クラウドの潮流――進化するクラウド・サービスと変化する企業の意識
ネットワークを介して、コンピュータによる計算サービスやデータを保管するストレージ・サービス、各種アプリケーションの処理結果などを提供するクラウド。社内で物理的なサーバやストレージを構築しなくても柔軟に利用できるため、クラウドへの切り替えを進める企業が増えています。クラウド活用の最新動向について、長年Web系のシステム開発に携わってきたNRIネットコムの佐々木拓郎に聞きました。
柔軟なサーバ運用や機械学習を可能にするクラウド
――日本ではいつ頃からクラウド・サービスが登場したのでしょうか。
2010年前後です。当初はセキュリティ面の懸念などを理由に、なかなか活用が進まなかったのですが、その後、クラウド・サービスの採用を第一に検討する「クラウド・ファースト」という言葉が登場し、認知度が高まってきました。現在では、私が担当している案件を見ても、サーバなどハードウエアを企業自身が保有し運用する「オンプレミス」よりも、クラウド環境を用いた提案をすることが多くなっています。
――なぜ利用が増えてきたのでしょうか。
クラウドを活用するメリットが大きく、その認知も高まってきたためです。たとえば、オンラインショップなどでは、利用の集中するピークとオフピークの対応が大きな課題でした。ピークに合わせて設備を用意すると、日常のリソース利用率が低く、過剰な費用がかかります。逆に、日常に合わせた設備ではピーク時に対応できず、サービス低下を招いてしまうというジレンマがありました。ピーク、オフピークに合わせて設備の利用量を柔軟に変えられるクラウドであれば、適切に対応できます。
また最近注目されているビッグデータやデータ分析には、大容量のストレージや複数のサーバを使う必要があります。そうした大規模投資ができる企業は限られていましたが、クラウドであれば、学生でもビッグデータや機械学習など高度な分析ツールを安価に利用できます。
システム運用面でも、ハードウエアの故障など障害対応にかかる時間や手間が大幅に軽減されます。ツールをうまく活用して業務の自動化、効率化、省人化すれば、人手不足などの問題に役立ちます。
マルチクラウドなどの新しい動きも
――クラウド・ベンダーは大規模なインフラに巨額の投資をする必要があるため、かなり数が限られてきますね。
アマゾン、マイクロソフト、グーグルの3社が主なベンダーです。アメリカの調査機関のガートナーが毎年発表するクラウド・ベンダーのランキングを見ると、この3社は年々サービスを拡充させ、他の競合企業との差が開く一方です。
――クラウドは複数ベンダーが提供するサービスを組み合わせて利用する例もあるそうですね。
「マルチクラウド」と呼ばれます。アマゾンとマイクロソフトは企業システムが強いのに対し、グーグルはウェブサイトをはじめとするあらゆるデータ分析を得意とするように、ベンダーによって得意分野に違いがあります。最近は、ある人がリアルの世界とウェブ上ではそれぞれどのような行動をとっているのかというように、両者を紐づけてクロス分析するニーズが強くなっています。そのため、アマゾンの基幹系クラウドとグーグルのクラウドをつなげて分析するような動きが増えています。
オンプレミスの代替ではない
――クラウドを活用に力を入れたい企業に対してアドバイスはありますか。
コストが安いと思ってクラウド導入を検討したい、と考える企業も多いのですが、オンプレミスで使用するハードウエアの値段は以前ほど高額ではなく、クラウドにコストメリットが感じられない場合があります。ハードウエアだけでなく、データセンターを借りる費用、電気代、運用するための人件費も含めてトータルのコストを考えてみることが大切です。
先進的な企業では、オンプレミスではできない高度な分析やサービスを使うためにクラウドを採り入れています。コスト面だけでなく、活用ステージが変わっていることも知っていただければと思います。
また、各部門がバラバラに動くのではなく、クラウド活用をサポートする組織も必要です。特に、必要なデータの取得には複数部門が関係してくることも多いので、誰が取りまとめて運用・管理するかなど、組織として対応しなくてはなりません。
――今後、どのようにクラウド活用の促進や支援をしたいとお考えですか。
クラウドの本格導入はこれから、もっと増えていくはずです。お客様のクラウド活用を、NRIグループの総力をあげて支援していきたいと考えています。NRI、NRIデジタル、NRIネットコムがビジネスのコンサルティング、データ活用、その実現と、グループ内のノウハウを集めて連携し、お客様のビジネス・パートナーになれることを目指したいと思います。
- NRIジャーナルの更新情報はFacebookページでもお知らせしています
プロフィール
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。