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野村総合研究所と
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不動産×金融×ITの力で生まれる、新たなオルタナティブ投資の手段

執行役員 立松 博史、ビットリアルティ 取締役 谷山 智彦

「不動産×金融×ITで、個人向けの新たな不動産投資の仕組みが作れないか」という思いから生まれた不動産投資プラットフォーム「ビットリアルティ」の構想。不動産アセットマネジメント会社のケネディクスというパートナーを得て、新たな仕組みが動き出そうとしています。不動産分野に詳しい野村総合研究所(NRI)の立松博史とビットリアルティの谷山智彦に、不動産投資市場の現状や新しいプラットフォームの将来展望について聞きました。

個人にとって選択肢が限られる不動産投資の世界

不動産投資は、一般の人にとってそれほど身近なテーマではありません。個人でも「都心に投資用マンションを購入した」「使っていない土地にマンション・アパートを建てた」という話は聞かれますが、一般的には多額の資金が必要でリスクもある投資、というイメージを持たれています。

こうした不動産投資を身近なものにしようと、2001年に登場したのが不動産投資信託(J-REIT)です。確かにJ-REITは少額の資金でも不動産投資を可能にしたので、投資家の裾野を広げることには成功しましたが、証券取引所に上場しているため株式市場と連動して投資口価格が変動する傾向が強く、長期的に安定的な賃料収入が得られるという不動産投資本来の魅力が損なわれている面も否めません。そのため、個人投資家が不動産投資を検討する際には、数千万円もの物件を購入して賃貸経営を始めるか、株式市場との相関が強いJ-REITかという選択肢しかないのが現状です。

本当のオルタナティブ投資機会を個人にもスマートに提供したい

機関投資家などプロの投資家が行う不動産投資は、非常に多くの資金を必要としますが、利便性の良い土地に建つ管理の行き届いたオフィスビルや商業施設等を投資対象とし、株式や債券とは異なるリスク・リターン特性により、長期的に安定したリターンと高い分散効果を享受しています。

こうしたプロの投資家が行っているような本当のオルタナティブ投資を、一般の個人投資家もスマートにできるようにしたい。それは、不動産と金融、そして情報技術を融合させることで実現できるのではないか。そんな思いから、不動産×金融の分野で豊富な実績を有するケネディクスと、金融×情報技術の分野で豊富な実績を有するNRIとの合弁事業として、オンライン不動産投資プラットフォーム「ビットリアルティ」を立ち上げました。ビットリアルティは、幅広い投資家からインターネット上で資金を集め、非上場の不動産投資商品に直接投資する不動産クラウドファンディングのプラットフォームです。

こうした新たな投資のプラットフォームを作る上で最も大切なのは、投資家が安心してお金を預けられる仕組みにすることです。最近、クラウドファンディングで集めた資金の不正流用や、セキュリティの脆弱な企業が攻撃を受けて投資家の資金を棄損するなどの事件が相次ぎました。金融分野での経験が乏しいフィンテックや不動産テックのベンチャーは成長を急ぐあまりに、業務体制やシステム面でのセキュリティ対応が疎かになりがちなのは残念なことです。

ビットリアルティでは、NRIがこれまで蓄積してきた知見を活かして安全性や安定性の高いITシステムを整備したうえで、最先端の技術を応用していくという方針をとっています。投資家から預かったお金を分別管理するのはもちろんのこと、投資先のトレーサビリティや情報開示を徹底。そして、不動産の専門家の目利きとこだわりを持って商品設計を行い、機関投資家向けと同水準の質の高いアセットマネジメントサービスを個人にも提供したいと考えています。

不動産市場におけるイノベーションの基盤となり、新たなエコシステムの形成を

ビットリアルティは、単に個人投資家に対して魅力的な不動産投資機会を提供することだけを目的にしていません。将来的には、テクノロジーを活用した不動産業界のイノベーションの基盤となり、そして広い意味での社会課題解決にも貢献することを目指しています。

金融や不動産分野でイノベーションを起こすためには、最新の技術動向と規制緩和を両睨みしながら進めていくことが大切です。このうち技術面で注目されるのが、IoTや人工知能、ビッグデータやブロックチェーンなどです。最近では、不動産テック(PropTech)と呼ばれる不動産業界のデジタル・トランスフォーメーション(DX)に国内外で注目が集まっていますが、個々のサービス単体では規模の拡大が難しい場合が多いのです。そこで、ビットリアルティはオンラインの不動産投資プラットフォームを構築するだけではなく、このプラットフォームをさまざまなイノベーションの基盤となるように、多様なテック関連サービスやリアルの不動産市場とも相互に連携し、不動産市場の新しいエコシステムを形成していきたいと考えています。

またビットリアルティでは、投資家と不動産の間に新たな資金の流れを創出し、複線的な金融システムを構築する一助となるだけではなく、地方創生や都市再生に資する不動産に「志のある投資家」の資金をマッチングする仕組みを創出します。その結果として、個人金融資産の有効活用が進み、ひいては不動産市場の活性化につながると期待しています。

このようにビットリアルティは、これまでは機関投資家や金融機関など一部の「プロ向け」に限定されていた国内外の不動産への投資機会を、より多くの方々にスマートに提供する仕組みをつくります。それにより、個人投資家にも真のオルタナティブ投資の機会を提供し、さまざまな価値の実現をサポートするとともに、不動産投資市場の活性化、さらには、都市再生や地方創生、社会問題の解決にもつなげたいと考えています。

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プロフィール

  • 立松 博史

  • 谷山 智彦のポートレート

    谷山 智彦

    未来創発センター デジタル都市インフラ研究室長

    2002年慶應義塾大学総合政策学部卒業、2004年同大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了、2010年大阪大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。2004年に株式会社野村総合研究所に入社後、主に不動産・インフラ分野に関する調査研究及びコンサルティング業務に従事。2017年11月よりケネディクス株式会社との合弁会社であるビットリアルティ株式会社の取締役に就任し、2019年1月にオンライン不動産投資プラットフォームbitREALTYを立ち上げ。2020年3月より同社取締役副社長として不動産分野におけるデジタル戦略を推進。2023年4月よりNRI未来創発センターに所属し、デジタルアセット研究室長を経て、2024年4月より現職。主な専門分野は、オルタナティブ資産に関わる金融経済学、ファイナンス理論、データサイエンス、デジタル戦略等。また、国土審議会土地政策分科会企画部会専門委員、内閣府「都市再生の推進に係る有識者ボード」委員、日本不動産金融工学学会(JAREFE)副会長等の他、早稲田大学ビジネススクール等で非常勤講師を務め、著書や論文多数。他に、日本FP学会賞最優秀論文賞受賞(2010年)、情報処理推進機構(IPA)未踏クリエータ(2003年)等。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。