多くの企業がDXを推進するなか、コンサルティングの現場では、業界や事業の枠を越えたテーマでの相談が増えてきました。「〇〇×金融機能×デジタル」という新しい掛け合わせで価値創造に挑んでみたいと、鳩宿潤二は考えています。
コンサルティング×ものづくりに可能性を感じた
NRIには2000年にコンサルタントとして入社しました。大学院ではコンピュータサイエンス分野の研究をしていたのでSI(システムインテグレータ)企業への就職も検討したのですが、インターンシップでコンサルティングの世界を知って興味を持ちました。さらに、調査・提言などをするコンサルティングを行うだけではなく、ITソリューション開発も行っているNRIであれば、ビジネスとITを掛け合わせて新しい価値を生み出せるのではないかと、当時強く感じました。
入社後、IT関連のコンサルティングに携わりましたが、2003年半ばに営業開発部に異動。事業会社のIT子会社を買収し、アウトソーサーとして元の事業会社にITサービスを提供するというスキームでM&Aを手掛けました。NRIのソリューション・ビジネスの今後の成長を念頭に置きながらお客様と交渉し、買収先企業の人員を活かしてビジネスを回し、成果を出す。机上で絵を描くだけでは物事は動かないという実業の世界を肌感覚で知る機会となりました。経営にも関心があったので、ビジネスの全体感を持ちながらリソース配分の意思決定をする経験ができたのも幸運でした。
2007年にMBA留学から帰国後、金融コンサルティング部に配属されました。郵政民営化を背景に郵便局の窓口業務の変革を支援したのをきっかけに、新たに銀行分野の開拓に乗り出しました。ある大手信託銀行の店舗再編では、他社の提案よりも高く評価され、続けて顧客戦略などにも仕事が広がったのです。提案の設計や定量データの活用など、NRIで叩き込まれたノウハウが認められ、金融分野でも十分にやっていける自信になりました。
プロデューサー型リーダーシップ
ここ数年、フィンテックやデジタル化の流れの中で、従来の金融機関向けのテーマが多様化していることに加え、事業会社が金融サービスを行うなど、金融機能の活用シーンが大きく変わっています。それに伴い、相談内容や支援方法も多様になっているため、どのテーマを選び、限られたリソース、特に人員をどう配置するかが極めて重要になっています。金融コンサルティング部の部長として、年度の数値目標を達成し、かつ、中長期的に成長していくために、最適なリソース配分と事業ポートフォリオを組むことが目下のミッションです。
人によってやりたいことやスキルは異なります。以前は、やりたいことをやれる環境を整えて、自然発生的に新しいことをやってもらえばよいと考えていましたが、グループマネージャー時代に気づいたのは、ゼロベースで自分に合った仕事を生み出すことが苦手な人が意外に多いことです。そこで、個々の性格やスキルを見ながら、「この仕事をやってみたら」と背中を押す手法をとってみました。すると、本人が自ら「これは自分に合った仕事だ」と言い始めたのです。それ以降、こちらから機会を与えて成長を促すプロデューサー型リーダーシップを意識しながら、個々人を活かすためのマネジメントを心がけています。
NRIの総合力を活かした価値づくり
DXで金融機能を絡めた新しい事業をつくる際に、金融制度に対応しながら、実際に実行できるツールやソリューションを作れるのは、私たちの強みだと感じます。異業種のプレイヤーがゼロベースで新しい金融サービスを考えると、銀行法で禁止されていたり、義務づけられた要件を満たせないため、最終的に実現できないケースもよく見られます。
コンサルティング部隊とソリューション部隊が一体となって動けることも、スピードや柔軟性につながります。あるプロジェクトでは、富裕層向け新サービスの企画、各種戦略の立案、ソリューションの開発、実装、リリースまでの全行程を1年以内に行うという野心的な目標を与えられました。通常であれば、コンサルティング部隊が戦略を立てた後、ベンダーを選定し、システム開発へという順番で進めますが、それでは間に合いません。そこで、社内でチームを組み、ビジネス検討とソリューション検討を同時並行で進めました。他社を挟むよりも、スムーズにすり合わせができ、NRIの総合力が活きた事例となりました。
今後さらに活用したいのが、NRIで実施している「生活者1万人アンケート調査」などをはじめとするマーケティングの知見です。消費者が金融に関してどんな意思決定や行動をするか、どのような顧客タイプが何にお金を使うかなど、新旧プレイヤーが把握しきれていない情報を活かして、NRIだからこそできる価値づくりをしたいと考えています。
デジタル環境ではアナリティクス能力を活用することで、単発の物売りではない、継続的な伴走型コンサルティングが可能になります。従来は、新しいオンライン資産運用サービスを始める場合、安全性が高く制度対応されたツールを提案し提供するだけで仕事は終わっていました。しかし、そのツールを使って顧客との対話データを収集・分析し、営業ノウハウをデータベース化し、人材育成に活用すれば、営業力の強化に役立てられます。データ量は年々増えるので、定期的に分析し改善を図るような新しいコンサルティング・モデルを目指したいとも思っています。
日本の強みを活かして新しい掛け算を実現させる
1980年代に盛んに言われた「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の時代が変化し、その後失われた時間が何十年も続いたのは、規格化やデジタル化によって、従来の強みであった製造業のすり合わせ技術が優位性を失ったからです。その一方で、最近では産業や事業に金融機能とデジタルを掛け合わせた試みが増えています。異なる要素の組み合わせは思っている以上に難しく、世界的にもベストプラクティスはまだ見当たりません。産業や事業の成功要因と、金融サービスで守るべきルールを互いに理解し合い、さらにデジタルやIT技術を効果的に活用するためには、ステークホルダー間のすり合わせが不可欠です。
デジタル時代だからこそ、日本企業のかつての強みを発揮する余地はあると、私は考えています。業界や専門分野の知見を持つ人間が同じ組織内で一体化して動けるNRIの特徴を活かして、デジタル時代に必要なすり合わせを支援し、新しい掛け算を作り出せれば、日本全体の活力になります。価値創造を通じた社会貢献に取り組んでいきたいと考えています。
経営役 コンサルティング事業本部副本部長 兼 金融ITイノベーション事業本部副本部長
鳩宿 潤二
Profile
- 東京工業大学 計算工学専攻 修了
University of Michigan Business School 修了。
2000年にNRI入社。
コンサルティング事業本部に入社後、営業開発部(新規ソリューションビジネス開発部署)、MBA留学を経て 2018年 金融コンサルティング部長に就任。
金融機関における、マーケティング、事業戦略、新サービス立上、事業会社における、金融サービスの立ち上げ・導入支援などを担当。
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活動実績
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2023年3月号 NRIパブリックマネジメントレビュー 2023年3月号
10年スパンで捉える変化
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NRIパブリックマネジメントレビュー 2022年2月号
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2021年2月号 NRIパブリックマネジメントレビュー 2021年2月号
サステナブルファイナンスに求められる知恵と信念
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Vol.41 2019 NRI Management Review Vol.41 2019
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事業会社金融3.0
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Vol.41 2019 NRI Management Review Vol.41 2019
特集インタビュー トップマネジメントが語る 三菱UFJ 信託銀行株式会社 取締役専務執行役員 滝沢 聡 氏
人生100年時代
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2018年8月号 NRIパブリックマネジメントレビュー 2018年8月号
コングロマリットシナジー復権の兆し
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2015年4月2日発行
なぜ、日本人の金融行動がこれから大きく変わるのか?