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2050年の脱炭素社会実現に向け、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の普及が加速している。これまでのZEBは新築時や改修時に行う計算結果に基づく評価や認定が主であった。しかし適切かつ継続的な補修により、長い場合には100年以上にわたって使用されることもある建築物においては、気象条件や利用者数、経年劣化、エネルギー需給など複数の要因が複雑に影響し合う。そのため、エネルギー使用実績値においても確実にZEBが実現できていることが重要となる。本コラムでは、2026年3月に公開された「ZEBプラットフォーム」を取り上げ、エネルギー使用実績値データの見える化がもたらす意義と効果、今後の展望を解説する。
ZEBプラットフォーム(ZEB Platform)https://zeb-pf.sii.or.jp/top

建築物完成後(使用時)の省・創・蓄エネの必要性

2050年の脱炭素社会実現に向け、建築脱炭素化の中核を担うのがZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)である。ZEBとは、高断熱化や省エネ性能に優れた設備・システム、そして太陽光発電などの再生可能エネルギー技術の導入により、快適な室内環境を維持しつつ、建築物で消費する年間の一次エネルギー使用量の収支をゼロにすることを目指した建築物である。
しかし、これまでZEBの評価・認定は、主に設計値(建築物設計・改修時の計算による性能評価)に基づき行われてきた。そのため設計段階で優れた性能を持つ建築物であっても、実際に建築物が完成し運用が始まると、気象、テナントの利用状況、設備の稼働状況、あるいは経年劣化などにより、設計値と実際のエネルギー消費量(実績値)に乖離が生じることは少なくない。

建築物は完成して終わりではなく、法定耐用年数は数十年であり、適切かつ継続的な補修により長い場合には100年以上にわたって使用されることもあるストック資産である。そのため、運用時においてBEMS(ビル・エネルギー・マネジメント・システム)などを活用してリアルタイムにエネルギー消費を計測・分析し、無駄を省く「エコチューニング」や、設備の性能を最適化する「コミッショニング」を継続的に行う必要がある。
また、日々のエネルギー運用においては、単にエネルギー消費を減らすこと(省エネ)だけでなく、再生可能エネルギーによる発電(創エネ)と、その電力を蓄電池やEVに貯めて賢く使うこと(蓄エネ)を組み合わせた省・創・蓄エネの三位一体の対策が求められる。実績値を常に把握し、PDCAサイクルを回すことで、実績値としてもネット・ゼロ・エネルギーを実現し、維持することが可能となる。

ZEBプラットフォームの意義と効果

このような背景を踏まえて、実績値を軸にしたZEBデータベースとして構築されたのが、2026年3月に一般公開された「ZEBプラットフォーム(ZEB Platform)」である。経済産業省や環境省のZEBの補助金を活用する建築物は、計5年間にわたり、このZEBプラットフォームへエネルギーデータを取り込むこと(報告)が義務付けられる。

ZEBプラットフォームでは、BEMSから出力される設備区分別・建物用途別の一次エネルギー消費量や、電気・ガス等の二次エネルギー使用量、オンサイト・オフサイト型の再エネ設備に関する情報などが収集される。そして、収集されたデータは、投資家、ビルオーナー、テナントの目線に合わせて、可能な範囲でわかりやすく一般公開される。このプラットフォームの最大の意義は、エネルギー実績値の「見える化」によりステークホルダーの行動変容を促すことにある。

  • ビルオーナーは、所有する建築物の運用実績を同規模・同用途の建築物と比較することで、改修や運用改善のヒントを得ることができる。
  • 建築物に入居するテナントやユーザーは、公開されるデータに基づいて、省エネ性能が高く快適な建築物を選択できるようになる。
  • ESG投資家は、公開されるデータを、グリーンビルディングへの投資判断の材料とすることができる。

図1:ZEBプラットフォームの全体像

出所)NRI作成

関連事例(米国ニューヨーク市)

ZEBプラットフォームに類似する取組は、国内外で広がりつつあり、高い関心を集めている。例えばニューヨーク市地方法84号(及び改正法である133号)では、25,000 ft²(約2,320 m²)以上の建築物の所有者または所有者から委託を受けた管理会社に、エネルギー及び水の使用量の年次報告と開示を義務付けている。

手順は以下の通りである。まず、該当建築物の所有者または所有者から委託を受けた管理会社が、毎年5月1日までに、水及びエネルギー(電気、ガス、燃料油など)の消費量データと、建築物の特性データ(延べ面積、建物用途、稼働時間、占有率など)を、米国環境保護庁が提供するオンラインツール(ENERGY STAR Portfolio Manager)に入力する。入力された消費量データは、気象条件で補正され、単位延べ面積あたりのエネルギー消費原単位(Energy Use Intensity:EUI)として算出される。このEUIをもとに建物用途・気候が類似する建築物と比較され、1~100の相対的なスコア(ENERGY STARスコア)が算出され、市へ報告される。

なお、水及びエネルギーの消費量データに係るプライバシー保護のために、建築物全体・月別の集計データ(個別の使用量や個人情報が伏せられたもの)を、電力会社・ガス会社・水道局からデータ報告者に提供する仕組みが整備されている。また、負担軽減・入力ミス防止のために、ENERGY STAR Portfolio Managerにデータが自動的にアップロードされる機能が提供されている。

さらに、報告されたデータは市が保管するだけでなく、一般にも公開されている。

  • NYC Building Energy and Water Data Disclosure for Local Law 84:市の公式オープンデータポータルで、住所や建物用途ごとのEUI、ENERGY STARスコアなどが一覧化されており、自由に検索・ダウンロード可能である。
  • NYC Energy & Water Performance Map:市とニューヨーク大学が連携して作成したウェブサイトである。地図上で特定の建築物をクリックして、エネルギー消費量、EUI、過去からの推移などを視覚的に確認することができる。
  • 建築物の入り口での公開:報告されたデータをもとに算出されたエネルギー効率評価(A、B、C、Dでの段階評価)を、各建築物の入り口の目立つ場所に掲示することが、別の関連法(地方法33号及び95号)で義務付けられている。

25,000 ft²(約2,320 m²)以上の建築物に限定されてはいるものの、ZEB以外も含む建築物に対して市政府の法律で義務付けまで行われている点は特筆すべきである。

関連事例(東京都)

東京都では、キャップ&トレード制度の対象事業所(前年度の燃料、熱、電気の使用量が原油換算で年間1,500kL以上に相当する、約1,200の大規模事業所)から提出された情報を活用し、CO2排出量や床面積当たりのエネルギー使用量の推移、都内の平均値や上位レベルとの比較、再生可能エネルギーの利用割合などを可視化するダッシュボードの運用を、2025年10月に開始している。
本事例では、都条例に基づくキャップ&トレード制度自体が2010年度から運用されており、長い年月をかけて蓄積されてきた情報や取組実績を活用して、2025年にダッシュボードによる見える化が実現した。情報の収集方法についてはZEBプラットフォームとは異なるものの、ダッシュボードとしての見える化項目やZEBプラットフォームの今後の発展方法を検討するうえで大いに参考になる事例である。

図2:東京都の事例(キャップ&トレード制度・ダッシュボード)

出所)東京都環境局公式サイト「「東京都キャップ&トレード制度・ダッシュボード」の使い方」

ZEBプラットフォームの利用拡大と目指す将来像

現在、ZEBプラットフォームの主な対象は補助事業に採択された建築物であるが、今後、適用範囲を拡大していく方針が資源エネルギー庁により示されている(経済産業省資源エネルギー庁『ZEBの普及促進に向けた今後の検討の方向性について』)。
短中期的には、国や地方自治体が所有する公共建築物において率先してZEBプラットフォームへの報告・開示を進め、業界内のモデル建築物や現存するZEBへと網羅範囲を広げる。さらに中長期的には、関連する報告制度などとの連動を図り、ZEB以外の一般の建築物も含めてデータを網羅し、エネルギー削減及びCO2排出量削減につなげることを目指している。

この実現には、ZEBプラットフォームの機能拡張とインセンティブの強化が重要となる。例えば、実績値の観点で優れた建築物を国の表彰制度と連携させて賞賛する仕組みや、改修・設備更新の効果を可視化する機能の実装などである。さらには、BEMSによるエネルギー情報の収集だけでなく、収集負荷と有用性の両面を考慮した新たな収集方法を検討する必要性が挙げられている。

おわりに

2050年の脱炭素社会実現に向け、設計性能としてのZEBを普及させる取組に加え、運用時の「実績値」でZEBを普及させることも必要である。このためには、設計・施工者に加え、ビルオーナー、利用するテナント・ユーザー、ESG投資家、コミッショニング・エコチューニング・改修事業者などに情報を公表して、必要な対策・選択・投資等を行ってもらうことが必要となる。
ZEBプラットフォームはまだ発展途上であり、今後の進化と拡張が期待される。

プロフィール

  • 出口 満のポートレート

    出口 満

    社会システムコンサルティング二部

    大学時代に熱中したグリーン建築を社会に根付かせるべく、2012年にNRI入社。
    入社後は建築・都市の脱炭素・グリーントランスフォーメーション(GX)制度設計・社会実装のほか、行政のデジタル変革・データプラットフォーム構築に領域を拡げる。主に中央省庁や自治体のお客様に対して、政策立案から実行支援までの一気通貫の伴走、官民連携の橋渡し等の価値を提供してきた。
    また、NRIのキャリアにおいて、台湾拠点への駐在や経営コンサルティング部門の採用担当を経験しており、グローバルな視点でのリサーチ力や組織・人材開発の知見も蓄積してきた。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。