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取締役会長 此本 臣吾


課題先進国といわれる日本ではあるが、その中でも最も深刻な課題は人口減少であろう。国立社会保障・人口問題研究所の人口推計によれば、低位ケース(出生率1.13)の場合、日本の総人口は2030年で1.19億人、2050年で1.01億人、2100年で0.51億人となる。中位ケース(出生率1.36)、高位ケース(出生率1.64)の推計もされているが、さまざまな少子化対策にもかかわらず出生率低下に歯止めはかからず、2023年が1.20(2022年は1.26)である状況から見れば、将来の人口予測においては低位ケースの蓋然性が最も高いと考えていいだろう(低位ケースをさらに下回る可能性すらある)。

加速する人口減少、人手不足の対策急務

われわれは、上記のデータと京都大学経済研究所の森知也教授の研究内容を基に、日本の都道府県別、主要圏域・都市別の人口予測を行った。全国計では2020年比で見ると、2050年には3割減、2100年には6割減となる。特に、2030年代に人口減は加速する。都道府県別では2050年に向けて、東京と神奈川だけは2020年をやや上回るが、それ以外はすべて2020年比で減少し、地方の道府県は2020年比で2050年はおおむね3割から4割減、2100年では多くの道府県が2020年比で7割から8割減となってしまう。
また、都市別に見ると、2030年時点で人口10万人以上の都市は257カ所あるが、これが2050年には194カ所(63カ所減)、2100年には101カ所と現在の半分以下になってしまう。一方、首都圏の人口集中エリア(人口密度と総人口、地域の連続性を考慮)は2020年に3400万人が居住するが、2050年にはいったん3600万人まで増加し、2100年には2100万人へと減少する。全人口に占めるシェアは2020年の28%から2050年には37%、2100年には43%まで一貫して上昇を続ける。首都圏人口も減少するが、それでも日本全体で見ると人口はさらに首都圏に集中する。
これから本格的に加速する人口減少は、言い換えれば、2030年代に入ると日本は強烈な人手不足社会に陥るということである。有効求人数から有効求職数を引き算した数字で見ると介護サービス業では200万人近い人手不足になっており、その他の職種の数字もほぼすべてがプラス(つまり人手不足)となっている。この状態がさらに悪化するということである。われわれの推計では2030年代半ば頃から人口減少のスピードが加速してくる。それまでに人口減に伴う人手不足対策を断行しなければならない。残されている時間は10年ほどしかない。

生成AIは人手不足の切り札となるか

移民の受け入れといっても、言葉の壁や社会の許容度、そもそも出し手側の国も人口は減少しており大きな期待はできない。残された手立てはテクノロジーの活用ということになるが、とりわけ注目されるのは生成AIの活用である。2人で行っている仕事を1人で、1時間かかる仕事を30分でできるようにする。こうすれば仮に人口が半減したとしても理屈のうえでは経済規模は現状維持できることになる。
たとえば、高度な専門性を要する医療分野であっても、診療の中でも時間がかかる問診においてバーチャルな医師が症状を聞き取り、治療の流れを患者に説明する試行が始まっている。教育分野においても、時間のかかる作文の採点や添削を行う、英会話の発音や習熟度を評価するなど、教育現場での生成AIの導入によって生産性向上への取り組みが進んでいる。
もちろん、企業内の業務も生成AIの活用で効率化が期待できる。会議の議事録、報告書作成、翻訳、契約書などのドラフト作成、コールセンターや社内ヘルプデスクでの応対、新製品のアイデアやマーケティングの企画など生成AIによる生産性向上余地は多岐にわたる。生成AIが、従来の業務自動化ツールと違うのは、さまざまな様式のテキスト、画像や動画、音声などの非構造データを活用でき、また、インプットもアウトプットも自然言語で対応できるため、人間にしか対応できなかった非定型業務や対人業務であっても自動化が可能なことである。いずれ、企業内業務の多くが生成AIで置き換えられるようになれば、社内システムも生成AI活用を前提としたアーキテクチャーに変更され、情報セキュリティもシステムの運用基盤も現状とは違ったものにつくり替えられるだろう。

生成AI活用における課題

一方、生成AIの活用には、コスト、フェイク情報やセキュリティリスク、さらには電力消費の増大など課題も噴出している。コストについては、生成AIの基盤モデルを自前で構築すると高性能のGPUの確保が必要であるが、GPUは1枚数百万円であり、複数枚を搭載したサーバーになると億単位かかる。米国の大手プラットフォーマーならまだしも、一企業には投資負担が重すぎる。かといって、プラットフォーマーが提供するサービスを利用すれば、コストは抑えられても自動化したい業務に最適なモデルにすることは難しく、学習データの漏洩リスクをゼロにはできない。
人口減少が加速する2030年代半ばまでの残された10年間で何をすべきか。総括すれば、人口問題については安易な楽観論は避け、強烈な人手不足に備えて、今から、国、地方、企業それぞれが準備を行うべきということだ。課題はあるとしても、そのカギを握るのは生成AIであることに間違いはない。

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