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金融ITイノベーション事業本部 エグゼクティブ・エコノミスト 木内 登英

2026年2月末の米国・イスラエルによるイラン攻撃以降、ホルムズ海峡の事実上の封鎖が続き、世界の原油供給は大きく減少した状態にあります。4月8日には米国とイランが2週間の停戦で合意と報じられましたが、原油供給の先行きはなお不透明です。原油価格が高騰し、原油供給不足のリスクが高まる中、アジア諸国を中心に電力・石油製品の消費抑制策が始められています。日本ではまだそうした施策は実施されていませんが、近い将来、政府は国民や企業に対して電力・石油製品の消費の自粛要請などを打ち出す可能性があるでしょう。さらに自粛要請が規制にまで進めば、日本経済にも大きな悪影響が及びます。

電力・ガソリン消費の自粛要請は近いか

IEA(国際エネルギー機関)の集計によると、4月2日時点で30か国近くが節電対策に乗り出しています。石油備蓄を多く抱える韓国でも、大統領が国民や企業に車の利用抑制を呼びかけています。公的機関ではナンバープレート別の車両利用制限を実施し、また、ガソリンの買い占め対策なども実施しています。
そうした中、日本政府は、「あらゆる可能性を排除せず、臨機応変に対応する」としつつも、「現時点で石油や電力の供給に問題はない」ことから、電力・ガソリン消費の自粛要請は出さない、としています。政府が慎重な姿勢を崩していないのは、自粛要請が国民の間に混乱を生み、原油関連製品の前倒し購入などを引き起こせば、供給不足と価格高騰にむしろ拍車をかけてしまうことを恐れているのでしょう。1970年代の第1次オイルショックの際には、政府による紙の節約の呼びかけがトイレットペーパーの買い占め騒動のきっかけとなったとされ、このことも、政府の姿勢を慎重にさせているのではないかと思われます。
また、コロナ禍の際の経験に照らせば、自粛要請は経済活動にマイナスの影響を生じさせ、また国民の不満が高まり政府批判につながることも懸念していると考えられます。
しかし、ホルムズ海峡を通じた原油の輸入が正常化しない限り、国内でガソリンなど石油製品が底を突き、電力供給が削減される事態がいずれ生じることになります。そうしたタイムリミットをできるだけ先に延ばすためにも、自粛要請は早めに検討されるべきではないかと考えます。

ガソリン補助金の予算枯渇と補助金削減・ガソリン価格上昇の可能性も

政府は現在、ガソリン1リットル当たり49.8円の補助金を実施しています。今後もこの補助金の水準が続く場合には、政府が確保しているガソリン補助金の予算は2026年6月9日に枯渇する計算です(標準シナリオ)。
他方、海外での原油価格が一段と上昇し、今後、補助金額が1リットル当たり60円へと引き上げられる悲観シナリオでは、5月29日に予算が枯渇する計算となります(図表1)。


現在確保している予算が枯渇した場合でも、政府は新たに予算を確保することで、補助金制度を維持する可能性は高いでしょう。しかし、現在のガソリン補助金制度を見直して補助金を縮小させることは考えられます。それは、ガソリン価格の緩やかな上昇をもたらすでしょう。
政府が補助金を縮小するとすれば、第1の狙いは財政負担の軽減です。元売り業者のガソリンの卸価格は、海外での原油価格によって主に決定されると考えられます。全国のレギュラーガソリンの平均価格を1リットル当たり170円程度に抑える現在の政府の補助金制度のもとでは、原油価格が上昇するほど補助金の金額が膨らんでいき、財政全体を圧迫することになります。
第2の狙いは、個人にガソリン消費の節約を促すことです。政府はいずれ国民に対して、ガソリン消費の抑制を呼びかけることになると考えられますが、その際に、補助金でガソリン価格を比較的低位に安定させれば、抑制は進み難くなってしまいます。
早ければ5月にもガソリン補助金が削減され、現在の1リットル170円程度が、180円や190円、場合によっては200円まで引き上げられる可能性があると見ておきたいと思います。ただしその場合でも、ガソリン価格の上昇で生活が大きな打撃を受ける低所得層などに対しては、給付金など、別途、支援策を講じる必要があるのではないかと思います。
仮に政府が補助金を削減して1リットル200円までのガソリン価格上昇を容認する場合には、1リットル170円と比べてガソリン価格は17.6%上昇します。2人以上世帯の平均ガソリン消費額は2025年に7万2,474円でしたが、それが17.6%増加する場合には、家計の負担額は年間1万2,755円増となる計算です。

日本の原油はどの程度確保できているか

2026年4月3日時点で、日本の石油備蓄は、国家備蓄の146日分、民間備蓄の80日分、産油国共同備蓄の6日分、合計で232日分あります。仮に海外からの原油輸入が停止しても、日本は8か月近く石油製品を消費し続けることができる計算となります。
政府は、石油備蓄の放出を行う一方、ホルムズ海峡を通らない代替ルートからの原油の調達に奔走しています。日本は原油の90%以上を、ホルムズ海峡経由で輸入していました。他方、世界全体の原油供給の約2割はホルムズ海峡経由で供給されていました。ホルムズ海峡が事実上封鎖されているもとでは、世界の国々が原油を求めて争奪戦を繰り広げている状況です。その中で、日本がホルムズ海峡を通らない代替ルートを開拓して、新たに原油を調達することは簡単ではありません。
2025年の日本の原油輸入先の3.8%が、世界最大の産油国である米国でした。中東諸国を除けば最大の輸入先です。さらに3月の日米首脳会談で、日本が米国産原油の輸入を拡大することで両国は合意しています。この点から、代替ルートからの原油調達の拡大余地が大きいのは米国でしょう。
実際、高市首相は7日の記者会見で、5月に米国からの原油輸入は前年比約4倍まで調達が拡大する見込み、と説明しています。
しかし、米国から今後も安定的に原油の輸入を拡大し、それを維持することには、なお課題があるのではないかと思います。第1に、イラン情勢の影響で世界の原油需給がひっ迫し、海外からの原油輸入が難しい中、国内需要への対応を優先させるために、米国は原油輸出の拡大に慎重になってくると考えられます。
第2に、米国本土の原油は軽質油です。日本の石油精製設備の大半が中東産の重質油に対応していることから、米国からの原油の輸入を拡大できても、石油製品を生み出す精製がにわかには進まないという問題が生じる可能性もあると考えられます。
第3に、ホルムズ海峡経由での原油輸入に大きく依存するアジアの国々が原油を確保できるように支援する役割を、日本は期待されています。こうしたなか、日本が自国だけのために米国やその他の国からの原油調達に奔走することには問題があるでしょう。
さらに、代替ルートでの原油調達には、パイプラインを使ったサウジアラビア産の原油を購入する紅海ルートが含まれているとみられます。ホルムズ海峡を経由した原油の供給は日量2,000万バレル程度とされる一方、紅海ルートでのサウジアラビア産の原油の供給は日量500万バレル程度と約4分の1とみられます。これは、有力な原油調達の代替ルートですが、イエメンの親イラン武装組織フーシ派が参戦したことで、紅海ルートでの原油供給も遮断されるリスクが残されています。
以上のような点を踏まえると、ホルムズ海峡を通らない代替ルートからの原油調達を拡大させ、それを維持することには、引き続き制約があるように思われます。
高市首相は、原油の輸入は4月に前年比2割以上、5月に過半の調達に目途が立ち、また、年を越えて原油の供給の確保に目途が立ったと説明しています。その場合でも、ホルムズ海峡が再開しない限りは、石油備蓄はいずれ底を突いてしまうことには変わりはありません。
原油供給が不足する時期をできる限り先送りする点と、改めてエネルギー消費の効率性を高める観点からも、政府は国民や企業に対して電力・石油製品の消費の抑制などを早めに要請し、状況次第でそれを段階的に強化していくことが求められると思います。

電力供給の削減といった強い規制措置が出される場合の経済への影響

ホルムズ海峡が再開しない場合には、原油や石油製品の供給不足のリスクは着実に高まっていきます。そのため政府は4月中にも、個人や企業に対して電気やガソリンの消費を抑制することを緩やかに促す要請を出す可能性があるでしょう。その後、要請はより強化されていき、規制措置にまで発展する可能性もあるかもしれません。
原油価格の高騰や原油の供給不足を受けた政府の対応を考える際に参考になるのは、1970年代の第1次オイルショック時の政府の対応です。当時政府は、以下のような節電・省エネを国民と企業に対して要請しました。

・日曜日の自家用車利用の自粛(サンデードライビング自粛)
・高速道路での低速運転の推奨
・暖房の設定温度の引き下げ(省エネの象徴的行動として実施)
・不要不急の照明・電力使用の削減(ネオン・看板照明を含む)
・深夜のテレビ放送自粛
 
ホルムズ海峡を巡る状況が好転しない場合には、これらよりも厳しい規制措置を打ち出さざるを得なくなる可能性についても考えておく必要があるのではないかと思います。
1970年代の第1次オイルショック時には、政府は大口電力需要者に対して15%の電力供給の削減を3.5か月間実施しました。そうした強い規制措置が早期に講じられる可能性はなお低いと思いますが、仮に先行き、同様の措置が講じられる場合には、日本の実質GDPは1年間で0.94%押し下げられる計算となります。それは以下の式によるものです。
 
1年間の実質GDPへの影響=(企業の生産に占める契約電力 500kW 以上の大口需要者の割合【37.5%】)×(電力供給の削減率【15%】)×(電力供給制限の期間【3.5か月÷12か月】)×(電力供給が1%減少する場合の生産の減少率(弾性値)【0.57】) = 0.94%

個人の行動変容は進むか

今回の中東情勢の悪化は、政府に電気・石油製品の消費抑制の要請を契機に、個人がガソリンあるいはナフサから作られる各種製品への依存度を下げるような行動変容へとつながっていくものと考えられます。それは、ガソリン自動車からEVへの乗り換え、公共交通機関の利用拡大、節電強化の取り組み、石油由来の製品から代替製品へのシフトを促すことになると思われます。例えば、石油由来の洗剤、シャンプーから完全植物由来のものへ、プラスチック製品から紙・木製品へ、ポリエステル製の袋から紙袋へといった形で代替が進む可能性があります。
第1次オイルショックは日本のエネルギーの利用効率を大きく高めるきっかけとなりました。図表2を見ると、日本の原油消費の経済に占める比率は、一次エネルギー消費の経済に占める割合よりも相対的に高い状況です。これは、日本は原油への依存を十分に下げることができていないということを意味しているでしょう。今回の中東情勢の悪化を契機として、日本は脱原油、ひいては脱炭素社会への移行により積極的に取り組むことが求められます。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。