
日本車いすラグビー連盟 日本代表ヘッドコーチ 中谷 英樹氏
AIソリューション推進部 徳田 靖之(NRIデータ分析コンテスト2025審査員)
セキュリティソリューション事業推進部 下川 拓己(同コンテスト1位受賞チーム代表)
産業ソリューション事業二部 松山 夏樹(同コンテスト2位受賞者)
AIの進化により、膨大なデータの処理や解析は大幅に効率化されました。だからこそ、価値の源泉は分析そのものより「分析をもとに意思決定を動かす提案」に移っています。野村総合研究所(NRI)は、顧客理解から課題設定、示唆の抽出、提案までを一貫して担える人材を「真のAIプロフェッショナル」と定義し、その育成に力を注いでいます。そうした能力を実践で鍛える場が、「NRIデータ分析コンテスト」です。本記事では、このコンテストを通じて、AI時代にNRIが目指すプロフェッショナルのあり方について紹介します。
正解なき課題で提案力を鍛える「NRIデータ分析コンテスト」
審査員のNRI徳田靖之はその意図を「未知の状況下で論点を自ら設計し、自分なりに工夫して解釈を導く経験を積んでほしかった」と述べます。
「これまでのコンテストでは企業の課題とマーケティングデータを扱ってきました。これらの分野は、すでに分析手法や事例が豊富で、定番の分析手法であればAIでも実施可能です。一方、スポーツ分野はNRIにとって馴染みが薄く、事例も限られるため、AIでは十分に対応できません。参加者には問題をどうとらえ、いかに工夫して分析プロセスを設計するかが問われます。その意味で、実践の学習機会として有意義だと考えました」
NRIと車いすラグビーのつながりは、徳田が東京スポーツ・レクリエーション専門学校(TSR)でデータサイエンスの講師をしていたことに端を発します。TSRに所属する学生であり、車いすラグビー日本代表チームのアナリスト田中咲希氏と知り合ったことがきっかけで、コンテストの課題にすることを思いつきました。車いすラグビーはスピーディーで迫力のある競技です。同時に徳田は「最適化問題のような面白さ」があると感じました。
例えば、車いすラグビーの試合は4対4で試合を行われますが、選手には障がいの程度に応じた持ち点があり、コート上の4人の合計点は8点以下に抑える必要があります。そのため選手の組み合わせである「ライン構成」一つとっても、戦術上の大きな要素になります。こうした特性に着目した徳田は、TSRを通じて車いすラグビー日本代表チームのヘッドコーチ中谷英樹氏を紹介してもらい、中谷氏と協議を重ね、今回の課題設定が実現しました。
パラリンピック連覇も視野にした戦術提案
コンテストにあたり車いすラグビー連盟から提供されたのは、日本代表チームが参加した国際大会の映像とスコアデータです。これらを活用して「日本代表チームが抱える戦術上の課題を分析し、原因の推測と課題の解消・緩和する方法を提案する」ことがコンテスト参加者に課されました。
日本代表チームは2024年のパリ・パラリンピックで金メダルを獲得。世界ランキング1位を維持し、2028年のロサンゼルス大会の連覇も目指しています。課題設定にも関与した中谷氏は、2025年にヘッドコーチに抜擢されましたが、それまでは、長年、映像分析のアナリストとしてチームを支えてきました。その中谷氏は、今回のNRIのコンテストに協力した理由について「新しい発見への期待があった」と話します。
「どんな分析をしてもらえるのか、純粋に興味がありました。日頃は競技だけに目が向き、視野が狭まりがちです。チームが継続的に抱える課題に対して、何か新しい示唆をいただければと思いました」
動画解析と可視化で戦術課題を掘り起こす
2025年9月末にデータが提供され、参加者たちはおよそ3カ月かけて分析を行い、提案をまとめました。車いすラグビーは、参加者にとって、普段の業務からすると未知の分野です。1位、2位の受賞者は、それぞれ独自の工夫とアプローチで分析にのぞんだことが評価されました。
5人チームで参加して1位となった下川拓己(チーム代表)は「ゴールから逆算した分析」を挙げます。
「実際の戦術に活用いただける提案とするため、まず、どのような結論であればコーチが活用しやすいかを考えました。そこにつながる要素を探すかたちで分析を進めました。いただいた膨大な量の試合動画をチームで視聴し、観戦にも行きました。仮説を持ち寄り、コーチが使いやすい示唆を得ることを意識し、試合映像から重要な局面の情報を手作業で抽出していきました」
一方、2位の松山夏樹は、ディープラーニングによる動画解析に取り組みました。
「提供された動画では、試合の最中に選手が行動した結果――パスをした、それが成功した、という結果しかわかりません。そこで過程を知るために、動画解析を試しました。すると例えば、選手がどの方向にどれくらいの速さで動いたかがわかります。こうしたさまざまな観点から選手の動きを詳細に追って、仮説を検証していきました」
選手特性を生かす戦術設計の実践
中谷氏はデータ分析への期待として、次のように語ります。
「車いすラグビーはもともと、頸椎損傷の人のために生まれたスポーツです。最近は、先天性の四肢欠損や病気による四肢麻痺など、さまざまな障がいのある選手の参加が増えています。例えば、頸椎損傷の選手は体幹機能が弱く、瞬発的な動きが取りにくい場合があります。こうした特性の違いを踏まえながら、それぞれの選手がどうすれば活躍できるかという視点で、競技そのものを分析できたらと思っています。実際、頸椎損傷の選手がもっと活躍できるプレー方法はないかと日頃から考えていて、その解決策の糸口が見つかることも今回の課題には込めていました」
真のAIプロフェッショナル
今回のコンテストへの参加は、受賞者たちにとってどんな経験となったのでしょうか。今後の展望とともに、下川は次のように語ります。
「これまでのデータ分析は、エンジニアリングの力や、どんな手法で解析するかといったアプローチ設計が重要でした。ですがAIによってその領域は徐々に代替できるようになってきています。これからは、お客様の思いに寄り添いながら課題を設計し、独自の着眼点を持つことが強みとなると実感しました。同時に、それができないと、社会に価値を提供できなくなるのではとの危機感も持ちました。今回私たちのチームは勝つための効果的な戦術を導きましたが、中谷ヘッドコーチから指摘があったように、“個々の選手が活躍するための視点”も持てれば良かったと思います。そんなふうに、相手の思いをくみ取り、AIでは代替できない部分で価値を出せるデータ分析者になりたいと思っています」
松山も今回の経験を踏まえて、次のように振り返ります。
「普段の業務では扱わない分野で、ディープラーニングに挑戦できたことは、たいへん勉強になりました。また、車いすラグビーという未知の分野に自分が仕事で使っている手法を用いて、そこから新しい知見が得られたことも面白いと思いました。今後も新しい技術に挑戦するとともに、自分が習得した技術を他分野で応用することで、社会に役立てられたらと思います」
審査員の徳田はコンテストを振り返り「自ら課題を設定し、分析の観点を工夫した参加者の評価は高かった」と話します。
「データ分析は、すでに一般化された手法が数多くあり、普段の業務では、それらを適用するだけでも一定の成果は出せるでしょう。しかし、これから問われるのは、未知の領域で顧客も気づいていない課題を発見し、思いをくみ取りながら仮説を立て、どんな軸でデータを捉え、解決案を導くか、ということです。そこにこそ本当の価値が生まれると考えます」
AIが発達している今だからこそ、NRIは、AIを活用しながら本当の価値を生み出せるAIプロフェッショナルの育成に今後も取り組んでいきます。
プロフィール
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徳田 靖之のポートレート 徳田 靖之
AIソリューション推進部
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下川 拓己のポートレート 下川 拓己
セキュリティソリューション事業推進部
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松山 夏樹のポートレート 松山 夏樹
産業ソリューション事業二部
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。