
生成AIの導入が進む金融業界は、検証(PoC)段階から本番業務における運用の段階に入ってきました。そのサポートに率先して関わっているのが、金融コンサルティング部の長坂健太郎です。「既存の業務プロセスにAIを当てはめるのではなく、AI利用を前提とした新たな価値の創出こそ重要」と指摘します。長坂ならではのAI活用の視点はどんなものでしょうか。
社会の変革に携わりたい
長坂はこれまで、金融機関のお客様を中心に様々なプロジェクトを実施してきました。
「直近では、AI活用の推進を目的とするプロジェクトが増えてきたと実感しています。NRIとしては、保険業務など金融特有の業務へのAI導入支援に加え、技術革新を見据えたAI基盤の検討、経営直下の特別部署の設計・立ち上げといった組織づくりまで幅広くお手伝いしています。私はその中でも、金融特有の業務や顧客応対・営業領域でのAI活用を主に担当しています。」
自身が学び培ってきた知見や経験が、お客様に役立っている手応えがあり、長坂はコンサルタントとしての喜びを感じています。
大学時代は量子力学を専攻する研究者でした。大学院修了後はメーカーの研究職へと思い描いていた将来像は、NRIでのインターンシップ参加をきっかけに変わります。
「一つの製品や技術に深く関わる研究職も魅力的でしたが、シンクタンクとして社会全体を俯瞰しつつ、個々の企業のビジネス変革にも深く関われることは、ダイナミックで挑戦し甲斐があると感じました。物理現象を数式で記述し、実験を重ねる世界にいた私にとって、企業や社会と向き合うコンサルティングは未知の分野。でも、人生をかけて取り組める仕事だと思い、NRIを選びました」
AI活用の原体験
入社当初は証券会社の業務効率化や調査に関わり、金融機関の業務理解を深めました。そんななか、長坂がAIに向き合うようになったのは、自身の強い関心に当時のインストラクターの勧めが重なったことがきっかけです。
「2017年頃はビジネス現場でDXやデータ活用が注目され、機械学習を中心としたAIの議論が盛んでした。私自身の興味に加え、インストラクターの勧めもあり、理系の素養を生かして、DX技術やAIのビジネス活用について自発的に学んでいました」
そこで得た知見をお客様に提供し、議論を重ねていくプロセスに楽しさを感じていったと、長坂は振り返ります。
その経験が仕事につながったのが、生成AIが日本で話題となった2023年でした。大手損害保険会社の要望から、生成AIをビジネスに活用した将来像を検証するプロジェクトが立ち上がり、長坂はリード役を任されます。
「自動車保険会社では契約時から事故発生時まで、様々な事務処理が発生します。登場した生成AIを活用することでそういった業務を自動化できないか検証をする内容でした。その実施に際しては、AI開発のノウハウを持つ生産革新センターと、保険ソリューション事業本部、そして私たちコンサルティング事業本部がチームを組んで進める必要がありました」
すでにAIの知見があり、開発側のプロセスや懸念点などの観点にも通じ、保険業務も理解していたこと。これらがリード役に選ばれた理由ではないかと長坂は振り返ります。このプロジェクトは長坂にとって「AI活用の原体験」となりました。
効率化から新たな価値を創出するためのAIへ
「目標に向けて自律的に判断・実行するAIエージェントが登場し、金融機関のビジネスにも本格的に使えることが見えてきました。一方で、具体的にどう活用すべきかを多くの企業が悩まれているのが実態です。AIエージェントという新たな概念を踏まえて、お客様に何を提示するかは私としても腕の見せどころですし、NRIとしても、AIリーダー企業としてその真価を提示できる局面に来ていると思います」
こうした状況にあって、金融機関の変革に向けたAI活用をどう考えればよいのでしょうか。長坂はこれまでの経験を踏まえ、次のような考えを持っています。
「AI活用というと、多くの企業は社内業務の効率化やコスト削減をイメージしがちです。もちろんそれは重要ですし、AIエージェントの登場で、ますます業務効率化の動きは加速するでしょう。けれども私は『新たな価値を生むためのAI活用』を、もっと考えてほしいと思っています」
例えば、金融商品の購入を検討する顧客へのAIサービス対応。現時点ではAIに勧められた株や投資信託をそのまま購入することに、心理的抵抗を抱く人は少なくないでしょう。一方、20~30代では金融領域であっても4割程度はAIからのアドバイスにニーズを持っていることがわかってきました。今後技術がさらに進化し、その世代が金融機関の顧客の中心層になればAIへの心理的ハードルはいずれ下がっていくと考えられます。
「そのタイミングを見据えて、顧客に受け入れられるAIサービスを準備できるかどうかが、金融機関の今後の競争力を左右する」と長坂は指摘します。
「既存のプロセスにAIを当てはめるだけの活用はいずれ限界が来るでしょう。AIの登場によって金融ビジネスの構造そのものが大きく変わるからです。金融機関で経営に携わる方々には、従来の延長線ではなく、AI活用を前提とした業務プロセスや組織のあり方を再考するマインドを持っていただきたいと思います。さらに、これまで金融機関が顧客に提供できなかった新しい価値とはどんなものか、発想をどんどん膨らませていただきたい。それが、金融業界における変革につながると考えています」
AI活用に悩んだとき、最初に想起される存在へ
「AIを各社の基幹システムとつなぐ必要があるからです。その際には、膨大なデータの蓄積やデータ基盤の管理、レガシーシステムのモダナイズ、フロントアプリの開発、セキュリティ対策、さらに、業務や組織の見直しまで含めた、総合的な対応が必要です。これらはまさに、NRIが得意とする分野です。AIの専門家、システムエンジニア、業務理解に長けたコンサルタントなど、NRIのすべてのリソースを組み合わせ、トータルに対応できる。ようやく私たちの総合力が役立つときが来たと思っています」
こうしたなかで長坂が目指すのは「金融機関がAI活用で悩んだときに最初に想起してもらえる存在」となることです。
「AIに限らず、新しい技術をどう生かそうか悩んだときに、お客様にとって議論のパートナーとなるコンサルタントでありたいと思っています。そのうえで、NRI社内の専門家を適切に束ねて、最適なチームを設計できる人材になれたらと思います。だから社内での関係も大切にして、協力してもらえるたくさんの仲間を増やしていきます」
目下の長坂の目標は「AI活用を前提とした新たな金融機関像を、お客様とともに創ること」。大切なのは、AIという技術に振り回されるのではなく、AIが登場したパラダイムシフトのなかで、金融機関が新たな価値を生み出せるよう支えることと、長坂は繰り返します。
「その手段として、AIがあるのです。最終的に大切なのは、お客様と膝詰めで対話を重ねることだと思っています。技術的な思考とは真逆ですが、対話の機会を絶対に減らさない、と常に意識しています」
NRI入社時に期待した、企業や社会の変革と向き合うダイナミックな面白さを、長坂は今まさに実感しています。
プロフィール
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長坂 健太郎のポートレート 長坂 健太郎
金融コンサルティング部
2017年NRI入社。金融コンサルティング部のコンサルタントとして、銀行、証券、保険などさまざまな金融機関を支援。2022年の生成AI登場以降は金融業界を中心に多くの企業のAI活用をサポートしている。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。