&N 未来創発ラボ

野村総合研究所と
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執行役員 システムコンサルティング事業本部副本部長 北川 園子
 

経済産業省が警鐘を鳴らしてきた「2025年の崖」は、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進により、多くの企業で対策が取られてきた。しかしながら、2025年を迎えた現在、複雑化・レガシー化した既存システムを使用している企業は多数存在する。
DXに関しては、これまでは現場においてデジタル技術(クラウド、IoT、AIなど)が導入され、業務の効率化やオンラインチャネルの拡充が図られてきた。このような段階を「DX前半戦」とすると、「DX後半戦」では、組織全体での業務改革を展開し、持続可能な成長を遂げていくことが求められる。そのためには、ビジネスモデルの変革やデータ駆動経営への展開、顧客体験の向上、組織文化の変革を進めていかなければならない。
前半戦に比べると、後半戦の難易度が段違いに高く、先述したレガシーシステム問題をはじめ、人材不足、現場からの抵抗など、さまざまな課題が指摘されている。その中で、筆者が深刻に捉えている課題は「サイロ化」と「経営層のリーダーシップ」である。

「サイロ化」解消と「経営層 のリーダーシップ」で未来を拓く

サイロ化は、企業をはじめとした組織の部門間で業務プロセスやシステム、データの連携が断絶し、各部門が孤立してしまっている状態を指す言葉である。2000年代にERPの導入が進んだ際に、ERPの機能や仕様に合わせて業務を改革してきた欧米企業とは異なり、多くの日本企業は、従来の業務や業界固有の商慣習に合わせた独自仕様でシステムを構築した。その後もつぎはぎの改修を重ねて複雑になり、今や全貌を知る人材が乏しいブラックボックスになっている。このことはサイロ化の典型例である。そういった状況では、部門単位でデータの利活用や業務の最適化を進めることこそできるものの、他部門とスムーズに共有するのは困難である。それ故、組織全体での業務効率や生産性が伸び悩むことになる。
サイロ化を解消する最初のステップは、部門間の連携を強化することである。業務面では互いのビジネス・業務を理解すること、風土面では共通の目標に向かって協力する文化を育むことが重要になる。また、人的な連携を支えるシステム基盤の整備も必要である。現行業務を抱えながらの導入は痛みを伴うため、大きな絵を描きながら段階的に進めることが肝要だろう。
新しいシステムを導入しても、それを適切に活用できなければならない。そこでポイントとなるのが、活用支援の仕組みである。部門の課題を踏まえてユースケースを考えるところから伴走するとともに、業務ニーズに合わせてカスタマイズし、システムを現場の業務プロセスにフィットさせるような調整も求められよう。
このように、サイロ化を解消するには、経営層のリーダーシップが不可欠である。しかしながら、日本企業はこの点においても早急に解決すべき課題は少なくない。
IMD(国際経営開発研究所)は毎年「世界デジタル競争力ランキング」を発表しているが、2023年の結果で日本は過去最低の32位になった。その要因を見ると、「企業の俊敏性」「ビッグデータや分析の活用」といった企業経営に関する項目の評価が低いことの影響が大きい。
とはいえ、DX後半戦に向けて日本はいつまでも低位に甘えているわけにはいかない。DXを経営戦略に組み込み、全社で推進することが必要である。また、部分最適から全体最適へ、属人化から標準化へと社員の意識を変革させながら新陳代謝を断行することも求められよう。日本企業においては各部門で業務のプロ人材がおり、知識が権威化していることが多いが、彼らが高齢化しているためノウハウが失われる危機もある。新陳代謝の中で彼らの協力を得ながら、暗黙知→形式化知→集団知への変換が必要である。そこでは生成AIも役立つだろう。新陳代謝の際に起き得る、反対勢力をコントロールし、変化を受け入れるように企業文化を変革することも必要になる。こうした変革は、DX前半戦のような現場主導では実現しない。経営層が強力なリーダーシップを発揮し、全社的な取り組みとして推進することが不可避である。
そこで重要になってくるのが、CIOとCDOの役割である。CIOは、ITインフラの最適化、データ管理とガバナンス、クラウド戦略、リスク管理とセキュリティ強化を推進していくことが求められ、その適用スコープは年々広がっている。一方、CDOは、ビジネスモデルの革新、全社大での顧客体験の最適化、データドリブン戦略の実行、組織文化の変革を牽引していく必要がある。日本の場合は、CIOがCDOを兼務するケースもあるなど担う役割が非常に大きくなる。

CIOとCDOが導く、DX後半戦

サイロ化を脱し、DX後半戦を実りあるものにするには、CIOとCDOがビジネス部門とともにオーナーシップを発揮し、技術面とビジネス面の双方からDXを推進することが不可欠である。野村総合研究所(NRI)としても、戦略構築、システム化の両面から日本企業の彼らの活動をサポートしていきたい。

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    北川 園子

    執行役員
    システムコンサルティング事業本部副本部長

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