
アーバンイノベーションコンサルティング部 渡會 竜司、大西 直彌、御前 汐莉、青木 笙悟、戸田 直哉、浅井 雄大
少子高齢化に伴う世帯数の減少などにより、新設住宅着工戸数は減少の一途をたどっています。また、世界情勢の変化や人手不足の影響で、工事原価が高騰しており、中古住宅の活用も進んでいます。こうした中で、空き家問題はどう変わっていくのでしょうか。野村総合研究所(NRI)は、定期的に予測している新設住宅着工戸数の最新結果や、5年ぶりに更新された「住宅・土地統計調査」をもとに、空き家問題の将来を分析しています。本テーマに詳しいアーバンイノベーションコンサルティング部の渡會 竜司、大西 直彌、御前 汐莉、青木 笙悟、戸田 直哉、浅井 雄大に聞きました。
2040年の新設住宅着工戸数は58万戸に減少
NRIでは、毎年新設住宅着工戸数の予測を行っています。2040年までの中長期的な予測を行うにあたり、住宅需要を左右するマクロ指標(移動世帯数(当該年に住所を移動した世帯の数)、名目GDP成長率)及び住宅の質を示す指標(平均築年数)を活用し、予測モデルを構築しています。その予測結果によると、新設住宅着工戸数は2030年度には77万戸、2040年度には58万戸に減少する見通しです。持家・分譲住宅・貸家のいずれも漸減し、2040年度時点でそれぞれ15万戸、14万戸、29万戸になると予測されます。
この背景としては、少子高齢化の影響で移動世帯数が2023年の約424万世帯から2040年の約373万世帯へと減少していくことや、住宅の質の高まりにより平均築年数が2018年度の「24年」から2040年度の「34年」へと伸びていくことなどがあげられます。

一方で、足元の住宅市場では、工事原価の高騰が喫緊の課題となっています。住宅メーカー各社は、円安やインフレといった要因による建設資材の価格高騰や、建設技能者数不足を背景にした人件費の高騰に悩まされています。
実際、2023年の新設住宅着工戸数は約80.0万戸であり、NRIが2023年度に公開した需要に基づく新設住宅着工戸数の予測値と比べて、約8.0万戸下回っています。中でも予測値との乖離が大きかった持家では、実績値が予測値を17.2%下回りました。資材の一括調達を通じて価格交渉が可能な分譲・貸家とは異なり、適宜資材を調達する必要のある持家は、市場の工事原価高騰がより直接的に影響したと考えられます。
2023年度にNRIが発表した通り、建設技能者数は今後もますます減少していきます。こうした市況を見ると、工事原価が大きく低落するとは考えにくく、需要に基づく新設住宅着工戸数の予測値がさらに小さくなる可能性もあります。新設住宅着工戸数は引き続き減少すると考えられます。
この背景としては、少子高齢化の影響で移動世帯数が2023年の約424万世帯から2040年の約373万世帯へと減少していくことや、住宅の質の高まりにより平均築年数が2018年度の「24年」から2040年度の「34年」へと伸びていくことなどがあげられます。

一方で、足元の住宅市場では、工事原価の高騰が喫緊の課題となっています。住宅メーカー各社は、円安やインフレといった要因による建設資材の価格高騰や、建設技能者数不足を背景にした人件費の高騰に悩まされています。
実際、2023年の新設住宅着工戸数は約80.0万戸であり、NRIが2023年度に公開した需要に基づく新設住宅着工戸数の予測値と比べて、約8.0万戸下回っています。中でも予測値との乖離が大きかった持家では、実績値が予測値を17.2%下回りました。資材の一括調達を通じて価格交渉が可能な分譲・貸家とは異なり、適宜資材を調達する必要のある持家は、市場の工事原価高騰がより直接的に影響したと考えられます。
2023年度にNRIが発表した通り、建設技能者数は今後もますます減少していきます。こうした市況を見ると、工事原価が大きく低落するとは考えにくく、需要に基づく新設住宅着工戸数の予測値がさらに小さくなる可能性もあります。新設住宅着工戸数は引き続き減少すると考えられます。
「危険な空き家」の増加、新たな社会問題に
新設住宅着工戸数が減少する中で、空き家問題は今後どう変化していくのでしょうか。2024年4月、5年ぶりに更新された「住宅・土地統計調査」によると、2023年の空き家率は13.8%と、2023年6月発表のNRI予測値(17.4%)を下回りました。これは、空き家の除却が進んだというよりもむしろ、世帯数増加に伴い「居住世帯あり住宅数」が増加したため、予測と実績の乖離が生じたものと考えられます。
改めて、2024年に公表された「住宅・土地統計調査」を基に、中長期の空き家数と空き家率を予測したところ、2043年の空き家率は約25%に上昇する見込みです。住宅の建て方別に空き家率の推移を見ると、長屋建+共同住宅では空き家率が減少している一方で、一戸建では上昇していました。これは世帯数増加の中心が単独世帯であるため、その受け皿となる長屋建+共同住宅とは異なり、一戸建に住む割合が高い核家族等の居住世帯は増加しなかったためと考えられます。この共同住宅と長屋建の空き家率の下降と一戸建の空き家率の上昇が相まった結果、直近の空き家率は緩やかな上昇にとどまっていると考えられます。
また、一般的に、一戸建の空き家は、腐朽・破損のある「危険な空き家」の割合が相対的に高い傾向があります。単独世帯以外の世帯(核家族世帯等)数減少に伴い、一戸建の空き家数が増えることは、腐朽・破損のある空き家数の増加につながります。NRIの予測では、2043年には一戸建の腐朽・破損ありの空き家数は2023年の2倍以上となる見込みです。
このような「危険な空き家」は街の景観を損ねるだけでなく、災害時に倒壊する恐れや犯罪の温床となる可能性もあり、社会問題として無視できません。空き家全体の増加は緩やかになったものの、「危険な空き家」増加という新たな課題が顕在化しつつあります。空き家問題は新たな局面に移行していると言っても過言ではないでしょう。「危険な空き家」増加を防ぐためにも、情報発信強化や制度設計の見直しによって、これまで以上の除却推進が求められます。
改めて、2024年に公表された「住宅・土地統計調査」を基に、中長期の空き家数と空き家率を予測したところ、2043年の空き家率は約25%に上昇する見込みです。住宅の建て方別に空き家率の推移を見ると、長屋建+共同住宅では空き家率が減少している一方で、一戸建では上昇していました。これは世帯数増加の中心が単独世帯であるため、その受け皿となる長屋建+共同住宅とは異なり、一戸建に住む割合が高い核家族等の居住世帯は増加しなかったためと考えられます。この共同住宅と長屋建の空き家率の下降と一戸建の空き家率の上昇が相まった結果、直近の空き家率は緩やかな上昇にとどまっていると考えられます。
また、一般的に、一戸建の空き家は、腐朽・破損のある「危険な空き家」の割合が相対的に高い傾向があります。単独世帯以外の世帯(核家族世帯等)数減少に伴い、一戸建の空き家数が増えることは、腐朽・破損のある空き家数の増加につながります。NRIの予測では、2043年には一戸建の腐朽・破損ありの空き家数は2023年の2倍以上となる見込みです。
このような「危険な空き家」は街の景観を損ねるだけでなく、災害時に倒壊する恐れや犯罪の温床となる可能性もあり、社会問題として無視できません。空き家全体の増加は緩やかになったものの、「危険な空き家」増加という新たな課題が顕在化しつつあります。空き家問題は新たな局面に移行していると言っても過言ではないでしょう。「危険な空き家」増加を防ぐためにも、情報発信強化や制度設計の見直しによって、これまで以上の除却推進が求められます。
プロフィール
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渡會 竜司
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大西 直彌
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御前 汐莉
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青木 笙悟
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戸田 直哉
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浅井 雄大
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。