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穴水町総務課復旧復興対策室室長 黒田篤史氏
穴水町総務課復旧復興対策室 鵜野雅人氏、濱谷悠斗氏、新谷真以氏
野村総合研究所 未来創発センター 坂口剛
※所属は2025年3月のインタビュー当時
 

奥能登の玄関口に位置する石川県鳳珠郡穴水町。令和6年の能登半島地震で甚大な被害を受けましたが、未来志向の創造的復興へと力強く歩き出しています。NRIは震災直後に穴水町と復興連携協定を結び、復興計画策定を支援してきました。穴水町復旧復興対策室メンバーと野村総合研究所(NRI)の坂口剛に復興計画に込めた想いを聞きました。

大前提は「多くの住民の声を反映させること」

発災3カ月後に発足した復旧復興対策室では、室長の黒田篤史さんと職員4名、NRIの2名の他、石川県や中長期支援自治体の職員など合わせて、「多国籍チーム」と称して、8カ月間で復興計画を策定するミッションに取り組みました。「計画策定で一番重視したのは、住民の意見を多く取り入れることです」と、黒田さんは説明します。「穴水町の吉村光輝町長は以前から住民との対話を大切にし、住民参加型の“未来づくり会議”などを通じて政策に住民の声を反映させてきました。復興計画においても住民アンケートに加えて高校生アンケート、各地区での住民説明会、復興未来づくり会議、中学生議会など多数のチャネルを駆使して住民意向の把握に努めました」

住民アンケートの回答率を高めるために、「自治会長から地域住民の方に直接調査票を配布するという手順を調整したり、告知ポスターを作成して飲食店、病院、公共施設などに貼ったり、お手製の回収ボックスを複数箇所に設置するなど、復旧復興対策室のみんなでいろいろアイデアを出し合い、実行してきました」と、対策室の濱谷悠斗さんは振り返ります。「地元の中学生にも協力をお願いし、朝夕の防災行政無線を通じ、『いま復興計画のためのアンケートを行っています。私たちの、将来のための大切なアンケートです。大人のみなさん、回答をお願いします』と呼びかけてもらいました。この言葉は多くの人の心に響いたと思います」。こうした工夫が功を奏し、55.8%という高い回答率になりました。

意見を募るだけでなく、実行面も住民参加型へ

復興未来づくり会議では、住民の本音を引き出すために、穴水町の若手職員がグループワークのファシリテーションに挑みました。「私は震災前までこのような業務に携わったことがなかったため、ファシリテーションは初めての経験でした」と、復旧復興対策室の新谷真以さんは言います。「すごく緊張していましたが、NRIの坂口さんが議論をリードするコツを伝授してくれました。それで何とかやり遂げられ、参加者の方との対話も進み、とても良い経験になりました」

「私が印象に残っているのは、大人に混じって会議に参加していた高校生が『オートキャンプ場を作ったらどうか』と提案してくれたことです。平時はキャンプ場、災害時には避難場所として使うというアイデアです。高校生が町のために役立つことを自分で考えて、勇気を持って意見を言ってくれたのは、すごく嬉しかったです」と語るのは、復旧復興対策室の鵜野雅人さん。「住民から寄せられる声の多くは、『目の前の大変な状況を何とかしてほしい』という切実な要望でしたが、中には『子どもたちや次世代のために』と未来を見据えた発言もあって励みになりました」

こうしたアイデアについて、行政がやるべきことと民間でできることを分け、優先順位をつけて、施策に落とし込みやすくしました。特に優先度の高いものは、「災害に強いまちづくり」「地域コミュニティとなりわいの再生」「魅力ある子育てと教育の環境づくり」「奥能登の玄関口再生」という4つのシンボルプロジェクトに反映させました。さらに、民間でできる項目については、実行したい人と支援したい人に手を挙げてもらいました。ただ意見を言うだけでなく、自ら取り組める機会となるよう、促したのです。「最初はなかなか自分の意見を伝えられなかった方も途中から『私はこれをやります』と前向きに、そして自分事として捉えてくれました」と、NRIの坂口は住民の気持ちの強さを感じたと言います。

読み手が前向きに歩み出すための復興計画

こうして住民の声をベースにまとめた穴水町復興計画は非常にユニークな内容や構成となりました。たとえば、災害現場の写真を載せるのではなく、全国から数多くの支援をいただいたことや復興計画の策定を待たずに着手した取り組みを載せるなど、報告書のデザインも含めて伝え方を工夫しました。いずれも、読み手である町民の皆さんが未来に向けて前向きな気持ちになれるように後押ししたいと考えたからです。「坂口さんには半常駐で、復興未来づくり会議の企画からシンボルプロジェクトの構造化、復興計画の作成まで手伝っていただき、本当に助かりました。住民からも『これまでの復興計画とは違う、明るい未来を予感させる計画ができたね』と喜ぶ声が届いています」と、黒田さんは手応えを感じています。

今後は計画の実行フェーズに移り、穴水町役場には2025年4月から復興推進課が新設されました。また、4つのシンボルプロジェクトは、部署横断で職員が選抜され、新たな体制で計画を推進していきます。「組織に活動を紐づけるのではなく、顔の見える人材を活動に紐づけた体制は、個々のコミットメントを引き出し、実行力が最大限に発揮されることでしょう。計画策定という当初の役目はひと段落となりましたが、NRIの専門性が発揮できるプロジェクトで、これからも適宜連携していけたらと思っています」と、坂口は今後の活動に期待を膨らませます。

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プロフィール

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    坂口 剛

    未来創発センター 地域創生・環境研究室

    大阪大学大学院修了後、野村総合研究所入社。入社以来、コンサルティングの現場にて、省庁の政策立案支援、民間企業の事業開発、地域における起業・創業支援に従事。専門は、クリエイティブ産業を中心とした事業の高付加価値化。出身地である熊本県にて、くまモンとのコラボ事業「くまラボ」フェローとして活動する他、埼玉県、大分県、沖縄県にて地域クリエイターとの共創事業に取り組む

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。