
「人間がもっと楽しいこと、やりたいことに集中できる時代をつくりたい」その理想を単なる青写真にとどめず、確かな技術で形にする。野村総合研究所(NRI)でAI基盤の構築とAIガバナンスの実装を担う岩永耕太は、世の中にまだ正解のない領域において、「自ら手を動かす」ことで解を導き出しています。
「誰でもできる」状態にして、次の未知へ
岩永がNRIの福岡開発センターに入社したのは2008年。前職でもサーバーやデータベースの移行や運用管理を担当してきたことから、データベースのスペシャリストとして、基盤構築・運用に従事することになりました。
「当時、まだ世に出たばかりだったOracle Exadataというデータベースを金融機関向けのSaaSシステムに導入するプロジェクトの担当になりました。金融機関のデータベースはメインフレームというのが主流の時代で、日本で、このプラットフォームを金融機関向けシステムに導入するのは初めてという挑戦でした。」
無事に導入が完了すると、NRIが提供する他の金融機関向けシステムでも同様のプロジェクトが次々と立ち上がりました。しかし、その専門性を究める過程で岩永が取った行動は、技術の抱え込みではなく、徹底した「標準化」でした。
「NRIは当時から属人化をリスクと捉えていたので、推進と並行して、設計から導入までを標準化し、誰でもプロジェクトを推進できる仕組みを整えました。そうしたら、自分の仕事がなくなってしまったのです。でも、それでいい。データベースのスペシャリストとして生きていく道もありましたが、また誰もやっていない新しいことを学んでみようと思いました」
自ら培った技術を組織の標準として展開し、自分はまた次の「未知」へと向かう。この姿勢が、ビッグデータやエッジAIの世界へと、岩永のキャリアを押し広げることになりました。
「密です」を検知する、1カ月の瞬発力
岩永が、NRIの中でも「ハードウェアに近い、前例のない領域に強いエンジニア」として知られるようになったプロジェクトがあります。コロナ禍において、会議室の密集を検知しアラートを出す「オフィスの三密検知」ソリューションの開発です。
「2020年の4月中旬に、ゴールデンウィーク明けにはリリースしたいという相談が来ました。新型コロナウイルス感染症の猛威が広がる中、働く場所の安全を早急に整えねばという喫緊の課題に応えたいと思い、非常に短い期間でしたが、集中して取り組みました。ディスプレイの下に置く小さなAIデバイスを使い、カメラ映像をリアルタイムで解析して、マスクの着用や密接度を判定する仕組みです。ネットワークが通じない場所でも動作するよう、エッジコンピューティングの技術を導入しました」
社内に知見が少ない中、PCメーカーと連携し、デバイス上で動作するAIの処理方式を短期間で練り上げ、ゴールデンウィーク明けには、NRI本社の会議室に三密検知ソリューションが配備されました。この時、岩永を支えたのは、R&Dプロジェクトでミニ四駆に小型コンピューターを搭載し、エッジコンピューティングでの可能性を自分の手で検証した経験でした。
基準がないから、納得できるまで手を動かす
現在、岩永が取り組んでいるのは「AI共通基盤」の構築です。特に、AIの安全性を担保する「AIガバナンス」をいかにシステムとして実装するかに注力しています。生成AIの急速な普及に伴い、企業には厳格なガバナンスが求められていますが、その指針の多くはまだ抽象的な段階にあります。
「世の中のガイドラインは、何に配慮すべきなのかというリスクは示していますが、具体的に何をどう定義すれば仕組みとして動かせるのかといった問いに対する答えは、まだどこにもありません」。 岩永は、その抽象的な概念を機能要件にどう落とし込むべきかを日々探求しています。そこでも重視するのは、やはり「自ら手を動かす」ことです。
「サービスや許容するリスクのレベルを決めるために、まずはそれが信頼できる基準なのかを確認するべく、自分で動かしてみます。実際にシステムを作ってみて、テスト項目を立てて、想定通りに仕様が機能するかを検証する。正解がないから、一旦自分の中で正解だという確信が持てる状態にする。実機での検証結果と、論理的な裏付けを積み上げることで、お客さまとの合意を一つひとつ形成していきます」
人間が「楽しいこと」に集中できる未来へ
岩永が見据えているのは、AIという技術の先にある、新しい社会の姿です。AIシステムの基準作りという未踏の領域に挑むのも、それが社会実装のための必須条件だと考えているからです。
「これからの日本社会が、人口減少の中でこれまで通りには立ち行かなくなることは目に見えています。その中で、AIやロボットの活用は必須条件になってくるはずです。特にNRIのお客さまは、社会的に大きな意義を持つ、暮らしのインフラとも言えるシステムを運用されています。そこにAIを組み込み、運用を回せるようにすること。そこができることが、一番のやりがいでもあります」
まだ誰も体験したことのない未来を穏やかに語る岩永のまなざしは、技術そのものではなく、技術によって解放される人々の未来に向いています。
「今まで人間がどうしてもやらざるを得なかった、システム化しきれなかった面倒な業務は、AIで実現できる時代になってきました。早くそういった業務を人間から離して、人間はもっと楽しいこと、やりたいことに集中できるような時代になればいいなと思っています」
プロフィール
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岩永 耕太のポートレート 岩永 耕太
福岡ソリューション開発一部
2005年国内SIer企業入社後、2008年に野村総合研究所(NRI)入社。金融機関向けシステムのデータベース構築や案件を経験。その後、エッジAIを中心としたAIシステム/MLOps基盤のR&D、ソリューション開発をリード。現在はAIガバナンスを主軸にしたAgentOps基盤の開発に邁進。NRI認定ITアーキテクト
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。