&N 未来創発ラボ

野村総合研究所と
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発酵とは何であるのか、発酵の定義・捉え方を体系的に整理するとともに身近な存在となっている発酵のポテンシャルや発酵食品だけではない発酵の存在について紹介する。
発酵の市場規模、発酵市場の動向やポイント、社会課題とその糸口やビジネスとして発酵を捉えた事業機会などを紹介・提言する。

発酵とは

発酵とは、微生物(カビ、酵母、細菌など)の働きによって、有機化合物(炭水化物やたんぱく質など)が分解・合成され、変化する現象で、保存性の向上や栄養価、風味など人間にとって有益なものの生産につながるため、かつてより生活の中で活用されてきている。他方、腐敗は、発酵と同じように微生物の働きによって人間にとって不利益なものを生産することを指す。
日本人にとって身近な発酵は食品であり、醤油、味噌、日本酒、ヨーグルト、パンだけではなく、昆布やかつおぶしなども発酵による産物である。
食品だけでも多岐にわたる種類があり、ワクチンや抗生物質など医療品、合成燃料や発泡剤など産業・工業向けの生成物もある。

革新的な技術の“精密発酵”

精密発酵(Precision fermentation)という発酵形態もある。
精密発酵は、発酵プロセスとバイオテクノロジーの最新技術を組み合わせることにより、有機化合物を分解・合成、結果として風味、成分、色などを変化させて、目的とする生成物を効率的に生産することを指す。発酵を行う微生物に遺伝子組み換えを施し、その微生物の代謝によって、例えばたんぱく質などの作りたい成分を生成する技術である。(例:たんぱく質ではなく、微生物の発酵を通じて代替肉を生成)
なお、熟成はその食品がもつ酵素の働きで物質が分解されることにより、旨味や風味が変化するもので微生物による変化ではない。

発酵の歴史

発酵の歴史をたどると、紀元前の新石器時代からの歴史があるという。
酒、チーズなどが始まりであるともいわれており、例えば、ワインであればコーカサス地方のジョージアがワインの起源ともいわれている。8000年の歴史をもつワインは太古からの発酵技術である。ワインのみならず、宗教行事などを目的とした酒も発酵によって作られたものであり、古い歴史をもつ。
日本でも古事記にヤマタノオロチの退治に「八塩折の酒(やしおりのさけ)」が使われたことが記されている。
チーズは、メソポタミアから広まったといわれており、アラビアの民話では羊の胃袋で作った水筒に乳をいれてラクダにくくり、高温の砂漠を移動していた商人がのどを潤そうと思った際に白い塊が出てきたのがチーズの始まりだといわれている。
偶然の産物として発生・発見された発酵であるが、保存技術としてスタートしたと考えられる。

また、発酵の大きな転機として、19世紀のフランスの化学者・細菌学者であるパスツールの研究がある。当時、アルコールは化学的な分解現象だと考えられていたが、パスツールは酵母という微生物の活動による現象であることに気が付き、発酵の本質を化学的に証明した。また、パスツールは、目に見えない細菌が、病気や腐敗の原因であるということも発見し、世に知らしめた。そして、「ワクチン」や「殺菌」によって人類を感染症の恐怖から救う方法を考えた。

近代になり1930年代ごろから、工業用としての発酵が使われるようになった。発酵がビジネスの技術として使われ始めたのは、発酵の歴史に比べると最近の話である。

では、発酵を、微生物の種類、原材料・素材別、工程別など、それぞれの視点で整理してみる。

発酵の捉え方 その1 微生物の種類

微生物(カビ、酵母、細菌など)それぞれの特徴や代表的な生成物の例などから整理する。
大きさは、細菌<酵母<カビの順であり、その順で以下に記載する。

  • ■ 細菌・バクテリア(乳酸菌、納豆菌、酢酸菌)
    球菌・桿菌・らせん菌などの形状の菌がある。分裂して増える特徴がある。
    生成物としては、ヨーグルト、キムチ、納豆、酢などがあげられる。
  • ■ 酵母(パン酵母、ビール酵母、イースト菌)
    真菌類の一種で、ブドウ糖をアルコールと炭酸ガスに分解する特徴がある。
    生成物としては、ワイン・ビール・パンなどがあげられる。
  • ■ カビ(麹菌、カツオブシカビ、白カビ、青カビ)
    糸状の構造を持つ真菌類である。菌糸を伸ばし増殖する特徴がある。
    生成物としては、酒(日本酒、清酒)、味噌、かつお節(本枯節)、チーズなどがあげられる。麹菌は日本特有のカビで、蒸した穀物で麹菌を繁殖させるなどして利用される。
    麹菌は、でんぷんを糖に分解し、たんぱく質をアミノ酸に分解する。

味噌、醤油、米酢、日本酒は、細菌・酵母・カビ(麹菌・酵母菌・乳酸菌・酢酸菌など)のいずれも発酵に関与している発酵食品である。日本の伝統的な食品は発酵の力を十二分に活用している食品であると考えられる。

図 微生物の種類別の発酵

図 微生物の種類別の発酵

出所:NRI作成

発酵の捉え方 その2 原材料・素材別

発酵を原材料・素材別で捉えると、穀物や野菜など植物を原料とするものや魚・肉など動物性の素材を原料とするものなどがある。
発酵食品を原材料・素材別に整理すると、身近な食品が多くあり、発酵によってつくられているものが多くあることを把握できる。

図 原材料・素材別の発酵(主に食品)

図 原材料・素材別の発酵(主に食品)

出所:NRI作成

発酵の捉え方 その3 工程別(発酵の工業的な活用)

発酵における生産プロセスを整理すると、大きく「上流工程」と「下流工程」に分けられる。精密発酵の工業的な活用や複数社での連携による取組について紹介する。

図 発酵における生産プロセスと関連する企業の特徴

図 発酵における生産プロセスと関連する企業の特徴

※大手メーカー等では上流工程・下流工程を対応しているところもある。

出所:NRI作成

上流工程とは、微生物の増殖と発酵活動を通じて目的物質を生産・生成することであり、微生物培養、発酵槽の操作、培地調整などである。発酵槽で微生物を培養し、目的の生成物を作り出すまでの初期段階全般を指す。上流工程は、下流工程である後の精製・製品化の品質と効率に大きく影響する極めて重要な部分である。
下流工程とは、生成された目的物質を抽出・精製し、製品化することであり、ろ過、遠心分離、精製、濃縮、乾燥、品質検査などがある。
大手企業やメーカーでは微生物の管理・開発から製品化まで一気通貫で自社対応している企業もあるが、微生物の設計や培養・発酵などは培養・発酵を専門とする企業やスタートアップなども多い。発酵を事業に取り入れていくためには、専門事業者やスタートアップとの連携、必要に応じて、当該事業者を支援するような取組も必要となる。
欧州ではすでに産産連携(異業種や異なる規模の企業の連携)・産学連携の取組が進んでおり、日本のアサヒグループ食品なども参画した取組がある。この取組では、腸内環境改善などの健康機能を持つ食物繊維を酵母により開発し、安全性・規制対応に加え、消費者の受容性まで検討し、食料供給まで目指すものである。
研究開発や設備投資、商用化やマーケティング、規格の策定など、事業化までの道のりが長くなるケースもある。スタートアップなど技術があるにもかかわらず資金調達に課題のある企業は、資本力のある既に流通網を有する大手企業と連携することが双方にメリットのある産産連携の例となる。また、1社の技術では開発できないことを複数社で連携することにより、規制対応や消費者への理解・受容性などの対応が実現できることも有意義な連携となる。

発酵の捉え方 その4 目的別

日本では、食をはじめとし、身近な発酵であるが、諸外国では技術・機能として捉えられていることもある。
発酵の起源ともいわれる、ワインやチーズなどを例とする保存に始まり、旨味、香り、色、体への吸収の向上などが発酵を行う目的としてあげられる。さらに、量産化、機能性(プロバイオティクス、抗生物質など)といった技術面で精密発酵が注目されている。

発酵の機能的な効果

  • 保存
  • 旨味
  • 香り
  • 体への吸収が良くなる など

発酵市場の規模と拡大する発酵産業

発酵食品が中心と思われがちな発酵市場は、発酵食品、発酵化学品、精密発酵、発酵原料など対象となる分野の範囲が広い。食品のみならず、医薬品や燃料など世界規模で見てもそれぞれかなり大きな市場になる。
発酵に関連する分野もあり、発酵技術や微生物の知財・特許など、今後急成長が期待される市場をどのように評価するのか、発酵の事業機会やポテンシャルをどのように測るかが市場を捉えるうえでのポイントになると考える。
多種多様な商材を含む発酵関連市場について、主要分野のおおよその規模感を足がかりに、市場全体の現状と今後のポテンシャルについて考察する。
発酵に関連する市場規模について、2025年時点で日本の発酵食品や飲料など450億ドル程度と推計されており、今後も拡大が期待されている。世界の発酵市場規模でも食品を中心に見てみると、ビール市場のみでも2024年時点で8,000億ドル程度あり、主にワインやヨーグルトなどの主要な発酵食品・飲料の市場のみでも2兆ドル超であると見込まれ、かなり大きなマーケットであるといえる。(出所:飲料主要メーカー各社、OIV(国際ブドウ・ワイン機構)、FAO、Brewer Associationなど公開情報よりNRI推計)
バイオ燃料は、石油などの化石燃料からの代替として環境配慮の観点から注目されている。バイオ燃料・バイオエタノールのマーケット規模は2025年時点で約2,000億ドルと推計される。(出所:IEA、OECD、FAOなど公開情報よりNRI推計 ※バイオ燃料市場は原油・石油市場動向や価格の影響を受けやすい)
医薬品においてもワクチンをはじめとし、精密発酵の技術は欠かせない存在である。医薬品は高単価な商材が多く、医療環境の向上による利用機会の増加など医薬品市場の拡大が見込まれ、発酵に関連する医薬品市場は2025年時点で約6,000億ドルの市場規模であると推計される。(出所:WHO、UNICEF、主要な製薬会社などの公開情報よりNRI推計)

発酵産業のポテンシャル

発酵市場は、食品を中心にすでに大きなマーケットが存在している。世界的な健康志向の高まりやウェルビーイングの観点からも発酵食品市場は拡大傾向にある。味噌やしょうゆなどの伝統発酵をベースとする日本食・日本の発酵食品の国内外からの注目が集まっている。さらに、腸活などプロバイオティクスへの関心が高まり、ヨーグルトなどの乳酸品も生きた菌が含まれる食品ニーズが引き続き市場を伸長させると考えられる。
クラフトビールブームやワイン、日本酒、ウィスキーなどの酒類など商品ジャンルの多様化に加え、プレミアム化による高付加価値商品も増えており、グローバルでの市場拡大が今後も期待されている。日常的に口にする身近な食品からワインやウィスキーなど投機目的でプレミアム価格のつく商材もあり市場規模は引き続き拡大が見込まれる。乳酸菌など知財としての存在も関心が高まっている。
また、代替肉などタンパク質クライシスの観点からも発酵技術を利用した関連市場が拡大している。

その他、昨今の中東情勢やホルムズ海峡の封鎖などを機に、自動車や航空・船舶分野でのバイオ燃料による化石燃料の代替、石油に由来するプラスチックからバイオプラスチック、化学肥料から乳酸菌などを活用したバイオ肥料への転換が顕著になってきており、その生成を支える発酵に注目が集まっている。
農業を主要産業とする国では、化学肥料の調達が難しくなると生産への影響が大きく、例えばインドでは既にバイオ肥料の国内生産など発酵を介する肥料へのシフトが始まっている。バイオ燃料に関しては、環境政策や規制などの影響を大きく受け、SAFの義務化、ブレンドの義務化が市場拡大の要因となっている。

医薬品やヘルスケア分野においては、コロナ禍で注目を浴びたワクチンも精密発酵により製造されている。新興国・後進国など医療環境が整うことにより、医薬品やワクチンなどの利用も高まり、数量増加や新薬の開発が進むことでの市場拡大が今後も予想される。
今後は、AIによる創薬の加速や遺伝子組み換え技術や細胞培養技術などの生物の機能を利用して製造される医薬品であるバイオロジクスなどの市場の成長が期待される。

図 発酵市場の拡大イメージ

図 発酵市場の拡大イメージ

出所:NRI作成

発酵が解決する社会課題やビジネスとしての発酵

ここまで発酵の定義や捉え方を整理し、発酵市場やポテンシャルについて説明してきたが、拡大する発酵市場をビジネスとして捉えて、事業機会を得ること。グローバルで見た際の日本の優位性などを考えながら、海外市場も見すえた収益性のあるビジネス化などを考える必要があることを提案する。
日本は、発酵食品が豊富にあり、身近な存在であるがゆえにビジネスとしての発酵というよりも人と共存する存在になっている。食や農に関連する事業者は、中小の事業者も多く、微生物の管理、開発や特許という観点でも課題がある。たとえばブルガリアでは、政府がヨーグルト菌である乳酸菌を管理しており、各国1社とのみ提携するなど菌の管理や菌のビジネスが確立されている。日本では、株式会社明治のみがブルガリアという国を名乗れるヨーグルトを製造・販売している。日本の伝統的な食品や食文化に加え技術を守るうえで、新たな微生物など品種改良や特許・管理など仕組みを構築しビジネス化につなげることも期待されるかもしれない。
気候変動や脱炭素、エネルギー安全保障の強化など社会課題に向き合うための発酵、地域の未利用資源を活用し食や観光など地域経済活性化・新たな産業の創出につながる発酵、国際競争力を高めビジネスを加速・強化するための発酵など、多種多様な産業で発酵に関わる事業機会が期待されている。発酵は、食品やバイオの域を超え、異業種連携によるプラットフォーム化や新規ビジネス創出など、市場に新たな価値創造をもたらす原動力となるだろう。

[参考文献・出所]

国連食糧農業機関(FAO)
経済協力開発機構(OECD)
国際エネルギー機関(IEA)
世界保健機関(WHO)
国連児童基金(UNICEF)
国際ブドウ・ワイン機構(OIV)
Brewer Association

プロフィール

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    谷口 麻由子

    コンサルティング事業開発部

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    大畑 毅志

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