エンジニアが語るマインドチェンジ――bit Labsが実現させるDX時代のアジャイル開発
企業のデジタルビジネスを加速するために、野村総合研究所(NRI)に、新たに誕生した「bit Labs(ビットラボ)」。その中核を成す営業企画グループの石橋琢磨と開発グループの塩川祐介が、ビットラボの開発現場の最前線と未来の展望を語ります。
ウォーターフォール型開発からアジャイル開発へ
――近年の開発環境にはどのような変化が起きていますか。
石橋 インターネットも最近では「デジタル」と表現するようになってきましたが、2000年前後から、急速に発展するデジタル技術によって、さまざまな業界で製品やサービス、ビジネスモデルを大きく変えるデジタル改革が起きています。さらに、スマートフォンの爆発的な普及も追い風となり、デジタルデータを価値の源泉とした新しいサービスを短期間につくることが一般的になりつつあります。
塩川 2001年に米国で17名のソフトウェア開発技術者が一堂に会し、「アジャイルソフトウェア開発宣言」が表明されました。そこから、徐々に日本にも伝わってきましたが、日本特有の商習慣や社内文化、プロセス等の問題もあり、なかなか理解が得られる風土ではありませんでした。しかし、変化とスピードに対応が求められるようになり、ここ5~6年はお客さま自らがアジャイル開発の導入に前向きな動きが出始めています。
石橋 もともと私は、技術領域に軸足を置くテクニカルエンジニア(TE)として、システムのテストの自動化を行うツールの企画やウォーターフォール型の金融系システム案件の標準化支援を担当していました。今までの大規模プロジェクトはプロセス重視であり、科学的管理法を用いてプロジェクトをマネジメントしていましたが、昨今のマネジメント手法は人間にフォーカスし、「いかに個々人のポテンシャルを引き出すか」をテーマにした手法が広がってきているように感じています。アジャイルチームを最適化するための「スクラムマスター」はその象徴的な例だと思います。
――アジャイル開発へとシフトしていく中で、印象に残った経験はありますか。
塩川 数年前に担当したプロジェクトのことが印象に残っています。お客さまからの「新サービスを作りたい」という案件で、リリースまでに3、4カ月しかありませんでした。一般ユーザーに近い方々を対象として、どんなサービスが受け入れられるのか、というところからお客さまと一緒に考え、モノづくりを進めました。そういった取り組みは初めてで面白みを感じましたし、お客さまと一緒にモノをつくっていく感覚を共有できました。そのアプリは、今でも多くの方に日常的に使っていただいています。
――リリースまでに3、4カ月というのは極めて短い開発期間に感じられます。
石橋 大規模案件からすると確かに短いですが、ビットラボ全体で見れば、結構あります。ビットラボでは、要件が固まっていない状態からお客さまと一緒に走ります。お客さまの方としても先が見えないリスクのある投資という面もあるので、自ずと予算が限られてきます。だからこそ、短期間のアジャイル開発で結果を出していく必要があるのです。
塩川 アジャイル開発の手法については、いろいろなルールや方法があるのですが、最初は手探りの状態でした。短期間で要件も決まってない中で模索しながらやって、終わってから「あれはアジャイル開発だったのでは?」と言われて、ああそうだったのかと思うこともありました。それが2012年頃のことです。その時、「スクラムマスター」という言葉にも出会いました。
「スクラム」はアジャイル開発の代表的な手法のひとつですが、実際にスクラムを取り入れて開発を行ったのは、その数年後です。ビットラボの前身となる部署で開発したヘルスケアアプリで、自分たちで内容を精査し作り上げ、いくつかのお客さま企業にプレゼンテーションを行いました。思えば、それがビットラボの原点と言える仕事だったかもしれません。
従来型の開発手法からのマインドチェンジ
――これまでNRIで手がけてきたプロジェクトとは、まるで違うプロジェクトを手がけているのがビットラボだと感じられます。
塩川 そうですね。ウォーターフォール型の開発とは、ベースとなる考え方がまったく違います。「アジャイル開発」は、知れば知るほど、「こういう世界観だったのか」と気が付き、奥が深いです。特に「スクラム」はチームのコミュニケーションを重視した手法で、メンバー同士で毎日確認しあい、作っている機能が正しいかどうか定期的に確認の場を設ける――と、それだけ聞くとわかった気になってしまいますが、実際やってみると「全然わかってない」ということが往々にしてありました。結局、何か強烈な体験などで腹落ちしないと、従来型の開発手法からマインドチェンジするのは難しいということが自分の経験からもよくわかります。
石橋 新しいサービスの開発を短期間に作ることが当たり前の時代に入り、社会のデジタル実装力に合った新しい開発の仕方を、NRIでも取り入れなければならないという危機感を持っています。お客さまと共にアジャイル体制を築き、自らのマインドも変革しながら、NRIの総合力を結集して新しい技術の中から最適解を考え抜くことをビットラボでは挑戦しています。
――時代の変化にともない、これまでの開発手法だけでは通用しなくなってきたと言われる今、ビットラボの目標はどこにあるでしょうか。
石橋 誰も思いつかなかったビジネスを生み出したいです。そのためには、業種の垣根を越えた情報をつなぎ合わせ、社会や業界にインパクトを与える仕組みを作っていかなければならないと考えています。NRIは中立的な立場で支援できることが強みです。まだ実現していませんが、複数のジョイントベンチャーを立ち上げ、物理的なラボスペースを作って勉強や情報シェアする場所を、ビットラボが繋げるというのが将来の夢です。
塩川 現在のところは、お客さまがつくりたいものをつくる「受託」型のプロジェクトが多いのですが、一緒にあるべきものを探していくこともやっていきたい。そこでイノベーティブな何かが生まれるのではないかと考えています。誰も思いつかなかったもの、ビットラボの名刺がわりになるような新ビジネスを、一刻も早くつくりたいですね。
左からNRIの塩川 祐介と石橋 琢磨
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