WOWOWの「深い顧客理解」を「感動」に変える仕組みはどのように創られたか
株式会社WOWOWは、顧客データマネジメントプラットフォーム「WOWOW DMP」を構築し、2016年11月から運用しています。NRIとNRIデジタルはコンサルティングからシステムソリューションまでこの仕組みづくりをご支援しました。これまでにない「深い顧客理解」を実現したWOWOW DMPはどのように生まれたのか。両社の担当者に話を聞きました。
総合エンターテインメント・メディアグループとしての武器
データを活用して顧客との関係をつくるデジタルマーケティングの広がりとともに、さまざまな顧客データを集約して管理する「DMP(データマネジメントプラットフォーム)」を導入する企業が増えています。そうしたなかで、WOWOW DMPが構築された経緯をたどると、いくつか特長が見えてきます。
一つは、同社におけるDMPが経営戦略のなかに明確に位置づけられている点です。有料放送メディアとして成長を続けてきたWOWOWは、2020年までの経営目標として「総合エンターテインメント・メディアグループ」への進化を掲げています。従来のテレビだけでなく、ネットやリアルの領域においても、良質なエンターテインメントを創り出し、顧客に届けていく。「その進化への武器がWOWOW DMP」と、同社マーケティング局データマーケティング部の根田雄生さんは言います。
「会員制メディアであるWOWOWにとってもっとも重要なことは、いかにお客さまを深く理解するか、です。私たちの強みは、昔からWOWOWを楽しんでくださっている280万契約のお客さまと、魅力的なコンテンツを創り出す力だと思っています。多様な領域で事業を広げ、喜ばれるエンターテインメントをお届けするなら、まずは個々のお客さまに寄り添い把握することが大切だろう、と。そこで、お客さまのさまざまなデータを統合的に分析するDMP導入を決めたのです」
AI・機械学習の手法を使って顧客の「熱量」を捉える
特長のもう一つは、DMPにWOWOWの独自性を持たせるためにこだわった、顧客の「熱量」を捉える仕組みです。熱量とは何でしょうか。根田さんは説明します。
「WOWOWのお客さまは、私たちが提供するさまざまなサービスや接点を通じて、WOWOWに愛情を抱いてくださっています。この想いを、新たな指標として表したのが熱量です」
以前のWOWOWでは、顧客アンケートなどの個別データでお客さまをとらえていました。しかし、それはお客さまの一面でしかなく「物足りなさがあった」と根田さん。現在はDMPによって、従来データに加え、ウェブサイトへのアクセス、オンデマンドサービスの再生ログ、メルマガの開封履歴、プレゼント応募履歴など、個別に認識されていた様々なデータを統合し、お客さまの熱量を総合的にとらえています。
例えば、WOWOWのお客さまを「視聴・サービス接触時間」と、映画やスポーツなどの「視聴ジャンルの幅」で分析して熱量を測ったところ、「視聴ジャンルの幅」の広さが熱量向上に影響することがわかりました。
最新のAI・機械学習の手法を使って分析とDMPの設計を行ったNRIデジタルの有川は話します。「単にAI技術を使うだけでは不十分でした。WOWOWの皆さんの実務面の知見を反映させることで熱量を定義できました」
2017年3月には、以前に解約したお客さまに、過去の視聴履歴などのデータから嗜好別に再加入を促す施策に活用しています。営業部署からデータマーケティング部に異動してきた大原春佳さんは、DMPの情報を初めて見たとき「データを通してお客さまを捉える視点が新鮮だった」と言います。
「番組視聴を目的にWOWOWに加入されたお客さまが、どんな番組を視聴したら利用を続けてくださるのか、逆に何を視聴しなければ解約されてしまうのか、今後のお客さま接点での施策に活かせると理解しています」
WOWOWメンバーと気持ちを一つに
WOWOW DMPの構築はNRIとNRIデジタルが支援しました。DMP検討が始まったのは2014年7月。NRIはこの段階から、コンサルタント、データサイエンティスト、システムエンジニアからなる多様なスタッフが同社の現場に入り込み、検討に加わります。
「WOWOWの強みはどこにあり、お客さまにどのように思われているのか。またどんな想いで番組を放送しているのか。さまざまな部署から参加されている検討メンバーの皆さんとのディスカッションを通じて把握させていただきながら、WOWOWにおけるDMPの位置づけや活用方法などを解きほぐしていきました。『熱量』という指標もこのとき生まれました。さらにDMP導入後もWOWOWのビジョン実現のためにお客様と一緒に並走しています」とNRIデジタルの中村は話します。
根田さんは、NRIに支援を依頼した当時を振り返り、「このプロジェクトは、全社を動かす難しい取り組みだと理解していました。そのため、技術やコンサルティング内容の確かさはもちろん、私たちと気持ちを一つにして動いてもらえるかが重要でした。NRIは、WOWOWを理解し、私たちメンバーと一緒になって検討に加わってくださった。それがとても印象的です。また、物流やメディアなど多様な業界での支援経験が多いNRIなら、放送局という業態を理解したうえでDMPの導入・活用を提案してもらえると期待した」と話します。
今後は外部パートナーとの連携にも活用したい
WOWOWでは今後、DMPの機能をさらに向上させていく考えです。根田さんは話します。
「最近は、ネット動画配信サービスを提供する事業者が増えたこともあり、競争環境が厳しくなっています。WOWOWは、お客さまの熱量を把握することで、お客さま個々に感動いただけるエンターテインメントをお届けできるよう、精度を上げていかなければなりません。楽しいことをたくさん提案してくれる、気づかせてくれる。DMPの活用によって、そんなメディア企業になることを私たちは目指しています。既存のお客さまとの関係を強化しつつ、いずれは新しいお客さまの獲得や、お客さまに喜ばれる番組プロデュースにも、WOWOW DMPを活用したいと思っています。今後、DMPの外部パートナーとの接続性を高めて自社サービスやコンテンツの進化を目指すにあたり、会員ビジネスやコンテンツ開発の面で協業していただけるパートナー企業を積極的に探しているところです」
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