ニューノーマル時代への挑戦と覚悟
2020年は、世相を表す漢字一文字が「密」であったように、国民は生活・行動様式を「密」にならないように意識するほど、新型コロナウイルス感染の影響を受けた一年であった。その結果、非接触・非対面社会といわれ、「ヒトは動かない」が代わりに「モノが動く」ことになり、リモートXX、オンラインXXという言葉通り、人のつながりを補う手段としてデジタルがあらゆる場面で活用されるようになった。まさに、DX(デジタルトランスフォーメーション)が必然となって加速化され、これまでの常識が大きく変化した時代(=ニューノーマル時代)となった。今回は、その中でわれわれは個人としても経営としても、どう判断し行動すべきかを考えてみたいと思う。
リモートワークの普及により会社と社員に求められること
一つは、「ヒトが動かない」前提となった働き方改革がある。リモートワークという形で時間と場所の「自由」が個人に与えられたことだ。自分がやりたい時にやりたい場所で仕事をするという裁量を与えられたことで、個人の働き方に選択の自由が生まれたが、一方では自由であるが故に、これまで以上に「責任」が問われ、自立と自律が個々人に求められるようにもなった。それは、自己管理の徹底、セキュリティ遵守などはもとより、今後は成果物志向など個人の能力が大きく問われることにもなっている。現在は急激な環境変化に不安となっている人がいるのも事実だが、今後は個人の多様性や社会価値が求められる時代として、「個」のレベルアップを個々人が前向きに考えていくべきだろう。
一方で、経営として考えるならば、これまでの会社環境に対して評価する社員満足度(ES)を基にしたマネジメントから、組織とメンバーとの意思疎通、思いの共有を評価するエンゲージメントマネジメントが重要ではないだろうか。それは、リモートだからこそ、人と人のつながりだけでなく人と組織(会社)とのつながりは「密」を維持していかなくてはいけないと考えるからである。愛社精神など古いと思われる方も当然いると思うが、この「密」を維持するためには、会社と社員との信頼関係がこれまで以上に重要であり、あらためて思いを共有することが大事ではないかと思う。
筆者は、多くのプロジェクトマネジャーを担当したが、厳しい状況にある時こそリーダーとメンバーの方向性や思いが一致しないとプロジェクトの成功はないということを痛感した経験があるからかもしれない。
VUCA時代に求められるリーダーシップとは
もう一つは、今のVUCA時代といわれる「不確実性」が取り巻く状況下では、これまでにないリーダーシップが重要ではないかと考える。『偉大な指揮者に学ぶ無知のリーダーシップ』という本を以前読んだことがある。リーダーをオーケストラの指揮者に例えることがよくあるが、プロの指揮者がリーダーシップ研修で学んだことを書いている中で、「知識」「スキル」「経験」という過去の延長にあるものは、新たなチャレンジを阻む壁となり、「無知」「ギャップ」「メインリスナー」がリーダーとしてメンバーを引き上げる要素だというのが主題である。
これまで苦労した経験やそこで得た知識やスキルが将来の糧になると考えていた筆者は当時、衝撃を受けた。それは、自らが無知であろうとする姿勢を持ち、相手の意見は自分の意見とは異なるものであると考え、信頼関係を前提に周りの意見を傾聴することである、という内容であった。過去の経験や知識がすべて無駄であるとは思わないが、過去の延長線上にはないパラダイムシフトが起こっている今の社会においては、「これでいけば大丈夫だ」という正解者に期待するのではなく、個性のある音を丁寧に聞き、それを引き出しながら1 つの曲をつくり上げていく指揮者のように、多様性のある人材の意見を受け入れ、一つの方向にまとめ上げていく共創者が、これからの時代に求められるリーダーシップではないだろうか。また、そこには最後までやり遂げるという覚悟を永続的に持ち続ける胆力が必要であることはいうまでもないだろう。
最後に、2021年は東京五輪が開催されるかどうかまだ分からない状況にあるが、前回(1964年)の東京五輪は、東海道新幹線開業やカラーテレビの普及などのほかに、五輪で初めての衛星中継や初めてのコンピュータによるリアルタイム記録管理など、最新技術を導入していたオリンピックでもあったそうだ。
今回の東京五輪も、最新のデジタル技術を採用した大会として記録と記憶に残るだろう。商業化傾向に反対意見もあるだろうが、このコロナの逆境を乗り越え、新たな時代をスタートする象徴として、これからの世代を担う若者のためにも開催されることを筆者は切に願いたい。そして、野村総合研究所(NRI)も未来をより豊かな社会を創造する企業として、これからのニューノーマル時代を挑戦と覚悟を持ち、「禍を転じて福と為す」日が来ることを願い、引き続きお客様のためにDXを推進していきたい。
知的資産創造2月号 MESSAGE
特集:デジタルガバメントが切り拓く国・地方の未来設計図
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