
経営役 金融ソリューション事業本部 副本部長 片山 正樹
金融犯罪による被害が急増している。被害額は漸減傾向にあったが2020年に増加へ転じ、2024年には詐欺被害だけでも3075億円※1に達した。特にルフィ広域強盗事件に代表される匿名・流動型犯罪グループによる犯罪は、特殊詐欺、SNS型投資・ロマンス詐欺などへ拡大している。組織的なマネー・ローンダリング(以下、マネロン)事件に加え、フィッシング詐欺やランサムウエア被害も急増している。地政学リスクも増している。ロシアをめぐるEU各国と米国の姿勢の差は、経済制裁の域にとどまらず、暗号資産に対する規制の差異に及んでいる。かかる状況を受け、政府はいわゆるFATF勧告対応法を2024年4月に完全施行した。また金融庁は2018年2月に「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」を発表し、継続的に改訂している。
国際基準と官民連携による日本の金融犯罪対策の現状
海外に目を向けると、マネロンおよびテロ資金供与対策の国際水準を規定する政府間組織に金融活動作業部会(FATF)が存在する。FATFは40の勧告の制定に加えて、勧告の履行状況を加盟国間で相互に審査している。審査において不合格※2判定を受けた場合、たとえば外国為替の手数料上昇や契約解除など、金融サービスへ大きな影響を与え得る。2019年の第4次対日相互審査では対応不足を指摘され、前述のFATF関連法案を施行した経緯がある。また2028年には次の第5次対日相互審査が迫っている。このように、金融犯罪対策は国外からも高い圧力にさらされている。日本はFATFの共同議長を務めており、その大きさは、その立場からも推して知るべしだろう。
しかし、金融犯罪対策は官による法規制だけでなく、民との協力によって成り立つ。かつての官民連携は民から官への一方通行であった。たとえば、金融機関などが疑わしい取引の届出を所轄官庁へ行っても、捜査当局から凍結口座名義人リストの提供や捜査関係事項照会が行われ、届出との紐づけを推察する程度であった。しかし現在では、詐欺被害の急増を受け官民連携が大きく進化している。「埼玉モデル」と呼ばれる仕組みでは、埼玉県警と県内金融機関が犯罪に使われた口座情報を即座に共有することで、被害拡大防止や犯罪者の検挙に一定の成果を出している。他県でも同様の仕組みが続々と発表され、県警と金融機関との情報共有が金融犯罪対策に有効であることの証左となりつつある。
民民連携の動きも出ている。地方銀行4行と野村総合研究所(NRI)が設立した合弁会社TSUBASA-AMLセンターでは銀行の知見・経験と弊社の技術を持ち寄り、金融犯罪対策業務を共同化した※3。2025年4月より各行からの金融犯罪対策業務の受託を開始し、高度化と効率化を両立しつつある。今後は受託先を国内金融機関へ拡大する予定である。
しかし、金融犯罪対策は官による法規制だけでなく、民との協力によって成り立つ。かつての官民連携は民から官への一方通行であった。たとえば、金融機関などが疑わしい取引の届出を所轄官庁へ行っても、捜査当局から凍結口座名義人リストの提供や捜査関係事項照会が行われ、届出との紐づけを推察する程度であった。しかし現在では、詐欺被害の急増を受け官民連携が大きく進化している。「埼玉モデル」と呼ばれる仕組みでは、埼玉県警と県内金融機関が犯罪に使われた口座情報を即座に共有することで、被害拡大防止や犯罪者の検挙に一定の成果を出している。他県でも同様の仕組みが続々と発表され、県警と金融機関との情報共有が金融犯罪対策に有効であることの証左となりつつある。
民民連携の動きも出ている。地方銀行4行と野村総合研究所(NRI)が設立した合弁会社TSUBASA-AMLセンターでは銀行の知見・経験と弊社の技術を持ち寄り、金融犯罪対策業務を共同化した※3。2025年4月より各行からの金融犯罪対策業務の受託を開始し、高度化と効率化を両立しつつある。今後は受託先を国内金融機関へ拡大する予定である。
官民・民民連携とAI活用による国際的な金融犯罪対策の進展
海外には、法的支援の観点で官民・民民連携が進んでいる国・地域がある。米国では米国愛国者法に基づいた情報共有が推奨され、官民に加えて民民連携が浸透しつつある。EUではAMLRと呼ばれる新規制により情報共有が可能となった。シンガポールではCOSMICと呼ばれる政府主導の情報共有プラットフォームが構築された。いずれにおいても当局が官民・民民の情報共有を法的に支援することで、金融犯罪対策の高度化が期待されている。
現在は金融サービスの利便性と不便性を再考する好機ともいえる。昨今は24時間365日の即時入出金・送金が当たり前になりつつあるが、利便性は犯罪者の武器にもなり得る。取引時の厳格な本人確認や個人情報の提供など、不便性による金融犯罪対策強化を金融サービス利用者に納得してもらうことで、金融犯罪対策を高度化することが可能であろう。加えて、金融機関が金融犯罪対策の責任を一義的に負うのではなく、監督当局が法的に支援することで、納得いく形での不便性の浸透が期待される。
またAI活用による緩和策も併せて考えるべきだろう。これまで、99%以上のアラートが偽陽性のために業務負荷が高かった金融機関もあったと聞く。現在では機械学習を適用し、偽陽性アラートの削減や検知そのものを最適化する事例が出てきた。またLLMを活用した調査効率の向上を企図するサービスも出現した。ネットワーク分析技術を用いて、官民・民民連携された情報を犯罪ネットワーク検知に広範に活用することも考え得る。NRIとしても金融犯罪の撲滅に向けて、犯罪対策の支援からAIなど先端技術の活用まで、幅広く支援していきたい。
現在は金融サービスの利便性と不便性を再考する好機ともいえる。昨今は24時間365日の即時入出金・送金が当たり前になりつつあるが、利便性は犯罪者の武器にもなり得る。取引時の厳格な本人確認や個人情報の提供など、不便性による金融犯罪対策強化を金融サービス利用者に納得してもらうことで、金融犯罪対策を高度化することが可能であろう。加えて、金融機関が金融犯罪対策の責任を一義的に負うのではなく、監督当局が法的に支援することで、納得いく形での不便性の浸透が期待される。
またAI活用による緩和策も併せて考えるべきだろう。これまで、99%以上のアラートが偽陽性のために業務負荷が高かった金融機関もあったと聞く。現在では機械学習を適用し、偽陽性アラートの削減や検知そのものを最適化する事例が出てきた。またLLMを活用した調査効率の向上を企図するサービスも出現した。ネットワーク分析技術を用いて、官民・民民連携された情報を犯罪ネットワーク検知に広範に活用することも考え得る。NRIとしても金融犯罪の撲滅に向けて、犯罪対策の支援からAIなど先端技術の活用まで、幅広く支援していきたい。
※1 警察庁「令和6年犯罪収益移転危険度調査書」、数値は令和7年3月現在の暫定値
※2 FATF相互審査結果は通常フォローアップ、強化フォローアップ、監視対象のいずれかに判断される。本稿では簡易的に通常フォローアップ以外を不合格と呼んでいる
プロフィール
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片山 正樹のポートレート 片山 正樹
経営役
金融ソリューション事業本部 副本部長
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。