&N 未来創発ラボ

野村総合研究所と
今を語り、未来をみつめるメディア

代表取締役 社長 柳澤花芽


昨今のAIは、技術進化とユーザの広がりに伴い、効率化・便利ツールにとどまらない役割を担いつつある。一般利用者においては、AIを親友や恋人のような存在として位置づけ、両親にも打ち明けられない悩み相談を持ちかける、といった活用が広がっている。また、企業にとっても、生産性向上のための道具や壁打ち相手としての役割から、最近ではAI取締役や創業者を模したAIなど、経営にかかわる重要な役割を期待する動きも出てきている。両者に共通するのは、AIをもはやツールではなくパートナーとして捉えているということであろう。
この動き自体は面白い進化であると筆者も感じるし、AIの使われ方が広がることで新たな市場の創造にもつながっていくことを期待している。ところが、いざ自分自身が企業経営において、このパートナー型AIを活用するかと問われると一抹の「不安」がある。

満足度優先が招く同調型AIの危うさ

話は少し脱線するが、広く知られているように、AIは「それっぽい回答」を返してくる。それは、単にネット世界に出回っているよくある回答例を拾ってくるから、という理由にとどまらない。そもそもAIの学習プロセスの中に、「利用者の満足度を高める」ように回答を最適化する仕組みが入っているのだ。そのためAIは、たとえ適切な解がないような問いかけに対しても、利用者が求めているであろう心地のよい答えを推論し、「それっぽいと思わせる回答」を捻出してしまう傾向があるのだ。
AIを開発する企業からすると、利用者からの評判を上げていくことは普及に向けた必要条件であり、その結果、利用者に寄り添う傾向が出てしまうことをわれわれは否定することはできない。逆にいえば、正確性を求めるばかりに、利用者の意見を真っ向から否定したり、「解なし」と一刀両断したりするAIでは、ここまで世の中に浸透しなかったであろう。

経営の多様性を脅かすパートナー型AI

さて、話を「不安」に戻す。このような性質を持つAIをツールではなくパートナーとして活用した場合、筆者は、経営にとって必要かつ重要な要素である「多様性」が損なわれる可能性があることを懸念している。この「多様性」という要素は、複雑化する経営環境下で企業価値を向上させるためには、業務執行や意思決定プロセスにおいて、より多面的な見方や多様な価値観が必要になる、ということで近年、特に着目されてきた。一方で、AIの特徴を十分に認識しないままパートナーとして重用し続けると、利用者自身に対するAIの学習が進み、気づかないうちに自分の意見に同調するAIばかりが周りに置かれることになってしまう可能性がある。それが思考プロセスにおける「多様性」を失うリスクにつながると考える。
特に経営者の抱える悩みには、一意に解が導かれないものの方が多い。そのような場面こそ多様な意見が必要になるが、学習が進み練度の上がったパートナー型AIは、経営者の初期仮説に対し明確に同調してくるであろう。ここにAI活用経営の危うさが潜むのではないかと考えている。とりわけ、人間のようなしがらみがないAIは客観的で忖度ない意見を提示するはずと信じる利用者ほど危険である。

「価値観の分散」を担保するAI活用経営

これらのリスクを抑制するために、筆者はAIの位置づけやつき合い方に関してあらためて点検することが必要だと考える。たとえば、パートナー型AIには人間と同じように任期をルール化し、定期的に刷新するほか、同調型ではなく否定型のAIを併せて採用することなどが考えられる。
また、それらと併せて、企業が社員に求める資質や素養も変わってくる可能性もある。AIの同調性気質が少なからず残り続けるものだとすると、企業は採用や登用といった人事戦略においても今まで以上に価値観の分散を求めるべきであろう。加えて、個々人においては、AIに流されない芯の強さや、自身とは考えの異なる人の意見を素直に聞き入れる受容性などが、より重要な資質となっていくだろう。

今の時代、企業経営においてAIなくして変革は成り立たない。AIに関するケイパビリティは、もはや主要な経営資本の一つとして認識されるべきであろう。野村総合研究所(NRI)においても、2026年4月よりスタートする中期経営計画にて、AIのケイパビリティを積極的に拡充することを掲げている。
一方、もう少し先を見据えると、これまで述べたようなリスクを実際にコントロールする場面も出てくると思われる。筆者もこれから、経営における多様性の観点でAIをどう位置づけていくべきか、パートナーとなるAIとどうつき合っていくべきかを考える必要があると考えている。そのために、まずは「人間と」じっくり議論していきたい。

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    柳澤 花芽

    代表取締役 社長

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