DXがもたらす未来(後編) ~経済圏連携で新しい価値を創造する
デジタル・トランスフォー メー ション(DX)によって、自社内の変革に留まらず、業界の垣根を越えた新しいサービスやビジネスが生まれてくる可能性があります。グローバルにも通用する日本発の新しいビジネスモデルの可能性はどこにあるのか。KDDIデジタルデザインの桑原康明社長と立松博史副社長に再び話を聞きました。
「経済圏」連携で顧客理解を深める
――前回、両社の顧客基盤に基づいた「経済圏」というキーワードが出てきましたが、これはDXによる新しい価値創造にどのように関係するのでしょうか。
桑原:前回私は、法人個人合わせて5,000万契約のお客さま基盤のことを、「経済圏」という言い回しで表現しました。経済圏には「重力」があり、その重力の源泉となるのがビッグデータです。ビッグデータをうまく活用して、異なる経済圏の連携を機能させると、様々なプレーヤーがそこに集まってくるようになります。逆に、連携がうまくできていないと重力どころか世界的に遅れてしまう。今はそういう構造になっているのではないかと思っています。
その点、KDDIの経済圏には、数十万社にのぼる多種多様な業界の法人顧客がいますので、各企業がDXを実践していくに当たって連携していけるものと思っていますし、重力が創れるのではないかと思います。
立松:企業は事業を通じて様々な顧客情報を収集しているのですが、自分の事業と直接関係のない部分の顧客情報というのは分からないことだらけなのです。たとえば、自動車メーカーは顧客が自動車に乗っている時に何をしているかについての情報は様々なものを持っていますが、自動車に乗っていない時に何をしているかについては把握できていません。しかし、今後は自動車に乗る顧客が自動車以外に何に興味・関心を持っているかを把握し、新たなサービスにつなげていかないとCXを高めることができなくなります。一方、そうした情報を持つ企業と結びつけば、お互いに今まで自社では知りえなかった顧客情報を共有し、分析し、より高いCXを提供できる可能性があります。これが経済圏の連携による新たな価値ということでしょう。
組むべきパートナーの見極めがカギ
――経済圏の連携において、日本企業が重視すべきことは何でしょうか?
桑原:連携することで顧客への提供価値が本当に高まるかどうか。双方Win-Winになる構想が描けるかどうか。そういうパートナーかどうかを見極めることが重要でしょう。また虎の子である双方の顧客資産を連携させるわけですから、実行段階にいくにはそれなりの覚悟も必要になります。
立松:多種多様な業界・企業と経済圏連携をしていく中で、自社のレガシーを捨てなければならないこともあります。欧米流のマネジメントであれば、バッサリと切って売り飛ばせばいいのですが、それを日本企業はできないし、やるべきでもない。欧米企業のスピード感からすると遅くなってしまうのですが、日本企業ならではのやり方があるはずです。特にCX向上という観点では、日本企業はCXに対する意識が高いので、異なる企業間でも同じ目線で同じ方向に進めるところがヒントになると思います。
自社単独のDXから、業界全体に影響を与える真のDXへ
――最後に、これからDXに挑もうとする企業にアドバイスをいただけますか。
立松:DXは息の長い取り組みです。自社の業務変革に寄与するのがDX1.0、自社のビジネスモデルそのものを変革するのがDX2.0だとすると、次のステップとして、業界全体を破壊し新しい価値を創造するようなDXにも取り組まないといけません。その際には、自社の事業部門を大きく変革する必要に迫られることもあります。これは大変な作業ですが、そこまで進んでいかないと、真の成長は得られないのです。
とはいえ、これからDXに取り組もうという企業にとって、いきなり自社のCXを高める、業界を超えて連携するとなると、かなりハードルが高い課題と言えるでしょう。まずは、書類に印鑑を10個押すところを電子化できないかというように、目先の小さな課題を1つ1つデジタルで変えていく。そうした業務改革プロセスを通じて気づきを得て、経験値を積むことにより、デジタル人材が育っていきます。経営側としては、短期と中期の時間軸を使い分けながら、物事を進めていくことが大切でしょう。
桑原:DXは単なる流行ではなく、戦略的な手段や基盤になりつつあります。DX1.0で業務を自動化して効率性を高め、コスト削減により原資を生み出し、DX2.0でCX向上を推進する。この両方が回らないとDXを戦略として継続していくことができない。また、その延長線上に、個々の企業の改革を超えて、日本としてどう戦うかという課題があるわけです。われわれは個々の企業に対してDXによる変革の速度を上げていくこと、また各企業の経済圏を拡大するためのエンゲージメント的な役割を果たし、日本企業、ひいては日本の競争力の向上にも寄与できればと思っています。
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