
NRIインド 郷 裕、石垣 悟、中村 龍樹、沼田 悠佑、坂井 純、坂本 純一、長谷川 舞、安井 瞭
人口世界一のインドは、GDPランキング世界3位が射程圏内に入っています。グローバルサウスの主要国として注目が集まっており、日系企業が海外市場で関心を寄せる地域の一つです。
一方で産業構造の転換が進んでおらず、日系企業は適切な参入タイミングを模索しているのが現状です。現在、インドの産業界は、政府による産業政策、国内消費者の需要変化、社会からの要請等を受け、大きな転換点を迎えています。デジタル技術が各産業の進化を加速していることも特徴です。この記事ではインドの主要産業の動向を解説するとともに、同国の産業構造がどのように発展しているかを紹介します。本テーマに詳しい NRIインドの郷 裕、石垣 悟、中村 龍樹、沼田 悠佑、坂井 純、坂本 純一、長谷川 舞、安井 瞭に聞きました。
急速な経済成長の影で、産業構造転換は道半ば
インド経済は2026年に向けて毎年6.5%の成長が予測されており、コロナ禍以降も他の主要国と比較して堅調な成長を遂げています。特に、オフショア開発を軸としたソフトウェア産業に加え、インフラ開発、製造業、消費・サービスなど各産業の成長が今後の経済成長を促すと考えられています。
しかしインドの産業構造全体を見ると、他の先進諸国と比較して農林水産業比率が高く、製造業比率が低いことが特徴です。農林水産業は同国で最も従事者が多い産業ですが、生産性が低い状況です。このまま生産性が向上しない限り、他産業への人材シフトも進むことは難しいでしょう。関連するインフラ整備は進んでいますが、需要増に供給が追いついていません。また、人口は世界一の規模なのですが、小売・サービス産業の成長は順調とは言えない現状にあります。政府は製造業の振興や輸入依存からの脱却を重点政策としていますが、経済成長への貢献は不十分であり、理想とする産業構造変化を達成できていない段階です。
しかしインドの産業構造全体を見ると、他の先進諸国と比較して農林水産業比率が高く、製造業比率が低いことが特徴です。農林水産業は同国で最も従事者が多い産業ですが、生産性が低い状況です。このまま生産性が向上しない限り、他産業への人材シフトも進むことは難しいでしょう。関連するインフラ整備は進んでいますが、需要増に供給が追いついていません。また、人口は世界一の規模なのですが、小売・サービス産業の成長は順調とは言えない現状にあります。政府は製造業の振興や輸入依存からの脱却を重点政策としていますが、経済成長への貢献は不十分であり、理想とする産業構造変化を達成できていない段階です。

拡大するエネルギー需要、脱炭素化との両立が大きな課題に
エネルギー産業はインド経済の成長を支える重要なインフラですが、課題も山積しています。直近15年間で同国のエネルギー需要は150%近く増大しており、今後も増加が予想されます。石炭の自給率は高い一方で、石油と天然ガスは輸入比率が高く、国際市場の価格変動の影響を受けやすいことが懸念されています。このことに対し、インド政府は、2047年までにエネルギーの自立、2070年にカーボンニュートラルの達成という長期目標を掲げています。
自然環境の優位性や政策的支援を背景に躍進しているのが太陽光発電です。太陽光発電の導入量は年々拡大し、発電コストも世界で最も安い地域の一つとなりました。2026年以降には既存のPATスキーム(Perform, Achieve and Tradeスキーム:インドが省エネルギーを促進するために導入した証書取引制度)から新制度へと移行し、省エネルギー促進がさらに強化される見込みです。
インドのエネルギー産業は、送配電網強化や石油備蓄とともに、将来的な経済安全保障、脱炭素化促進のために太陽光発電・蓄電池製造や原子力発電の幅広い導入を目指しています。エネルギー需要増加と脱炭素化を両立させるための大転換が一層加速する中、日系企業が有する高度な技術はその成長に貢献する可能性は十分にあります。
自然環境の優位性や政策的支援を背景に躍進しているのが太陽光発電です。太陽光発電の導入量は年々拡大し、発電コストも世界で最も安い地域の一つとなりました。2026年以降には既存のPATスキーム(Perform, Achieve and Tradeスキーム:インドが省エネルギーを促進するために導入した証書取引制度)から新制度へと移行し、省エネルギー促進がさらに強化される見込みです。
インドのエネルギー産業は、送配電網強化や石油備蓄とともに、将来的な経済安全保障、脱炭素化促進のために太陽光発電・蓄電池製造や原子力発電の幅広い導入を目指しています。エネルギー需要増加と脱炭素化を両立させるための大転換が一層加速する中、日系企業が有する高度な技術はその成長に貢献する可能性は十分にあります。
国産半導体の立ち上げに向け、基礎インフラの整備が進む
半導体は現在の社会において不可欠な存在であり、その重要性はますます膨らんでいます。インドは米国などから半導体設計を受託してきた経緯から、半導体の機能設計には強みがあります。一方で半導体の大部分を中国からの輸入に依存しており、現地生産の必要性が増しています。
現在インドでは国産半導体の立ち上げを進めていますがそのためにはまず、高品質の電力、水、物流、人材といった基礎インフラの整備が必要です。半導体メーカーと装置・素材メーカーの商流構築も課題となっています。政府は半導体産業を育成するため、半導体製造の後工程への投資を始めました。日本のトップ企業は、NANDメモリやMCU(マイコン)などの特定製品で、優位な存在感を有しているので、インドの半導体産業の発展に向けた協力が期待されています。
現在インドでは国産半導体の立ち上げを進めていますがそのためにはまず、高品質の電力、水、物流、人材といった基礎インフラの整備が必要です。半導体メーカーと装置・素材メーカーの商流構築も課題となっています。政府は半導体産業を育成するため、半導体製造の後工程への投資を始めました。日本のトップ企業は、NANDメモリやMCU(マイコン)などの特定製品で、優位な存在感を有しているので、インドの半導体産業の発展に向けた協力が期待されています。
デジタルヘルス革命は、地域医療格差と非感染症疾患増大を止められるか
インドでは、深刻な地域医療格差や都市部での非感染症疾患(NCDs)が社会問題になっています。大都市では予防医療への意識は向上していますが、定期健康診断の習慣化までは難しく、発症してからようやく医師の診断を受けるという文化が根強く残っています。国民健康保険がなく、民間の保険加入率も低い状況です。
このような課題の解決に向けて、デジタルヘルス革命への期待が高まっています。デジタルヘルス市場は年平均成長率(CAGR)約15%で拡大が見込まれており、その進展は加速しています。一方、政府主導で開発された医療機関向けのデジタルプラットフォームはあるものの、民間病院ではそれぞれが独自に開発したシステムを使っていることが多く、シームレスな運用には依然として高いハードルが存在します。デジタル化が進む中で、データセットの整理や患者データのセキュリティ管理も大きな課題になるでしょう。
今後は個人情報と患者情報を連携したヘルスケアサービスが増加することが予想されます。医療機器分野では定期診断用の診断機器やAIを活用したソフトウェアサービスの拡充が進行中です。インドにおける遠隔医療やAI活用がさらに進むことで、日系企業にとってはハードウェアだけでなく、ソフトウェアでの販売機会が増えていくと考えられます。
このような課題の解決に向けて、デジタルヘルス革命への期待が高まっています。デジタルヘルス市場は年平均成長率(CAGR)約15%で拡大が見込まれており、その進展は加速しています。一方、政府主導で開発された医療機関向けのデジタルプラットフォームはあるものの、民間病院ではそれぞれが独自に開発したシステムを使っていることが多く、シームレスな運用には依然として高いハードルが存在します。デジタル化が進む中で、データセットの整理や患者データのセキュリティ管理も大きな課題になるでしょう。
今後は個人情報と患者情報を連携したヘルスケアサービスが増加することが予想されます。医療機器分野では定期診断用の診断機器やAIを活用したソフトウェアサービスの拡充が進行中です。インドにおける遠隔医療やAI活用がさらに進むことで、日系企業にとってはハードウェアだけでなく、ソフトウェアでの販売機会が増えていくと考えられます。
IT産業では、データ通信量の増大を支えるデータセンター市場が発展
GDPの40%を占めるほどIT産業が強いインドでは、社会的にも前向きにデジタルインフラを取り入れています。デジタル経済はコロナ禍によるライフスタイル変化を経て拡大しており、多くの産業セクターでAI活用が進んでいます。そのためデータ通信量が爆発的に増大しており、それを支えるデータセンター市場が急速に発展しています。しかし、その設置容量は現状では不十分であり、さらなる開発が必要とされています。
インド政府は、国内でのデータ保存を義務付けるデータローカライゼーション規制を設けることで、データセンター需要を後押ししています。一方で、大量の電力を必要とするデータセンターには、今後、脱炭素化を進める動きが求められるようになるでしょう。データセンター急増に伴い発生するインドの環境問題を解決し、省エネやグリーン化を進めるため、日系企業の技術が求められています。
インド政府は、国内でのデータ保存を義務付けるデータローカライゼーション規制を設けることで、データセンター需要を後押ししています。一方で、大量の電力を必要とするデータセンターには、今後、脱炭素化を進める動きが求められるようになるでしょう。データセンター急増に伴い発生するインドの環境問題を解決し、省エネやグリーン化を進めるため、日系企業の技術が求められています。
社会課題の解決を目指すスタートアップが台頭
インドでは、大手企業や高所得層の課題を優先した結果、小規模事業者や中低所得層の抱える課題が取り残されてきました。昨今は、デジタル技術を活用してこれらの課題を解決するスタートアップが台頭しており、ユニコーンと呼ばれる評価額10億ドル以上の未上場企業が中国を上回るペースで誕生しています。2015年までは他国の成功モデルを模倣する企業が目立ちましたが、近年は新たな事業モデルで社会課題解決に取り組む企業が注目を集めています。スタートアップとの事業シナジーは、日系企業のインド市場開拓をさらに加速させるでしょう。
政府のデジタル推進政策やスタートアップ支援政策、豊富なITおよび起業家人材への期待、インドが抱える社会課題への注目を背景に、スタートアップへの投資が国内外で増加しています。これらのスタートアップは、未解決の課題に取り組んでいるため、ビジネスモデルの確立には時間と資金が必要です。投資を行う事業会社には、財務的なリターンを求めるだけでなく、中長期的な戦略にもとづく共創を重視する姿勢も求められます。
政府のデジタル推進政策やスタートアップ支援政策、豊富なITおよび起業家人材への期待、インドが抱える社会課題への注目を背景に、スタートアップへの投資が国内外で増加しています。これらのスタートアップは、未解決の課題に取り組んでいるため、ビジネスモデルの確立には時間と資金が必要です。投資を行う事業会社には、財務的なリターンを求めるだけでなく、中長期的な戦略にもとづく共創を重視する姿勢も求められます。
インド経済成長へ貢献することが、日系企業の存在感につながる
これまで述べてきたように、経済成長・社会課題の解決・技術革新の各分野において、インドの重要性が増していますが、産業構造の転換が期待通りに進んでいないことが喫緊の課題になっています。インドが産業構造の展開を成し遂げるための要素は「強力な政策」「国内需要・社会要請の高まり」「デジタル」の3点だとNRIは考えます。強力な産業政策や、国内での需要喚起、社会的な要請によって生じた機運を、デジタル技術を活用して盛り上げられるかにかかっています。すでに2025~2026年度の国家予算では、国内のみならず輸出入増加も視野に入れたインフラ整備や税制優遇などの項目が含まれています。

構造転換を実現して経済成長を図るためには、外資企業からの協力と投資促進が不可欠です。そのため、官民ともに外資に対する期待は大きくなっています。日本からの対印直接投資額は2023年に1兆円を超えましたが、日系企業数は1,400社(2022年)、在留法人数は8,197人(2023年10月)とそれぞれコロナ禍前をピークに頭打ち状態が続いています。
多様な産業分野で、日系企業による事業参入・投資拡大はインドの経済成長に貢献します。そして、そのことが日系企業の存在感を確固たるものにするでしょう。

構造転換を実現して経済成長を図るためには、外資企業からの協力と投資促進が不可欠です。そのため、官民ともに外資に対する期待は大きくなっています。日本からの対印直接投資額は2023年に1兆円を超えましたが、日系企業数は1,400社(2022年)、在留法人数は8,197人(2023年10月)とそれぞれコロナ禍前をピークに頭打ち状態が続いています。
多様な産業分野で、日系企業による事業参入・投資拡大はインドの経済成長に貢献します。そして、そのことが日系企業の存在感を確固たるものにするでしょう。
プロフィール
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郷 裕のポートレート 郷 裕
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石垣 悟のポートレート 石垣 悟
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中村 龍樹のポートレート 中村 龍樹
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沼田 悠佑のポートレート 沼田 悠佑
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