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経営役 システムコンサルティング事業本部 副本部長 奥田 友健

生成AIの台頭と市場の動揺

近年、アンソロピックの「Claude」をはじめとする生成AIの高度化により、法務・財務などの専門業務を理解し、システムそのものを自動開発する機能が進化している。これが既存の業務SaaS(Software as a Service)の領域を侵食し、置き換わるとの予測がある。この悲観論が市場に影響し、2026年2月には、北米を中心に主要な業務SaaSベンダーの時価総額が一時10兆円以上も消失する事態となった。

SaaSが「死する」といわれる背景

これまでのSaaS利用の前提は「業務プロセスをソフトウエアの仕様に合わせる」ことにあった。企業は多機能すぎるツールに安くない月額費用を払い、使いこなせない機能のために複雑なUI操作を強いられてきた。
しかし生成AIは、ユーザーの要望に応じ、必要な機能だけを備えたマイクロツールを数秒で生成する。「今週の売上を可視化したい」「このデータをフィルタリングする画面が欲しい」といった要望に対し、その場限りの専用アプリを提示し、業務が終われば削除してしまうことも可能である。
この「使い捨てソフトウエア」の圧倒的な俊敏性と柔軟性は、硬直的なSaaSには模倣できない価値である。特に、テキスト処理、データ分析、簡易的なワークフロー管理といった、これまで特化型SaaSが担っていた領域の多くは、汎用LLMのプロンプトエンジニアリングで代替することが可能であろう。
現在、企業は、チャット、タスク管理、ドキュメント作成など、機能ごとに異なるSaaSと契約し、その管理と支払いに追われているが、高度な推論能力を持つ生成AIは、これらを統合するプラットフォームになり得る。企業にとっても、「月額1000円のツールを10個契約する」より「月額3000円の生成AIですべて自作する」方が、コストパフォーマンスで圧倒的に優位である。これらが「SaaSの死」が叫ばれる背景である。

システムの信頼性と責任の所在

では、生成AIがつくり出したマイクロツールの品質責任は誰が負うのか。そこから生み出されたデータが基幹システムに取り込まれ、他業務で利用される際、データの整合性は誰が担保するのか。生成コードにバグがあり、情報漏洩やデータ損失が起きても、生成AIベンダーはその責任を負わない。生成AIは「動くコード」を書くのは得意だが、セキュリティや大量データ処理時のパフォーマンス、例外処理といった非機能要件を満たして「正しく動く」ことまでを保証するものではない。プロのエンジニアによるレビューなしに実運用するのはリスクが高すぎる。
また、企業全体のバリューチェーンを理解していない社員が局所的なツールを乱立させた場合、全体の品質統制はどうなるのか。類似ツールを、重複して開発する社員工数は全体の生産性を低下させる。
対してSaaSには、法改正への追従やセキュリティ更新、グローバル標準の取り込みが継続的に行われる仕組みがある。これがレガシーシステム化を防ぐ一助ともなっている。SaaSは、こうした運用の責任を外部化し、顧客企業が経営資源を戦略領域に集中することを可能にする役割も担っているのである。

生成AIとSaaSは共存する

生成AIの進化は目覚ましく、費用対効果と品質が許容される範囲においては、一部のSaaSを代替していく流れは避けられないだろう。
しかし、生成AIを活かすためには良質なデータが不可欠である。そもそもSaaSは業務プロセスを整え、品質が担保されたデータを生み出す基盤であり、生成AI活用の前提整備そのものといえる。
つまり、生成AIはSaaSを不要にする技術ではなく、むしろ業務の刷新や高付加価値化を実現する加速装置なのである。「代替」ではなく「共存・加速」の関係にあると捉えるべきだろう。
ここで危惧すべきは、「SaaSが代替されるかもしれない」「SaaSは死んでしまうかもしれない」と様子見を決め込むことだ。生成AIの進化を待っている間にも、既存システムの老朽化、属人化、セキュリティリスクは確実に進行しているという事実は変わらない。
だからこそ、企業経営を担うCxOには、生成AIとSaaSが共存するための議論を期待したい。すなわち、スコープの議論である。生成AIにもSaaSにもそれぞれ役割や得手不得手があり、費用対効果を最大化する使い方がある。導入に向けてチャレンジするのは適用スコープのトライアンドエラーであり、導入可否の議論ではない。

プロフィール

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    奥田 友健

    経営役
    システムコンサルティング事業本部 副本部長

    

    1996年国内大手Sier入社後、2006年NRIに入社。
    ITアーキテクチャーコンサルティング部にてIT戦略、システム化構想、システム基盤設計など数多くを経て、デジタルテクノロジーを活用した店舗業務改革、働き方改革、デジタルマーケティングなど、デジタルトランスフォーメーションに向けたコンサルティングに従事。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。