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消費税減税の財源について赤字国債に頼らないとの説明を事実上修正か

今国会で、政府は、食料品の消費税率引き下げ、就業者負担軽減支援金の法案可決を目指している。しかし、双方ともに財源は未だ示されていない。支援金については、対象者や支援金額などの重要な設計についても示されていない。
 
あらゆる新たな政策にはコストがかかるものであり、それを踏まえて新たな政策の是非が国民の間で議論され、国会で審議されるべきだ。どのような財源を充てるのかは、誰がそれを負担するかを決めることになる。その点が示されないままで、法案を審議することは本来おかしいだろう。
 
政府・与党は、今後の審議の中で野党の意見も取り入れて、これらの政策の設計と財源の最終着地点を探るために、このような幅を持った対応をしているのかもしれないが、それでは国民の支持は得られないだろう。
 
そうしたなか、高市首相は10月19日の参議院予算委員会で、食料品の消費税減税の財源についてやや踏み込んだ発言をした。
 
首相は、食料品の消費税減税について、予算編成改革の枠組みで歳出・歳入の見直しを進めながら、財政規模を精査し、当初予算と補正予算を合わせた通年の国債発行額を適切にコントロールすると説明した。そのうえで、国債発行は「否定するものではない」と述べた。
 
従来、首相は、食料品の消費税減税の財源について特例公債(赤字国債)に頼らないと明言してきた。今回の発言は、これを修正するものとも解釈可能だ。この点について木原稔官房長官は記者会見で、首相の発言は「あくまでも予算編成全体についての答弁だ。従来の政府の方針に変わりはない」と述べた。しかし、首相の発言の真意は明らかではない。
 
仮に建設国債やつなぎ国債を財源とするのであれば、特例公債(赤字国債)に頼らないとの公約に反しないが、2年間の食料品の消費税減税の財源にそれらを充てるのは理屈に合わず、難しいだろう。
 
そうであれば、公約を修正して、財源の一部を国債発行で賄う方針に転換したのではないか。それは、歳出と歳入の両面の見直しを通じて年間5兆円規模の財源を確保することが難しいことが明らかになったためとも考えられる。仮にそうであれば、当初の財源確保の見通しの甘さが批判されるだろう。実際、国債発行ではなく、歳出削減と歳入増加によって年間5兆円規模の財源を確保するのは、もともと相当困難だと考えられる。
 
一方、毎年大量の赤字国債を発行し、来年度もその傾向が変わらない中で、消費税減税に限って赤字国債で賄わない方針としても、市場の信頼を得ることにはそもそもならない。

国債発行額の管理に重点を移す

一方、政府は、財政運営に関する金融市場の信頼性確保の重点を、消費税減税の財源を特例公債(赤字国債)に頼らないことから、国債発行額の管理へと移しているように見える。
 
ただし、「通年の国債発行額を適切にコントロールする」という首相の説明が何を意味しているのかは明らかではない。補正予算の編成を行わないとしても、新たな投資、国債費、防衛費の増加によって、来年度の財政赤字の規模は、2025年度の当初予算と補正予算の合計を大幅に上回るとみられる。
 
その中で、国債発行額を例えば2025年度並みの規模に抑えるとすると、その際につなぎ国債を含めない扱いとすることが第1に考えられる。経済安全保障関連の投資については、特別会計に計上し、将来の償還財源を示したうえでつなぎ国債で賄うとされる。これを含めなければ、国債発行額を抑えることはできるだろう。しかし、償還財源が明示されなければ、それはいずれは赤字国債の発行で償還されていく可能性は高く、通常の赤字国債の発行と変わりない。
 
第2の可能性は、短期国債の発行を急増させることで、長期国債の発行額を抑えることだ。しかしそれは、短期国債を含めた年間国債発行の総額をより増やすことになってしまう。まさに自転車操業を加速させるようなイメージだ。
 
第3の可能性は、国債発行の増減を均すために発行する前倒し債を通じて既に調達した資金を、支出に充てる可能性だ。これは、国債発行のタイミングを調整することになるだけであり、複数年度で見た場合の国債発行総額は変わらない。
 
これらの選択肢はいずれも、実質的な財政環境の改善、国債需給の改善につながるものではない。そうした措置によって市場の信頼が高まることはない。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。