&N 未来創発ラボ

野村総合研究所と
今を語り、未来をみつめるメディア

ガソリン補助金制度を見直しへ

高市首相は10月23日に、ガソリン補助金の見直しを赤沢経済産業相に指示すると表明した。支援単価や制度の「出口」を含めて検討するが、単価や終了時期は未定であり、11月からすぐに変わるわけではなく、当面は支給を続けるとした。
 
一方自民党は26日に、12月から春先にかけ、レギュラーガソリンの全国平均価格1リットル当たり約170円を毎月5円ずつ段階的に引き上げる案を示した。
 
ガソリン補助金は今年3月19日に、中東情勢の悪化による原油高を受けて再開された。それ以降、レギュラーガソリンの全国平均は補助金によって1リットル170円前後に抑えられてきている。その仕組みは「170円を超える分を全額補助」する変動型であり、7月からは代替ルートでの割高な原油調達分を補う月次の調整単価も上乗せされた。
 
この補助金制度のもとでは、消費者は安定した水準でガソリンを購入できるが、補助金の額は海外の原油市場によって大きく変動する。9月後半には過去最高の1リットル51.0円に達した。
 
財源確保については綱渡り状態が続いている。当初の基金約1兆1,600億円は7月末に約2,100億円まで減り、6月に成立した2026年度補正予算で設けた2兆5,000億円の「中東情勢等対応予備費」から9月1日に6,136億円を積み増した。
 
基金の残高は9月末時点で約5,600億円、9月に支払った8月分は約1,800億円で、原油価格の高止まりが続けば11月以降に財源が枯渇する恐れがある。首相は当面の継続に必要な基金の確保も指示したとされる。6月時点で、2022年の制度開始から投じられた予算の累計は8兆9,668億円とされる。
 
見直し論は今回が初めてではない。首相は6月の国会で「支援単価を含め柔軟に検討」と答弁し、縮小を示唆していた。7月には、目安を170円から175円へ引き上げて9月から補助を縮める案が政府内で浮上した、と一部メディアで報じられた。
 
しかし8月25日に首相は、原油が再び急騰する恐れを理由に170円の目安を据え置くと表明し、175円案は見送られた。

実効性のある見直しに

以下の点から、補助金縮小に向けた見直しの方向性は妥当と考えられる。第1に、財政負担の軽減につながる。ガソリン補助金では月数千億円規模の支出が続き、補正予算の財源は全額赤字国債である。財政膨張への警戒は円安を生じさせ、物価高を促す面もある。
 
第2に、公平性に課題がある。元売り業者への一律補助は、燃料を多く使う世帯や事業者ほど恩恵が大きくなる。ガソリン価格の上昇で生活が圧迫される低所得層や零細企業が受ける恩恵は、相対的に小さくなる。
 
第3に、脱炭素政策と逆行する。価格シグナルを消すため省エネの動機が弱まり、多くの国が取る需要抑制策とも矛盾する。
 
他方、実効性のある見直しには、次の3点を早期に示すことが求められる。第1に、段階的縮小の工程表だ。目安価格の引き上げや補助率の逓減を、時期とともに事前に公表し、市場と家計に予見可能性を与えることが重要だ。政府・与党内では補助を段階的に縮小し、価格を180円程度に引き上げる案が浮上していると報じられている。第2に、発動・停止のルール化だ。原油価格などに連動した明確な基準を設け、政治判断による先送りを防ぐことが求められる。第3に、的を絞った支援への移行だ。地方の車依存世帯、低所得層、運輸・農漁業など影響の大きい層への直接支援に切り替えていくことも検討すべきだ。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。