AI時代に求められる豊かな個性と人材のダイバーシティ
NRIは、日本の労働力不足の解決に向けて、AI活用の研究を進めています。AI活用の時代には、豊かな個性と、そうした人材を活かすダイバーシティが求められてきそうです。
日本の労働人口の49%が就業する職業でAIが代替可能と予測した意味
少子高齢化が進む日本は、近い将来、労働力不足に直面します。NRIはこの解決策を探る一環として、AI(人工知能)やロボット活用のあり方を研究しています。2016年には、日本国内の601の職業を分析し、10~20年後には日本の労働人口のおよそ49%が就いている職業において、技術的にはAIやロボットで代替可能という結果を発表しました。 (発表レポート)
この結果だけ見ると、「大半の仕事がなくなり、私たちは失業してしまうのではないか」と不安になります。しかし研究に携わったNRIの上田恵陶奈は、一つの職業の中の全ての仕事がAIに置き換わることはあり得ないと断言し、次のように説明します。
「AIは決して万能ではありません。『創造性』があって『コミュニケーション』が必要で『非定型』な仕事はAIでは代替できません。いきなり職場がデジタル化して、全ての仕事がAIやロボットに取って代わることもありません」
一つの職種に求められる仕事の内容はさまざまです。例えば、代替可能な職種の一つに挙がった銀行員も、書類のチェックや、伝票などを「正確に処理できる」能力などはAIに代替されていくでしょうが、顧客の相談に応じたり、顧客に合わせて資産運用の提案をしたりすることはAIにはできません。
「こうした付加価値の高い仕事を、人が担わなくなることはありえません」と上田は言います。
AI時代に求められる豊かな個性
人間とAIの役割分担と、そのための働き方環境の整備が、これからは重要になりそうです。私たちに求められる職業能力も変わってくるでしょう。上田はAIを活用する時代の社員像について、次のように考えています。
「日本企業の多くは、何でもできるゼネラリスト人材を採用・育成してきました。しかし、ゼネラルな仕事の多くは今後AIが代替していく。これから求められるのは、新しいものを創る(創造性が豊か)、説得して人を引っ張っていける(コミュニケーション力に長ける)、マニュアルにないことに対応できる(非定型な仕事ができる)人たちです」
能力の何か一つでも尖っている、そんな個性豊かな多様な人材が求められるようになると上田は考えています。
今までの評価軸とAI時代の評価軸
AI時代に求められる人材のダイバーシティ
人事マネジメントや評価の方法も変える必要があると上田は指摘します。 「これまでの人事評価の多くは、ミスをすれば評価の下がる減点主義でした。しかし、AIを活用する時代には、何か一つでも尖ったものがあれば評価される加点主義になると考えています」
AIにはできない、個々人が持つスペシャルな能力の発揮が必要になる、というのです。さらに上田は続けます。
「実はAIを活用するには、ダイバーシティの考え方がとても重要です。日本ではダイバーシティというと、女性の活躍などがフォーカスされますが、これからのダイバーシティは、人々が持つ多様な価値観とそこに紐付く能力をどのように認め、活かしていくかになります。AIを活用するには、このダイバーシティの実践が欠かせないのです」
人それぞれの価値観を認める
日本の労働力不足の代替手段として、AIのほかにもう一つ挙がっているのが外国からの人材です。しかし、能力ある海外の人たちに日本で活躍してもらうにも、やはり、多様な価値観と能力を受け入れ、活用していくマネジメントや仕組みが必要です。つまりAIの活用にも、外国人に活躍してもらうにも、人材のダイバーシティが重要になるのです。
多くの人間を同じ指標で測るのではなく、それぞれの価値観を認めて能力を活かしていくこと。それがAI活用への第一歩であり、日本の労働力不足解決への道となりそうです。