企業の持続的成長は「経営リレー」として見るべきでは?
企業の「持続的成長」が注目されていますが、社長ごとの経営成果を見るのではなく、代々の社長による継続的な成果で評価すべきではないか、という問題提起があります。歴代社長の経営を「経営リレー」と捉えたNRIの調査により、大きく企業価値を上げた社長が長く走るほど、バトンパスに失敗していることがわかったからです。
「経営リレー」の成果で社長を評価すると
日本の巨大企業の過去30年間に在職した社長の成果を見てみましょう。NRIは、その成果を企業価値(株式市場の相場の影響を除く相対時価総額)で測って調査しました。
図1では、横軸に社長の在職期の企業価値の増減、縦軸にその在職年数を表しています。これを見ると、長期在職の社長ほど大きく企業価値を向上させているように見えます。
ところが、こうした社長ごとの成果ではなく、代々の社長による「経営リレー」の成果を見ると、その評価はまるで変わってきます。
図2、3では、横軸に社長在職中の企業価値の増減、縦軸にはその社長の次世代(1代後・2代後)の企業価値の増減を表しています。つまり右上の象限に分布する社長は、自身の在職期も次世代も継続的に企業価値を向上させており、「経営リレー」に成功しています。それに対して、右下の象限に分布する社長は、自身は企業価値を上げたものの、次世代では企業価値を下げることになり、「経営リレー」としては失敗しているのです。
特に、縦軸の次世代を2代後までの成果で見た図3では、自身の在職期には大きく企業価値を上げていても「経営リレー」には失敗する傾向がより強くなることがわかります。
「データからは、大きく企業価値を上げた長期在職の社長ほど、次世代で企業価値を下げていることがわかります」と、調査を担当したNRIの松田真一は語ります。
「経営リレー」の成否の鍵を握るのは経営陣の「在職構造」
この調査結果だけを見ると、社長の長期在職が問題のように思えますが、松田は異なる見解を持っています。「私がこれまで様々な企業の経営の現場に立ち会ってきた経験から、『経営リレー』がうまくいくかどうかは、経営陣の『在職構造』、つまり社長と幹部経営層の在職タイミングの組み合わせの違いにある」と松田は言います。そして、社長から数えて5~6人目までの階層までを幹部経営層と見なして分析した結果、「経営リレー」の成否を左右する2つのメカニズムをデータで実証しました。
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祟るメカニズム:
社長の在職期間に幹部経営層を次々と入れ替えて、社長だけに経験値が溜まる在職構造は、次世代の企業価値を毀損する -
託すメカニズム:
社長と幹部経営層が在職期間を共有して、「経営陣としての経験値」が高まる在職構造は、次世代の企業価値を継続的に向上させる
つまり「経営リレー」の成否の鍵は、社長在職年数ではなく、経営陣の「在職構造」にあるにあるのです。例えば、米国のGE(ゼネラル・エレクトリック)のイメルトCEOは、在職年数15年を超えていますが、同時に在職年数10年超の経営幹部層に支えられており、GEの「経営陣としての経験値」の水準は高く維持されています。これがGEの持続的成長、すなわち「経営リレー」を支えているのです。
巨大企業の「経営リレー」の責任は重い
もちろん、「経営リレー」よりも自身の在職期の成果に重点を置くことが求められている経営者も数多くいます。また、幹部経営層を次々と入れ替えて社長の求心力を高め、企業価値を上げるのも一つの経営スタイルでしょう。しかし「とりわけ巨大企業の経営者は『経営リレー』する責任が重い」というのが松田の主張です。
図4のように、日本の巨大企業上位100社は、上場企業の売上、従業員数、時価総額でいずれも50%に及んでいます。これらの企業が、社長交代に伴うバトンパスに失敗することは、日本経済に大きな影響を及ぼすだけでなく、多くの失業者を生み、公的年金を含む株式運用に打撃を与えることになります。巨大企業が「経営リレー」を成功させるために取り組む責任は極めて重くなっていると言えます。
松田は、経営リレーを重視する経営者の取り組みに「経営陣開発」と呼ぶべき3つの共通点があることも指摘しています。具体的には、図5のように、社長と在職期間を共有する幹部経営層の登用のほか、経営陣の非公式の議論の場を設けていること、次世代の「経営陣」を見極めて経営継承していることを挙げています。
企業の持続的成長を「経営リレー」として見るべきとの問題提起は、経済紙や機関投資家からも注目され始めています。今後、企業の持続的成長を占う視点として、各社の「経営陣開発」の取り組みに着目してみてはいかがでしょうか。
詳しくは、NRI発行の機関誌『知的資産創造』掲載の「経営リレー」論( 前編・2016年10月号 / 後編・2016年11月号 )をご覧ください
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