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オペレーションズ・マネジメントの先駆者

産業ナレッジマネジメント室 藤野 直明

システム開発という視点では、超上流に相当する業務設計と変革のマネジメントを対象とするオペレーションズ・マネジメント(以下OM)を日本で先駆けて実現してきたのが野村総合研究所(NRI)の藤野直明です。OMは、多様な経営資源を統合し、環境変化へ機敏に適応するための経営の仕組みを“システムとして設計”していくという考え方です。昨今、話題となっている第4次産業革命、オムニチャネル・リテイリング、製造業のサービサイゼーション、オープンイノベーションのための標準化政策などは全てOMの範疇になります。海外では多数の研究者がいる分野ですが日本では知られていません。OMの本質を伝えながら、日本企業が国際競争力を高める好機とすべく、藤野は奔走しています。

エビデンスに基づく調査研究の重要性を学ぶ

NRIに入社したのは1986年です。大学では理論物理を学んでいたので、社会科学の分野は本当に知らないことばかりで、先輩には大変お世話になりました。もっとも先入観を持たずに様々なことに取り組めたのが良かったと思います。入社後10年間は、主に行政(経済産業省、財務省、国土交通省、総務省、農水省、各自治体など)へのシンクタンク業務(政策研究等)に従事しました。
1990年には中米コスタリカの開発計画を調査する機会を得て、コスタリカの副大統領、各官庁の大臣、ワシントンの世界銀行、IFC、米州機構と直接ディスカッションしたのも良い思い出です。
当時、私が担当していたのは、今でいうアナリティクス(定量分析)、定量モデルの開発とシミュレーション、将来推計に基づく各種計画立案でした。人口予測、経済・財政フレーム、産業構造の予測、交通・物流の需要・供給構造について、官庁が保有する巨大データの解析に基づく定量モデルを構築し将来構造をシミュレート、各種社会基盤の設計を行うプロジェクトを多く担当しました。
これらのプロジェクトを通じて、2つの大きな収穫がありました。まず、シミュレーションやアルゴリズムの興味深い世界を体験できたこと。激変する環境下でも安定的な構造を見出すことができるというのは自然科学分野出身の人間には興味深い事実でした。また、現在はAIブームですが、実は最適化アルゴリズムの方が優れている面も多い。どのような問題にもAIのアルゴリズムを適用するのは少し乱暴と感じます。
次に、政策研究の厳しさと醍醐味を身に沁みて理解したことです。この時の経験が、現在第4次産業革命やソサエティ5.0で霞ヶ関の方々との政策立案の議論に大きく貢献しています。最近、EBPD(エビデンスに基づく政策立案)の重要性が再認識されていますが、データの解釈の難しさと責任を伴う意思決定の論理の厳しさは全く異なる次元でした。 実は、この頃に手掛けた大規模な交通・物流分野のシミュレーションモデルの経験が、後に企業向けのSCMアルゴリズムを開発する際にも貢献しています。後にアルゴリズムのプロ集団、一般社団法人日本オペレーションズリサーチ学会のフェローに認定されたのもこの頃の仕事の成果といえるでしょう。

インターネット前夜の国際標準EDIの世界

1989年に、その後の産業領域の情報システム構想の際に大きな理論的支柱となるEDI(Electronic Data Interchange)を調査する機会を得ました。EDIとは、国際標準フォーマットを活用したB2Bの電子的な情報交換の仕組みです。このプロジェクトは国際物流業のパートナーシップによるグローバルネットワークを構築しようという、当時としては戦略的で野心的なプロジェクトでした。EC委員会DG13に単身で訪問し、UN-EDIFACTに至る経緯を詳細に把握できたことはその後の財産になりました。グローバルエコシステムという概念を明確に認識したのはこの時がはじめてです。この経験が最近の第4次産業革命の理解に大きく貢献することになります。

EDIは90年代半ばになるとインターネットベースでさらに急速に発展を遂げました。EDIを活用することを前提としてERP(統合基幹業務システム)が出現し、企業活動のデジタル化が始まりました。さらに欧米で本格的にSCMが概念化されはじめ、NRIにも小規模ですがコンサルタントとSEとの混成部隊でSCMチームが組成されたのがこの時期です。

 

 

企業が巨大なネットワークでつながる時代へ

1990年代半ばからは徐々に民間企業のコンサルティング、主にSCMの領域へ軸足を移しました。インターネットの台頭によりグローバルなSCMが急展開すると考えたからです。この時はじめて、システム部門とコンサル部門との混成チームによる事業立ち上げを経験しました。現在、アジアで展開されている「ERPのクラウドサービス事業」です。香港、シンガポールへ毎月2回程度出張しつつ、現地セミナーや企業訪問をしました。今ではアジア地域で120拠点が活用する日本企業最大のERPのクラウドサービスに展開していることは感無量です。
『ハーバードビジネスレビュー日本版』1998年秋号の特集にSCMを取り上げたいということで、「サプライチェーン・マネジメントの本質と経営へのインパクト」を執筆しました。そして、それをベースとして単行本『サプライチェーン経営入門」(日本経済新聞社)を出版しました。この書籍は、2017年に中国語版が出版されましたが、今でも増刷されているロングセラーとなっています。

オペレーション・マネジメント(=OM)の重要性と第4次産業革命

OMとは簡単に言えば、組織の力を最大限に発揮し続けるための業務設計のエンジニアリングです。典型例はSCMです。一般的には、営業部門、製造部門、物流部門の現場が、それぞれ独立にKPIを設定し目標に向かって頑張れば会社全体がうまくいく、と信じられているケースがまだ多い。ところが環境変化が著しいと、個々の現場組織が部分で頑張れば頑張るほど、会社全体としてはうまくいかなくなるのです。これを「部分最適の総和と全体最適との乖離」と言います。このような陥穽を回避し動的な全体最適化を設計する手法がOMです。実は、IOTや第4次産業革命もOMの主要テーマです。
SCMをはじめ、最近話題の第4次産業革命や、IIOT(Industrial Internet of Things)、デジタライゼーション、デジタルトランスフォーメーション、サービサイゼーションなどは、全てOM分野の研究テーマです。OMを専門とする立場からみると、残念ながら今の日本では、OMの本質が、多くの企業に理解されていないといわざるを得ません。比較的容易で理解しやすいOMですが、日本の大学・大学院ではそもそもビジネススクールが乏しく、OMがいわゆる文系経営学と理系の経営工学との融合領域であるため、位置づけが難しいのでしょう。大学関係者からは「教える先生がいない。」と言われました。大きな問題です。

日本で理解されにくい第4次産業革命の本質

第4次産業革命は、暗黙知の経営ノウハウ・製造ノウハウを形式知化、組織知化、デジタル化し、事業をスケールアウトできる仕組み、つまり事業システムをデジタル空間上に構築することを目的としています。第4次産業革命について、「設備にセンサーをつけてデータを蓄積し、それを人工知能が分析することで原価低減を図る」とメディアで紹介されているために、経営層からは「なぜその程度のことが産業革命と呼ばれるのか」という質問を受けることもあります。第4次産業革命の本質の1つは「グローバルなマザー工場に支えられたスケールアウトできる製造の仕組み」であることが、日本の製造業に知らされていないことは問題と思います。
日本の教育は、キャッチアップ型で専門家を促成栽培することに長けてきたあまり、統合(シンセシス)の思考をどこかで忘れてしまったのかもしれません。シンセシスのシステム思考、つまり大局的な立場から、複数のシステム間の関係を予め設計しておくシステムオブシステムズ(SoS)という考え方が乏しいと思います。NRIは、もともと創業の際に、文理融合のシステムズアプローチを標榜していました。NRIの果たすべき役割はますます重要となってきていると感じています。

日本企業がグローバル市場に展開するチャンス

IOT・第4次産業革命は、中小企業を含む日本企業がグローバルなエコシステムに参加し、グローバルカンパニーとして成長できるチャンスです。
日本の企業がグローバルエコシステムを活用し成長していくことが、日本の活力につながっていくはずで、そのためには経営層に対するOMの研究成果を紹介でき、変革をマネジメントできる優れたコンサルティング人材を育成することが効果的です。幸いNRIは、金融や大手流通業、物流業など優れたOM能力のある企業を顧客とし、その仕組みを世界に展開してきた企業です。NRIで培った経験を活かしながら、NRIが抱える人材とともに企業や産業が抱える課題解決に、最先端のOMを活かしつつ貢献していきたいと考えています。

ロボット革命会議 国際シンポジウム 司会(2017.11.30:於 国際ロボット展 東京ビッグサイト)

主席研究員

藤野 直明

Profile

1986年に野村総合研究所入社。政府や自治体への政策研究、企業の業務改革などに携わる。日本オペレーションズリサーチ学会フェロー、オペレーションズ・マネジメント&戦略学会理事、ロボット革命協議会インテリジェンスチーム・リーダー、早稲田大学大学院客員教授他、大学、大学院での社会人向け講義も行っている。 著書に「サプライチェーン経営入門」(日本経済新聞社:中国語翻訳も出版)、「サプライチェ-ン・マネジメント 理論と戦略」(ダイヤモンドハーバードビジネス編集部)

活動実績

お問い合わせ

株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp