
MS&ADシステムズ 常務執行役員 ハインツ マーク(写真中央右)
MS&ADシステムズ 品質管理部長 永浦 健(写真右)
野村総合研究所 システムコンサルティング事業本部 木村 誠明(写真中央左)
野村総合研究所 システムコンサルティング事業本部 坪内 佳世子(写真左)
システム障害などの危機対応では、現場で指揮をとって迅速な復旧を実現させる「インシデントコマンダー」の役割が重要になっています。グループ傘下の保険会社のシステムを一手に管理運用するMS&ADシステムズは、NRIと共に、レジリエンス(回復性)強化に向けたガイドライン整備や人材育成に取り組んできました。その狙いや実践状況について、両社の関係者に聞きました。
金融インフラの信頼を支える「レジリエンス」の追求
――どのような問題意識で今回の協働に至ったのでしょうか。
ハインツ : いまや、金融業ではシステムなしに日々の業務はできません。お客様の有事に経済的サポートをする保険商品の特性上、お客様にとって大切な瞬間にシステムダウンすることは一番避けたい状況です。トラブル発生を未然に防ぐだけでなく、万が一発生したときに速やかに業務を復旧し、お客様への影響を最小限に抑える仕組みをつくろうと考えていました。
木村 : 従来のトラブル発生自体を防ぐことを重視する考えに対して、システム障害などが発生しても、ユーザー影響を極小化し、より早く回復させる考え方はレジリエンス(回復性)と言われます。レジリエンス向上には、技術的な取り組みだけでなく、組織体制、プロセス整備、人材育成など総合的な取り組みが必要になります。特に、現場で指揮をとり全体の方向性を決め推進し、迅速な復旧を実現させる「インシデントコマンダー」は障害対応の要となります。
永浦 : 大規模なシステム障害は日々発生するものではないため、これまでは限られた社員が現場を取り仕切って対応していました。しかし、昨今のシステムの複雑化やリスクの高まりを受けて、未然防止を尽くしてもなおシステム障害は発生することを前提に、特定の人に頼るのではなく、インシデント対応を1つのスキルとして標準化し、リーダーシップがとれる人材を増やしていきたいと考えています。
「個の知見」から「組織の資産」へ
――どのような考え方でプロジェクトを進めましたか。
永浦 : まず着手したのは、インシデントコマンダーの定義とジョブ・ディスクリプションの作成です。実際にどういう段取りで、何に留意してタスクを進めるのか。属人的な暗黙知を形式知化し、他のメンバーでも対応できるように、文書へと落とし込みました。
坪内 : 大規模な組織では、文書による定義も重要です。インシデントコマンダーの定義と役割に加え、望ましいシステム障害対応体制、対応フローなどをまとめ障害対応ガイドラインとして整備しました。意識したのは、NRIの知見を活かしつつもMS&ADシステムズに根付くものにすることです。ビジネス背景や現場の実務を丁寧に理解し、現場の思いを吸い上げることも重視しました。
永浦 : そうして定義した我々のナレッジの核を現場に根付かせる取り組みとして、全本部から本部長クラスの他、次世代インシデントコマンダー候補も含めて推薦してもらい、20名ずつ2回に分けて研修を行いました。
――どのような研修を行ったのでしょうか。
木村 : 今回は特にインシデントコマンダーの育成にフォーカスを当て、これまで暗黙知の塊であった障害対応を体系的に学んでいただくことを心がけました。座学だけでなく、ケーススタディやワークショップを通じて、参加者同士が対話を深め、実践的な内容に触れられるように工夫しました。
[写真]ワークショップやケーススタディでは、異なる本部のメンバーが活発に議論し意識を共有
永浦 : ケーススタディの議論では、各本部の創意工夫や共通の悩みなどを共有できました。木村さんのようなこの分野での第一人者から先進的な手法を学べたことも、参加者の気づきになったと思います。研修後のアンケートの反応も想定以上に好評でした。
木村 : 本部横断でナレッジを共有できたことなど、前向きな発言が多くて良かったです。いざというときに協力し合えるマインドや文化の醸成に役立ったのではないかと思います。
早期業務復旧を実現するための、「継続と改善」は続く
――プロジェクトの感想や今後の展望をお聞かせください。
坪内 : 今回のプロジェクトは、経営層の強い意識と現場の皆さまの改善意欲が合わさって実現しました。ビジネス環境やテクノロジーが大きく変化するなかで、インシデントコマンダーの重要性は今後ますます高まっていきます。しかし、人材の育成や仕組みの定着は一朝一夕には進みません。だからこそ、単発の施策で終わらせず、人員配置も含めた中長期的な計画が不可欠であると考えています。
永浦 : どのような素晴らしい研修であっても1回実施しただけでは忘れてしまいます。定期的に情報をアップデートし、実践によって得られたスキルやノウハウを維持・向上できるような仕組みをつくることが今後の課題です。今回の取り組みは種蒔きに相当しますが、同じ種を蒔いても本部ごとに育ち方が違ってくるものです。品質管理面からも、本部間のバラツキをなくし、全社で方向性が揃うように標準化を推進していきたいと思います。
木村 : システム運用品質の向上は普遍的なテーマですが、取り巻く環境や手法は変化しています。昨今のAI駆動「開発」は、システム規模を急激に拡大させるものです。しかし、無策のまま「運用」に突入すれば、管理能力を超え大きな問題を引き起こすリスクがあります。障害対応にもAIの活用が必要になりますが、最終的な判断は人がします。その意味でも、今回私たちが注力したインシデントコマンダーの育成は、AI活用においても成功の鍵になると思います。
ハインツ : DX(デジタルトランスフォーメーション)が定着し、どの事業においてもITシステムの活用が業務に欠かせなくなっていますが、それに伴ってリスクも一層複雑化していきます。トラブルを減らすことだけでなく、インシデント発生時に、お客様や業務への影響を最小化し、早期に復旧させることが何よりも重要です。早期の業務復旧に向けて誰が何をすべきかを整備することは、会社の大きな資産になります。今回作り上げたものを土台として、有事の際にも高いレジリエンスを発揮できる組織へと、今後も継続的に磨き上げていきたいと考えています。
プロフィール
-
木村 誠明のポートレート 木村 誠明
ITアーキテクチャーコンサルティング部
2002年NRI入社。金融系業務システムの開発・保守運用に携わり多くの障害対応を経験。その後、システム運用高度化のための技術開発・サービス開発を実施。現在はITサービスマネジメントの専門家として、社内外のシステム運用の改善に携わるとともに、障害対応力向上のための研修講師も手掛ける。NRI認定ITサービスマネージャー。
-
坪内 佳世子のポートレート 坪内 佳世子
ITアーキテクチャーコンサルティング部
2009年NRI入社。
保険会社向け業務システムの開発・保守・運用に携わった後、現在はシステム運用の改善・高度化を中心としたコンサルティング業務に従事し、システムレジリエンス強化支援活動などを行っている。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。