&N 未来創発ラボ

野村総合研究所と
今を語り、未来をみつめるメディア

経営役 AI担当 生産革新センター センター長 稲葉 貴彦


生成AIの登場は大きな注目を集めた。その能力に期待が寄せられ、社会で議論が盛り上がった。しかし、今振り返れば、過度な盛り上がりに振り回された側面もあったといえる。多くの企業がPoC(概念実証)を試みても、ビジネスの根幹を揺るがす成果には至らず、「期待したほどではなかった」という声さえ聞かれた。
だが、熱狂が落ちつきを見せ始めた今、AIは本質的な深化へと歩みを進めつつある。問いに答える段階を超え、自律的に思考し、複数のツールを統合してタスクを完結させるAIエージェントへと変容しつつある。この変化を見据えれば、初期の盛り上がりはむしろ、未来を拓く予兆であったと捉えられる。われわれが向き合うべきなのは、単なる道具としての活用ではなく、AIがもたらす経済と企業の構造変革への対応ではないだろうか。

個人・業務・組織の三層を進化させ続ける動的ケイパビリティ

AIがもたらす変革は、顧客と企業の双方の能力を拡張させる。AIは顧客一人ひとりを理解し、寄り添うことで、生活や価値を豊かに拡張する。企業側でも、AIを通じて従業員の能力を補い、業務・組織をより高次元へ進化させてゆく。この顧客と企業の相互拡張こそが、新たな社会・経済を拓く原動力となるのではないか。野村総合研究所(NRI)はこの価値転換を「深さの経済(デプス・エコノミー)※1」と定義し、量を追う成長から、質を深化させる価値創出への転換と評している。AIのさらなる進化は、デジタルを単なる効率化の手段から、ビジネスのあり方そのものを変える主体へと押し上げる契機となる。これこそ従来のDXを超える挑戦と呼ぶべきであろう。
この変革期において、企業が備えるべき知的資産も変容する。AIを軸に、「個人」「業務・システム」「組織や企業」の三層を貫く能力は、新たな知的資産になり得る。
まず、AIと個人。AIが寄り添うことで専門性や創造性を拡張することが、人材の新しい価値を生む基盤となろう。
次に、業務・システム。AIを前提としたプロセスや設計が、変化に対応しながら従業員とAIの判断と実行を支える構造を備えることになろう。
最後に、組織や企業。現場の知見やデータをAIが循環させ、組織全体が学び・進化し続ける仕組みこそ、競争力の源泉となる。
これらの知的資産は一度築いただけで完成するものではない。個人の知性を拡張させ、それを業務・システムに実装し、組織や企業の能力として昇華させる。このサイクルを、AIの進化に合わせて絶えず回し続ける力こそ、自己変革を続ける動的ケイパビリティという新たな知的資産ではなかろうか。AIはこれからも進化し続け、市場や産業構造を刻々と書き換えてゆく。そのような激変期において、変化を創出し、変化に適応し続ける力こそ、企業の持続的成長の礎となる。

縦横の拡張で創り出す新たな価値

そして、このお客様の挑戦に真に寄り添うため、われわれNRI自身も自己変革に取り組んでいる。AI技術の急速な進展に対応すべく、「個人」「業務・システム」「組織や企業」の三層すべてで変革を志向している。中でも「組織や企業」の階層では、縦と横、双方向の拡張に挑んでいる。
横方向への拡張とは、外部との連携と知の融合を意味する。われわれNRIは、クラウドベンダー、AIスタートアップ、大学・研究機関との提携を通じて、多様な知見と技術を結集するAI共創モデルを推進している。こうした協業を通じ、お客様の課題に応じた知的支援体制を構築している。
縦方向への拡張とは、自社の内なる変革を深めることである。未来洞察から戦略立案、実装・運用までを一気通貫で提供するコンソリューション※2の深化と、業務プロセス・組織体制などの改革を進めている。こうした変革を通じて、自らを鍛えた経験こそが、お客様の変革に向けたインプットとなり、提案や実装・実現をより確かなものにする礎となる。

AIがもたらす変化は脅威ではなく、社会と企業を拡張する機会である。AIは人の創造性を解き放ち、従来、解決できなかった社会課題に挑むだけでなく、新たな価値を生み出す力も授けてくれる。NRIは「未来創発」の精神を胸に、お客様と社会とともに、AIが拓く未来を創っていきたい。変化を恐れず、自らを変革し続け、信頼されるパートナーであり続けたいと思う。
※2 コンサルティングとITソリューションを一体化したサービス形態。NRIによる造語

プロフィール

  • 稲葉 貴彦のポートレート

    稲葉 貴彦

    AI担当 経営役
    生産革新センター センター長

    金融や産業など多様な業種・業態のお客様向けシステム構築、自社サービス開発、パッケージ事業に従事。
    2020年、社内初のAI専門組織「AIソリューション推進部」の設立時より部長を務め、2022年には技術部門に分散していたAI活動を統合し、「NRI Solution Ai」を創設。
    2023年、生成AIの急速な発展を背景に、全社横断の「AI活用推進CoE(通称:AI CoE)」を立ち上げ、2024年よりAI担当役員ならびに生産革新センター副センター長を歴任。2025年より現職。
    全社をリードし、お客様向けAIソリューション事業の拡大と社内のAI利活用の両面を推進。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。