&N 未来創発ラボ

野村総合研究所と
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1. はじめに

DXの達成は、企業において重要な経営課題となっています。一方で、「成果を得るために、投資と組織変革をどのように進めるべきか?」 という問題に悩む企業も少なくありません。このような背景から、弊社では毎年「IT活用実態調査」を実施し、日本企業のIT活用とデジタル化の実態を調査・分析しています。

先日開催したウェビナー 「日本企業のIT活用とデジタル化2025」 では、最新の調査結果をもとに、こうした課題に対する考察を行いました。本記事では、そのエッセンスを簡潔にご紹介します。

※分析結果や考察の詳細については、アーカイブ動画をご覧ください。

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2. 日本企業のIT投資の現状と成果を生むポイント

IT投資は増えているが、それだけで変革につながるわけではない

近年、日本企業のIT投資は増加傾向にあります。本調査の結果でも、半数以上の企業がIT投資の増額を予定していることがわかりました。

一方で、IT投資が多ければ、それだけ変革が進んでいるというわけではありません。「IT投資の増額」ではなく、「投資の中身」をどのように最適化していくかが問われます。

成果を分けるIT投資の管理

IT投資から成果を得るためには、IT予算の「内訳」を管理することが重要です。

調査結果から、企業がIT予算の多くを「ビジネスの維持」に割いており、「ビジネスの変革」への投資割合は少ないことがわかります。

しかし、IT予算の内訳を管理して計画的な改善を行っている企業では、ビジネスの変革に投資する割合が高いことがわかります。システムの維持やセキュリティの確保にとどまらず、新しい価値創出や競争力強化につながるIT投資を積極的に行っているということになります。

企業がDXを成功させるためには、支出の内訳を管理し、改善していくことが重要だと言えます。

※詳細なデータや分析結果については、アーカイブ動画をご覧ください。

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3. デジタル技術導入の進展と課題

デジタル技術の導入は進むが、活用には課題も

本調査では、新技術の導入状況についても定点観測を行っています。調査結果から、業務プロセスの効率化やオフィスワークの生産性向上に寄与する技術は、普及のスピードが早い傾向にあることがわかります。RPAは多くの企業が導入しており、生成AIの導入率も前年から大幅に伸びています。

  • 普及が進んでいる技術:
    RPA、ノーコード・ローコード開発(業務自動化や省力化に直結)
    生成AI(特に文章作成・要約、情報探索などの用途)
  • 普及が足踏みしている技術:
    生成AI以外のAI・機械学習(判別・予測モデルや最適化)

デジタル活用を阻む人材・スキルの課題

AIの活用やデータ分析などの領域では、スキルを持つ人材の不足が課題となっています。調査結果から、日本企業が人材を確保する上で、それらの人材をどのように処遇するかが課題となっていることがわかります。

企業がDXを進める上では、単に技術を導入するだけでなく、スキルを持つ人材を適切に評価する仕組みを整えることが求められます。

※詳細なデータや分析結果については、アーカイブ動画でご確認ください。

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4. DXの成果を得るためのマネジメントと組織改革

DXの成功には、長期の視点が必要

調査結果から、DXへの取り組みが長い企業ほど、そこから定量的な成果を得ていることが明らかとなっています。特に、顧客に対する活動のデジタル化や業務プロセスのデジタル化では3年以上、ビジネスモデルの変革では5年以上の継続が成果につながるという傾向が見られます。

DXは単なるシステム導入ではなく、組織の業務プロセスや企業文化の変革を伴うものであるため、短期的なROI(投資対効果)だけで判断せず、長期的な視点で取り組むことが重要です。

経営層のデジタル化への関与 – 「決裁中心」の構造

本調査では、IT投資やデジタル化への経営層の関わり方についても尋ねています。日本企業の傾向として、経営層の関与は確認と決裁が中心で、自ら必要性や方向性を示す経営層は少ないことがわかりました。

調査結果から、経営層の関わり方がDXの成果を左右することも明らかになっています。確認と決裁を主な役割とする場合、定量的な成果が得られる割合が平均と変わりません。一方で、経営層がプロジェクトや戦略の必要性、実行・推進について自ら指示を出している企業では、成果が得られている割合が高いことが確認されています。

DXの成果を生む経営層の関与とは?

「なぜ経営層が積極的に関わることが重要なのか」という理由の一つに、投資判断の難しさがあると考えられます。

デジタル化の投資判断については、過半数の企業が、「効果を金銭的な価値で測ることが難しい」、「初期に効果を予測することが難しい」と回答しています。顧客体験の価値向上や事業そのものの変革は、不確実性が高く、厳密な効果を予測することが難しいため、現場からのボトムアップ型決裁のアプローチでは対応が難しいのです。

また、成長力のある企業は以下のような特徴があることも明らかになっています。

  • 専門職の評価を適切に行い、スペシャリストを重視している
  • 人材の流動性・多様性が高い

さらに、変化とスピードを重視する組織文化を持つ企業では、IT投資が業績に結びついているということもわかりました。

今後、DXを成功させるためには、経営層がITに主体的に関与し、組織の変革を主導していくことが求められるでしょう。

※詳細なデータや分析結果については、アーカイブ動画でご確認ください。

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5. 日本企業のDXを成功させるために

本調査を通じて、日本企業がDXを進める上での重要なポイントが明らかになりました。

  • IT投資の増額だけでは十分ではなく、「予算を何に配分するか」が重要である
  • 戦略的な技術活用を進めるためには、スキルを持つ人材の評価と処遇が必要である
  • 成功している企業では、経営層がITに積極的に関与しており、変化とスピードを重視する風土がある

日本企業のDXを加速させるためには、「投資の最適化」「人材の処遇」「経営層のリーダーシップ」の3つの視点が鍵となります。

企業がこれらの課題をどう克服し、DXを成功へと導くのか? アーカイブ動画では、調査データをもとに、詳細な分析を行った結果を解説しています。また、将来への展望として、企業でITに取り組む役職者の皆さんがどのようなことに関心があるのかを自由形式で質問し、そこから読み取れる内容をまとめています。ぜひご覧ください!

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プロフィール

  • 有賀 友紀

    システムコンサルティング事業開発室

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。