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人事部 採用課 串間 淳
AI戦略コンサルティング部 中井 亮


デジタル化が進み、特にエンジニアのキャリア採用市場が過熱しています。これは転職を考えている人にとって朗報のようですが、選択肢が多すぎてかえって自分に合った仕事が探しづらくなる側面もあります。そうした求職者に寄り添って、成長機会を最大化していただこうと、NRIでは独自の「求人おすすめAI」サービスを開始しました。企画開発に携わった串間淳と中井亮に新サービスに込めた想いについて聞きました

 

適職があるのに知らずにいる機会損失に着目

企業の採用担当の間では「今日が一番採用しやすい日」という言葉をよく聞くほど、人材獲得の競争率は高まっており、NRIでも常時150前後のポストで人材を求めている状況です。キャリア採用担当の串間淳は、求人広告や人材紹介会社といった転職サービスを頼るだけでなく、そのようなサービスを使っておらず転職を積極的に考えていない、いわゆる転職潜在層へのアプローチも重要であると考え、エンジニア向け勉強会など新たなチャネルを模索しながら活動してきました。しかし、転職潜在層は転職活動に対して十分に準備ができているわけではありません。自分にはどんなキャリアの選択肢があるのか知らない人や目指したいキャリアを明確に整理できていない人も多い中で、1人1人と面談して仕事を紹介するには、「体が一つでは足りない!」ともどかしさを覚えたと串間は振り返ります。そのため、AI(人工知能)を活用してNRIが提供できる機会をうまく伝えられないかと考えるようになりました。

新卒者の書類選考、AI面接官、ボット形式のQ&Aなど、採用業務にAIを活用する企業は増えていますが、キャリア採用では、転職エージェントごとにレジュメ形式が異なり、記入場所や記載順序などの統一が難しいため、AIの導入が遅れています。フォームに入力し直さなくても、既存のレジュメをそのまま使って適職を提案する方法はないか。社内を当たったところ、人的資本プラットフォーム「Talent Market Place(タレント・マーケットプレイス)」(以下TMP)の開発で、人材と業務の最適なマッチングやタレントマネジメントのためにさまざまな形式の書類を読み取ってスキルを可視化するノウハウを磨いていることが判明しました。中井亮などTMPメンバーが開発に協力することになり、その結果、2024年に「求人おすすめAI」を開始するに至りました。

納得感とセレンディピティのバランスを重視

「求人おすすめAI」は、求職者がNRIのウェブサイトから基本情報に加え、志望する仕事や習得したいスキルなどのキャリア意向を記入し、履歴書や職務経歴書のPDFを添付して送信すると、数日後に「おすすめ求人レポート」が届くというサービスです。レポートにはAIが読み取った本人のスキル、おすすめ職種、スキルとキャリア意向とのマッチ度合い、レコメンド理由などが記載されています。NRIでは、本サービスを実装しながら、ハイライトや星印を使った可視化表現を追加するなどブラッシュアップを重ねてきました。


「特に注力したのは、社内の職種とのミスマッチを減らすために、世間一般で求められるスキルよりも、対象範囲の変更や細分化など自社に合わせてスキルを定義し直し、精緻に判定できるようにすることです」と、中井はAI開発について振り返ります。興味深いのは、本人のこれまでの実績だけでなく、「今後このようなキャリアを歩みたい」という意向を踏まえたり、幅広いスキル項目を用いたりすることで、現状のスキルに100%合致しない仕事がレコメンドされることもあるところです。そこには、本人の納得感とセレンディピティ(偶然の出会い)のバランスをとりながらポテンシャルを最大限に引き出すことを重視してきたTMPチームの知見が反映されています。「6割ぐらい自分の感覚と合い、4割は違う。そのくらいの意外性があるほうがAIと良い距離感でつきあえます」

効率化よりも機会最大化のためのAI活用

「求人おすすめAI」では人事関連の機微情報を扱うため、専用サービスと契約して入力した内容が学習に使われないように配慮するだけでなく、履歴書の情報をAIに読み込ませる前に個人情報を消し込む処理を行い、開発者にもAIにも個人情報が一切見えないようにする体制を整えました。レコメンドレポートの結果も選考に影響を与えないよう一定期間が経つと自動的に削除されます。「あくまでもレコメンドに特化し、結果を採用選考に用いないというルールも最初に決めました。採用業務の効率化よりも、ユーザー側に寄り添って機会を最大化することを重視することにしました。」

これまでは小規模な展開にとどめてきましたが、需要は着実にあると串間は感じています。利用者アンケートには「(足りないスキルについて)忖度せずに、厳しく指摘してもらって構わない」というコメントもあり、スキルの可視化は想定以上に好感されているようです。自社利用のために開発したサービスでしたが、当社と同様の課題を抱える企業から、このサービスを導入できないか、という問い合わせもいただいています。「今後はより多くの求職者に使っていただくためにプロモーションにも力を入れていく予定です。レコメンド結果を参考にするだけでなく、ユーザーの成長機会にしていただければと思っています。今は転職を考えていない人が、レポートをきっかけにキャリアを考えたり、スキルアップして、数年後にNRIに応募いただけたりすれば嬉しいです。」

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