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産業ITコンサルティング一部 宇津 亮太
生産革新ソリューション推進部 岩松 航輝 
 

ビジネスの変化に対応するために何度も改修を重ねた結果、肥大化・複雑化したレガシーシステム。NRIではこれまでも数多くのお客様に対し、そのモダナイゼーションをお手伝いしてきました。ではAI時代のモダナイゼーションを成功させるには、どのようなアプローチが必要なのでしょうか。この分野に詳しいNRIの宇津亮太(写真右)と岩松航輝(写真左)に聞きました。

レガシーモダナイゼーションの3つのアプローチ

2018年に経済産業省が警鐘を鳴らし、大きな注目を集めた「2025年の崖」。レガシーシステムの複雑化・ブラックボックス化は、維持・保守コストを増大させるだけではなく、経営や事業レベルの損失につながることが指摘されました。しかし、2026年になった現在でも、レガシーシステムが残存しているケースは少なくありません。

その背景について宇津は、「レガシーシステムの更改は、関係者との合意が難しいことが最大の障壁になっています」と指摘します。人は誰でも、「現在あるもの」を当たり前と考える傾向にあります。レガシーシステムの継続に危機感を持ったIT部門が更改を立ち上げようとするものの、「今あるものを作り変えるだけで、なぜそんなに費用が掛かるのか」「新しい価値を産まないのに、やる意義があるのか」といった問いが経営層や利用部門から呈され、プロジェクトの方向性に影響を及ぼし、根本的な刷新を断念。最小限の保守切れ対応に留まるというケースも見受けられます。
「レガシーモダナイゼーションは、その狙いによって大きく3種類に分けることができます」と宇津は説明します。第一は事業継続リスク回避に向けたシステム課題解消であり、前述の保守切れ対応などはこれに当たります。第二はデータドリブン経営推進に向けた課題解消。そして第三が事業の高度化に向けて最適化された業務・IT基盤の獲得です。


これらのうち、どのアプローチが最適なのかは、各社・各事業・各システムによって異なります。時代が変化しても大きく変わらない事業・業務には、第一のアプローチも有効ですが、市場環境や事業戦略が大きく変わり、事業のあるべき姿を見直す局面にあるシステムには、第三のアプローチが求められます。「必要なアプローチを十分に見極められず、最小限のシステム課題の解消プロジェクトが乱立した結果、新たなレガシーシステムが多数生まれる事態となったと、お客様から窮状をお話しいただくこともしばしばです」と宇津は語ります。

「2025年の崖」を繰り返さないためのフレームワーク

第三のアプローチは、将来の事業を見据えた中長期での業務・データ・システム一体での変革活動に他なりません。個別システムの入れ替えではなく、事業成長をけん引する業務・データ・システムを、整合性を確保しながら持続的に作り変える必要があります。IT部門・利用部門はもとより、経営層を含む、全社を挙げての推進が不可欠です。これを進めるうえで、重要な役割を果たすのが「エンタープライズアーキテクチャー(EA)」です。


「EAをフレームワークとして活用することで、自社全体の業務・データ・システム全体を統合的に見渡し、ステークホルダー間で生じる齟齬を未然に防いだり、変革の途中段階での業務・システムの整合性の確保等のハードルを下げたりできます。これが全社一体での持続可能なモダナイゼーションを進めていく土台になります」と宇津は説明します。

持続可能性の実現には生成AIの活用が効果的

それでは実際に「持続可能なモダナイゼーション」を実現するには、何が重要になるのでしょうか。

「レガシーモダナイゼーションの本質は、企業が中長期的な競争力を維持するために、これまでの技術負債を解消していくことにあります。つまり『一度行えばそれで終わり』というものではなく、環境の変化に合わせて繰り返し実施する必要があるのです。そのため、作業負担や実施期間を最小化できるように、できるだけ効率的な仕組みを確立する必要があります」と宇津は語ります。
しかし、その効率化を阻むのが、「現状分析の困難さ」です。 長期間稼働してきたレガシーシステムは、度重なる増改築のために様々な時代のアーキテクチャーが混在しているうえ、数百万行規模の膨大な量に達しています。当時の設計意図を知る有識者も引退や離職で去っていきます。ブラックボックス化したシステムを人手で解読するには時に年単位の時間を要し、ビジネスのスピード感を損なう最大の要因となっています。
さらに立ちはだかるのが、「テスト工程の負荷」です。 IPA(情報処理推進機構)の統計によれば、一般的なシステム開発において、テストの工程は全体の約3割以上を占めるとされています。既存機能の継続性が要求されるモダナイゼーションでは、その比重はより高まり、継続的な変革を躊躇させる壁となっています。

「生成AIはこの問題を解決する一つの糸口となります。これまでNRIが培ってきたプログラム解析技術に生成AIを組み合わせることで、たとえ、設計書が実態と乖離していても、プログラムのコードから、設計書に含まれるべきデータの定義や、実装の背景にあるビジネス要件など抽象度の高い情報を生成できるからです。NRIでは2023年からその実験を開始しており、2024年7月には実際のプロジェクトで試行を開始しました」と岩松は語ります。実際にこの方法を採用した金融系のプロジェクトもあり、過去に人手で実施した際と比較し、大幅な負担軽減につながりました。


生成AIで効率化できるのは現行分析だけではありません。計画立案、設計、コーディング、そしてボトルネックとなっていたテストでも効果を発揮します。現行のコードや分析結果から、テストケースやデータを自動生成する技術なども検証や適用が進んでいます。 加えて、COBOLなどの古い言語からのコード変換にも、AIは力を発揮します。従来の変換ツールでは、古い言語の形式が踏襲されてしまうため、その読み解きのためにベテランの技術者が必要でしたが、生成AIを活用することで古い言語の癖を引き継がない自然なコードへの変換が実施できるのです。これと同時に、ドキュメントも自動で作成できます。

レガシーシステムを生み出す真因は「人と組織の問題」

「持続可能性ということを考えると、レガシーモダナイゼーションは長い道のりになります」と宇津。ロードマップの長さは10年程度に及ぶケースもあります。この長いロードマップを1~2年程度に区切り、刻みながら成功を積み上げていくことが、中長期的な成功につながると言います。さらに宇津は、「ここで重要なのが区切りの期間です。短すぎると時間不足で失敗しやすくなり、長すぎると経営方針の変化や人事異動でやり遂げるのが難しくなるからです」と説明します。

また、親身になって伴走するパートナーの存在も重要だと言えるでしょう。

「私がコンサルタントとしてお客様のプロジェクトに参画する場合には、外部から来たNRIの社員ではなく、NRIの知見をもったお客様社員である、というマインドで参画します。そのためお客様の状況を事前に、徹底的に調査します。また、お客様の視点から半歩先を進むことも心がけています。お客様に遅れるのは論外ですが、先に進みすぎてもご理解いただけないからです」と宇津は語ります。

最後に、レガシーシステムを生み出す真因は、結局のところ「人と組織の問題」なのだと宇津は言います。この問題に対して適切にアプローチすることが、最も重要な成功の鍵なのかもしれません。

プロフィール

  • 宇津 亮太のポートレート

    宇津 亮太

    産業ITコンサルティング一部

    

    2009年野村総合研究所入社。
    以後、業務改革構想、システム化構想・計画策定、大規模システム開発マネジメント支援等のシステムコンサルティング業務に従事。
    近年は、デジタル組織変革、デジタルを活用した事業・業務革新、レガシーモダナイゼーション等のCDO/CIOアジェンダを中心に、製造業とその周辺業界の変革を支援。

  • 岩松 航輝のポートレート

    岩松 航輝

    生産革新ソリューション推進部

    2012年、野村総合研究所に入社。情報技術本部に配属。ノムラ・リサーチ・インスティテュート・アイ・ティ・ソリューションズ・アメリカ パシフィック支社にて、モダナイゼーションへAIを適用する研究や、日系企業とスタートアップとの協業支援などを実施。
    現在は生産革新センターに所属し、ソフトウェアアーキテクチャー、AIセキュリティ等の専門性を活かし、新規事業創出やベンチャー協業を推進。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。