前回までに、物流関連2法の改正とCLO(物流統括管理者)制度の概要、その役割や、自社のどの領域に改革の余地があるかを見極める手法について紹介してきた。本稿では視点を変え、これまでの制度・組織・KPIといった経営視点に加えて、物流改革においてシステムが果たす役割と、CLOが押さえておくべき全体像を整理する。システムはIT部門の領域と思われがちだが、何のためにシステムを導入し、どのように使えば目的が達成できるかという判断は、IT部門と協働しつつも、経営・業務・データを横断して見るCLOの重要な役割となる。本稿では、「可視化」「最適化」そして「標準化」という、システム面でCLOが押さえるべき論点について解説する。
1.はじめに:
物流改革を本気で進めようとしたCLOは、早い段階でシステムの問題に突き当たる。自社の物流の実態を把握しようとして「社内のどこにもデータがない」「システムが連携していない」という壁にぶつかり、極端な例だが、手掛かりを求めて現場に足を運んでみて初めて、電話・FAX、担当者の経験に依存した属人的な差配で業務が回っている実情を知るといったケースも少なくない。
物流改革においてオペレーションとシステムは不可分であり、「どのシステムを入れるか」ではなく「何のために・どう使うか」を設計することが、CLOに求められる仕事である。本稿では、特定のシステム構成や製品名の紹介には立ち入らない。どのようなシステムを使う場合であっても物流改革のために押さえなければならない共通のポイントがある。それは「可視化」「最適化」そして「標準化」だ。
2.可視化
物流改革の第一歩は、なんといっても可視化である。物流の実態を正確に把握すること抜きに「積載率の向上」や「荷待ち・荷役時間削減」を考えることは不可能だ。改正物流効率化法により荷主企業に積載率と荷待ち・荷役時間に関する報告が求められていることもあり、多くの企業にとって、実態の把握、即ち可視化こそが真っ先に取り組まなければならない課題となる。
可視化には、大きく二つの段階がある。
まず行うべきは、社内に存在する情報の棚卸しだ。システムから取得できるものがあるのがいちばんだが、たとえデータ化されていなくても情報として存在するものがあれば活用できる。例えば荷待ち時間については車両の動態データや各拠点の入構記録から拠点に到着した時刻を特定し、バース側の作業記録から荷役を開始した時刻を特定し、両者を組み合わせることでシステム上は存在しない「荷待ち時間」「荷役時間」という指標を計算することが考えられる。
次に、目的を設定しそれに対して何が足りないかを特定する。積載率を例にとれば、最大積載重量の把握は比較的容易だが、ロールパレットの最大積載数は架装によってまちまちというケースは珍しくない。この場合、あらかじめ運送事業者ごとにどの仕様の輸送容器がどの程度積載できるかの台帳を作成する必要がある。
この「①社内に既に存在する情報の活用」と「②不足している情報の新たな取得」を組み合わせて進めることで、何から手をつけるかの優先順位が見えてくるだろう。
注意すべきは、いきなり高度な分析やAIの導入に飛びつかず、段階的なアプローチをとることである。データが全く取れていない段階であれば、まずは「各種台帳のデジタル化」や「主要拠点へのバース予約システム導入」、「テレマティクスの導入」といった、データ取得体制の整備自体を目標とすべきだ。
日々の管理業務で作成される記録がデータとなり、短い期間で可視化され、分析に供することのできる環境を整えること。これが、次の「最適化」へ進むための不可欠な基盤となる。
3.最適化
可視化によってデータが蓄積されれば、次はそのデータを分析・活用して最適化に進むことができる。物流における最適化は、輸配送・在庫・拠点配置という三つのレイヤーで考えると整理しやすい。大きく「配車・ルートの最適化」「在庫配置の最適化」「物流ネットワークの最適化」の三領域に分けて捉えることができる。それぞれについてどのような取り組みが行われるか、順に紹介する。
配車・ルートの最適化は多くの場合、各物流拠点のベテラン配車マンの暗黙知をデータで補完することが主な取り組みとなる。どのルートをどう走らせると効率が良いか?という問い自体は数学の問題としてよく研究されているが、実際の配車となると、制約条件の多くが明文化されておらず、ベテランの頭の中にしか存在しないことが障壁となる。
例えば、入庫可能な車両のサイズやクレーンの有無といった顧客拠点に関する条件が明文化されていない、長尺物は長尺物同士でしか積載できないといった、現場では自明の制約が存在する場合は、決してアルゴリズムだけでルートを決めることはできない。
これらは厳密には「可視化」の範疇に含まれるが、配車最適化の検討を進める段階になって初めて顕在化することが多い。このようなケースでは逆に、すべての制約をルールに落とし込むのではなく、過去の実績データの側から配送が可能だったパターンを推定・蓄積していくといったアプローチが考えられる。
在庫配置の最適化は、輸送コスト・保管コスト・欠品リスク等のバランスをどう取るかという取り組みが主になる。ECを例に取るなら、事業の規模にもよるが、在庫を各出荷拠点に分散させれば概ね輸送コストは下がり欠品リスクも下がるが、保管や管理のコストは上がってしまう。一か所に集約すればその逆になる。
SKU数が多くなり、拠点が複数になるほど、最適解の判断は難しくなる。「各拠点での出荷完結率を高めたい」という意図から各拠点に多品種の在庫を分散配置した結果、高回転品の在庫が不足したことで却って出荷が滞り、横持輸送も増えてしまうという本末転倒な状況になることさえある。
この場合、商品の回転率に応じて在庫拠点を層別化し、感覚ではなくデータに基づいた在庫配置の再設計を行うことで、こうした問題に対応することができる。
物流ネットワークの最適化では、需要データと拠点データに基づき、倉庫から配送先に届くまでの最適な拠点の組み合わせをシミュレーションで探索し、実際の配置を検討していく取り組みが中心となる。拠点統廃合を検討する際には、統合後の拠点において工程ごと・時間帯ごとの業務量がキャパシティを超えないか、変動時にどこまで吸収できるかを事前に検証し、効率化だけでなく、災害や需要変動に耐えうる冗長性(レジリエンス)も事前に確かめておく必要がある。取り組み期間が長期にわたり投資規模も大きいため、入念なプロジェクト進行が成功の要となる。
可視化によって販売実績や在庫推移が蓄積されれば、これらをもとに将来の需要を予測し、在庫水準を動的に見直すことができる。具体的には、過去の販売実績に加え、天候や販促キャンペーン、価格改定といった外部データを組み合わせて需要予測モデルを構築し、その結果をもとに安全在庫や補充点を自動で算出する。
需要予測の手法は、移動平均や指数平滑といったシンプルな統計モデルから、機械学習やAIを用いた高度なモデルまで幅広い。CLOが押さえるべきポイントは、モデルの種類そのものではなく、「どの粒度(SKU単位かカテゴリ単位か)で予測するのか」「どのタイミングで予測を更新するのか」「予測結果をどのような在庫ポリシー(補充点・ロットサイズ・安全在庫係数)に反映するのか」といった設計方針である。
さらに、需要予測と在庫最適化の結果を自動発注システムやサプライチェーンプランニングツールと連携させることで、「何を・いつ・どこに・どれだけ置くか」という意思決定を半自動化できる。第5回で紹介した「需給ギャップ・マトリクス」において、不確実性が高い右側の事業群では、このようなDXアプローチにより予測精度と在庫水準の両面からリスクをコントロールしていくことが、CLOに求められるデジタル処方箋となる。
どの領域の最適化においても、最も注意すべきは、ツールやアルゴリズムの導入自体をゴールにしないことだ。シミュレーションやアルゴリズムが出した結果は、あくまでオペレーションを改善するための一つの材料にすぎない。その材料を誰がどう判断し、どう活用し、どのような効果を得るか。そこまで考えて初めて最適化を行ったと言うことができる。
4.標準化
これまで説明してきた可視化と最適化とは別に、得られた成果を全社・サプライチェーン全体で定着させるうえで欠かせないのが標準化だ。標準化には大きく3つのレイヤーがある。「データの標準化」「業務の標準化」そして「物理的な標準化」だ。
データの標準化はイメージが容易だろう。社内で完全に異なるデータフォーマットが乱立しているケースは多くないだろうが、新設した拠点や特定の商品群だけ別のコード体系になっているといった状況は存在する。こうした場合、業務改革を進めるほどにあらゆる業務で二重入力や二重管理が発生してしまい、かえって効率を損なうおそれがある。部分的にデータの変換を挟むなどの対応は仕方がないとしても、現場作業員が2種類のハンディターミナルを持ち、現場責任者が2つのソフトウェアで在庫を管理するような状況は避けるべきだ。
次に業務の標準化だ。この中には納品時間帯の指定ルールや検品の手順、伝票フォーマットの共通化などが含まれる。同じシステムを使っていても、作業者や拠点ごとに入力ルールが異なっている場合、表面上は同じ項目名であっても、実質的に異なるものを見ていることになってしまう。取得されるデータの品質が低いと、可視化や最適化をうまく進めることができない。業務マニュアルの整備や研修などを通じて、業務手順の標準化を推し進める必要がある。
最後に、避けて通れないのが物理的な標準化だ。一般にイメージされるシステムの範囲からは外れてしまうが、物流の場合はここが大きなネックとなることは少なくない。拠点によってパレットやロールパレットの規格が異なると、トラックへの積み付け、容器の保管や回送など、あらゆる面で考慮することが増えるだけでなく、かえって効率が低下してしまう。容器の切り替えは、物流ネットワークが複雑になるほど困難で、費用対効果を算出しにくい取り組みとはなる。それでも、中長期的な効率化や共同配送の可能性を広げるためには、段階的であっても統一していくことが望ましい。
社内での標準化を進めていくと、他社との標準化、すなわち共同配送などの検討が可能になる。この時に新たに問題となりやすいのが、欠品のリスクや積載枠の優先順位をどのように分担するかという、企業間のコンフリクト(利害対立)をどう調整するかという合意形成だ。業務ルールや輸送容器の標準化の道筋を示すことができても、この合意形成がまとまらないために共同配送が頓挫してしまうケースは少なくない。ここでは段階的に共同化のレベルを引き上げていくといった現実的なアプローチが求められる。
標準化と共同配送は自社単独では完結しない。だからこそ、サプライチェーン全体を俯瞰し業界他社や取引先との交渉を主導できるCLOが旗を振る意義がある。実際、改正物流効率化法等でも、各事業者が取り組むべき措置として物流データの標準化や関係事業者間での連携推進が挙げられている。CLOがサプライチェーン全体を俯瞰し、業界横断の標準化・連携を主導することが、制度面からも期待されている。
5.おわりに:
本稿では、CLOが物流改革を実行するためのシステムアプローチとして、可視化・最適化・標準化の三つのポイントを解説した。可視化でデータの土台を築き、最適化でデータに基づく意思決定へ転換し、標準化で企業の枠を超えた連携基盤を構築する。この三つのポイントを確実に押さえることが、持続可能な物流の実現に向けたCLOの実行戦略となる。
第5回で紹介した「需給ギャップ・マトリクス」は、事業ごとのサプライチェーンの構造的な病巣を可視化する診断ツールであった。これに対し、本稿で解説した可視化・最適化・標準化は、それぞれ「診断を高度化する」「需要予測や在庫最適化・ネットワーク設計といったDXの力で治療方針をデータから導く」「治療を全社・サプライチェーン全体に定着させる」ためのデジタル処方箋と位置づけることができる。CLOは、自社の事業ポートフォリオ上でリスクが高い象限から優先順位をつけて、どの処方箋をどの順番で打つべきかを設計していくことが求められる。
こうした取り組みは一度やって終わりではない。環境変化に応じて、KPIやデータに基づき継続的にPDCAを回し、改革を定着させていく必要がある。そのためには、CLO個人の力量に依存するのではなく、CLOを中心とした専門チームや関連部門が継続的に取り組みを推進できる組織体制の構築が不可欠である。次回(第7回)では、CLOを支える組織づくりと、そこで求められる人材について解説する。
プロフィール
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國藤 恭平のポートレート 國藤 恭平
産業ITコンサルティング部
物流事業会社のシステム担当を経て現職。物流領域を中心に、製造業・モビリティといった分野において、事業開発支援、業務・システム刷新計画、新システムの仕様策定・導入支援など、構想から実装まで幅広い範囲でのコンサルティングを手掛けている。
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齋藤 有史のポートレート 齋藤 有史
産業ITコンサルティング部
製造業のシステムエンジニアを経て現職。運輸、製造業等向けに業務改革、IT戦略、システム化刷新・計画などのコンサルティング業務に従事。近年は、物流改革・物流DXなどのCLOアジェンダを中心に、物流企業や荷主企業の変革を幅広く支援。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。