョージアの人工ダイヤモンドに360億ドル、2026年3月に発表された第2弾では、GEベルノバ日立がテネシー・アラバマで建設するSMR(400億ドル)と、ペンシルベニア・テキサスのガス火力(330億ドル)に730億ドルが投じられる。今回の第3弾と合わせると、合計の投資規模は1,300億ドルとなり、合意された総額5,500億ドルの4分の1弱に達する。

前向きに評価できるポイント

今回の第3弾となる投資計画について、前向きに評価できるポイントを2点挙げたい。第1は、今まで電力・資源関係に偏っていた投資対象が、半導体分野に広がったことだ。これは、日本の経済安全保障の強化の観点からは好ましい変化と言える。
 
第2は、日本企業の関与が従来案件よりも明確になったことだ。投資計画は、米企業が主導し、トランプ政権が最終決定をし、日本が資金を提供するという構図になっている。今までの計画では日本企業の関わりはあまり明確でなかった。
 
しかし今回は、東京エレクトロンが半導体製造装置を供給し、半導体大手ルネサスエレクトロニクスも半導体の調達側となるなど、日本企業にとってのメリットがより明らかだ。

第3弾の課題

他方で課題も挙げられる。第1は、規模が最大で210億ドルと、第1弾、第2弾と比べて小さいことだ。
 
第2は、11月の中間選挙を前に、製造業と雇用の拡大をアピールする材料として打ち出された面があり、政治色が強いことだ。
 
第3に、GFが製造する半導体は最先端ではなく、成熟・特殊プロセスに強いファウンドリーだ。経済安全保障上の意義はあるが、中国勢との価格競争にさらされやすい領域でもあり、工場の稼働率と収益性は必ずしも保証されていないと考えられる。

対米投資計画の問題

今回の第3弾に限らず、5,500億ドルの対米投資計画は、関税率の引き下げと交換条件に日本が受け入れを強いられた不平等な合意である点が問題だ。その問題点を改めて挙げてみたい。
 
第1が、不平等な取り決めであることだ。案件はトランプ大統領が選び、利益は一定額まで日米で折半、その後は9割が米国に入る仕組みとなっている。特に今回の第3弾の案件では、米政府が工場の所有に加わる一方で、資金は全額日本が負担する。いわば、リスクは日本、アップサイドは米国寄りという構造が、より鮮明になっている。
 
第2が、許認可・法的リスクである。第1弾の原油輸出港(テキサス・ガルフリンク)は、米控訴裁が承認手続きに重大な欠陥があるとして許可を取り消した。国際協力銀行(JBIC)と貿易保険(NEXI)は今年4月に、この件で融資や融資保証を既に決めていた。今回の半導体工場でも、環境審査や補助金条件の変更などのリスクが残る。
 
第3が、政府系金融機関と邦銀のリスクだ。第1弾では、JBICと3メガの融資比率を1対2とし、メガの融資にはNEXIの保証を付ける形が取られた。政府系金融機関には、投資、融資、融資保証で損失が生じる可能性があり、それは最終的に日本国民の負担になり得る。一方、邦銀の焦げ付きリスクは政府保証で抑えられるものの、大規模なドル調達でのコスト上昇や与信枠の圧迫などの問題が生じる。
 
第4に、追加のSMRや大型炉も第3弾の候補として報じられていた。このことから、今後は原発関連が投資計画の大きな比重を占める可能性がある。原発は工期・コスト超過のリスクが大きく、採算面でのリスクが高まるだろう。
 
(参考資料)
「日本、NY州半導体2工場建設に210億ドル投資 GF運営」、2026年10月14日、ロイター通信ニュース

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。