
執行役員 証券ソリューション事業本部副本部長 資産運用ソリューション事業本部副本部長 宮武 博史
2024年1月からスタートした新NISA(少額投資非課税制度)。それまでのNISAと比較して非課税枠が大幅に拡充され、時限措置だった制度が恒久化された結果、利用者にとって大幅に使い勝手が改善された。新制度の開始当初はNISA口座が急増し、投資を始める人の割合も増加した。政府が進める「貯蓄から投資」に、一定の成果が見られたことは確実だろう。
経済成長の果実を家計へ、NISAの意義
ところが、最近になってその勢いに陰りが見え始めている。日本証券業協会の調べによると、2024年11月の証券会社10社におけるNISAの新規口座開設件数は12万件だった。同じ年の1月が73万件だったことを考えると、明らかにペースダウンしている。NISAを通じて投資された金額を見ても、1月の月間投資額は1.9兆円だったが、11月には0.8兆円まで低下した。9月末に野村総合研究所(NRI)が実施したアンケート調査からも、NISA口座の新規開設の意欲が、3月末時点と比較して明確に低下している。政府はNISAについて「2027年に3400万口座」などの目標を掲げているが、このままでは達成できるだろうか。また、金融機関の方からは「口座は開かれたけど放置されたまま」といった声も耳にする。もしかしたら、2025年は「貯蓄から投資」が曲がり角を迎える年になるのかもしれない。
そもそも「貯蓄から投資」はなぜ必要なのだろうか。資産形成という、一見すると個人の財布の問題でしかないような話に、政府が必死になって取り組む理由は何だろうか。しばしば、公的年金などの社会保障制度だけでは賄い切れないので、国民が自分自身で老後の資金を確保してもらう必要があるから、といった解説を耳にする。いわゆる自助努力論であり、そういった面はゼロではないかもしれないが、主たる理由ではないと思う。やや堅苦しい表現になるが、筆者は「経済成長の果実を裾野広く家計全体に対して届けること」こそが、「貯蓄から投資」の最も重要な意義だと考えている。つまり、政府の財源が枯渇するといった理由ではなく、国全体としての資金の流れをよくしようというマクロな発想がその根底にある。
いうまでもなく、GDPで測る経済成長率とは国全体の平均だ。大雑把にいえば、国の平均的な成長率とその国の金利水準は連動する。このため、かつて成長率が高かった時代は預金の金利も高く、家計は経済成長の果実を預金金利を通して受け取ることができた。筆者の親世代からは「預貯金が10年で2倍になった」という話をよく聞かされたものだし、インフレ率もさほど高くはなかったため、預貯金に預けていれば実質的にも資産が増えていった時代が続いた。ところが、バブル経済が崩壊した後の30年間は低成長が続き、それと連動して金利も低下し続けたため、預貯金は資産形成の手段として期待できなくなってしまった。その代わりに、海外も含めて成長する経済・企業の果実を裾野広く家計に届ける手段として、投資の重要性が高まってきたのである。
そもそも「貯蓄から投資」はなぜ必要なのだろうか。資産形成という、一見すると個人の財布の問題でしかないような話に、政府が必死になって取り組む理由は何だろうか。しばしば、公的年金などの社会保障制度だけでは賄い切れないので、国民が自分自身で老後の資金を確保してもらう必要があるから、といった解説を耳にする。いわゆる自助努力論であり、そういった面はゼロではないかもしれないが、主たる理由ではないと思う。やや堅苦しい表現になるが、筆者は「経済成長の果実を裾野広く家計全体に対して届けること」こそが、「貯蓄から投資」の最も重要な意義だと考えている。つまり、政府の財源が枯渇するといった理由ではなく、国全体としての資金の流れをよくしようというマクロな発想がその根底にある。
いうまでもなく、GDPで測る経済成長率とは国全体の平均だ。大雑把にいえば、国の平均的な成長率とその国の金利水準は連動する。このため、かつて成長率が高かった時代は預金の金利も高く、家計は経済成長の果実を預金金利を通して受け取ることができた。筆者の親世代からは「預貯金が10年で2倍になった」という話をよく聞かされたものだし、インフレ率もさほど高くはなかったため、預貯金に預けていれば実質的にも資産が増えていった時代が続いた。ところが、バブル経済が崩壊した後の30年間は低成長が続き、それと連動して金利も低下し続けたため、預貯金は資産形成の手段として期待できなくなってしまった。その代わりに、海外も含めて成長する経済・企業の果実を裾野広く家計に届ける手段として、投資の重要性が高まってきたのである。
投資のハードルを下げる「前向きな常識破り」
冒頭の話に戻ると、「貯蓄から投資」が曲がり角を迎えるとしたら、どのような手を打つべきだろうか。政府は「資産運用立国」「資産所得倍増プラン」を掲げ、iDeCo(個人型確定拠出年金)の拡充や金融教育の充実を図っている。これらの政策は王道である。まずは、こういった政策の着実な遂行を期待したいが、欲をいえばこれまでとは違う新しい発想、「前向きな常識破り」ともいえる発想はないものかとも思う。そんなことを考えていた中、注目する出来事があった。昨年11月、ZOZOの創業者である前澤友作氏が新しい会社を立ち上げ、自社のサービス利用者に対して自社の株式を無償でプレゼントする取り組みを始めた。メディア報道やSNSでもかなり話題になっていたので、目にされた方も多いだろう。
ビジネスとしての成否はこれから明らかになってくるだろうが、筆者が注目したポイントは、「買わなくても持てる」という全く新しい投資への道筋を提示した点である。NISAもiDeCoも金融教育も、王道の政策はほぼ例外なく「買って持つ」を前提としている。ただ、「貯蓄から投資」の広がりが力強さを欠いているのは、最初のステップである「買う」までが多くの人にとってハードルとなっているからではないか。証券業界に長く携わってきた筆者にとって、株式や投資信託などの証券は「買って持つ」ものであり、そのことを何ら疑問に感じてこなかったが、前澤氏のサービスはそこに光を当て、「前向きな常識破り」をしてくれているように見える。
前澤氏の著書によると、新しいサービスを始めた背景には、国民全員が株主として主体的に資本主義に参加し、みんなで日本を盛り上げていきたいとの思いがあるそうだ。現在のパナソニックを創業した松下幸之助翁も、半世紀以上前に株式の大衆化を通じて経済と社会の活性化を提唱した。お二人の主張は、「貯蓄から投資」の意義を経済社会全体の視点から表現したものと理解できる。足元でその勢いに陰りが見え始めているのであれば、こうした「前向きな常識破り」の新しい発想を取り込んでみることも一案ではないだろうか。
ビジネスとしての成否はこれから明らかになってくるだろうが、筆者が注目したポイントは、「買わなくても持てる」という全く新しい投資への道筋を提示した点である。NISAもiDeCoも金融教育も、王道の政策はほぼ例外なく「買って持つ」を前提としている。ただ、「貯蓄から投資」の広がりが力強さを欠いているのは、最初のステップである「買う」までが多くの人にとってハードルとなっているからではないか。証券業界に長く携わってきた筆者にとって、株式や投資信託などの証券は「買って持つ」ものであり、そのことを何ら疑問に感じてこなかったが、前澤氏のサービスはそこに光を当て、「前向きな常識破り」をしてくれているように見える。
前澤氏の著書によると、新しいサービスを始めた背景には、国民全員が株主として主体的に資本主義に参加し、みんなで日本を盛り上げていきたいとの思いがあるそうだ。現在のパナソニックを創業した松下幸之助翁も、半世紀以上前に株式の大衆化を通じて経済と社会の活性化を提唱した。お二人の主張は、「貯蓄から投資」の意義を経済社会全体の視点から表現したものと理解できる。足元でその勢いに陰りが見え始めているのであれば、こうした「前向きな常識破り」の新しい発想を取り込んでみることも一案ではないだろうか。
プロフィール
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宮武 博史のポートレート 宮武 博史
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