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IT市場の先導役から、未来社会のナビゲーターへ

未来創発センター長 研究理事 桑津 浩太郎

IT分野のウォッチャー、市場を予測するナビゲーターとして知られている桑津浩太郎。2017年に野村総合研究所(NRI)未来創発センター長に就任し、日本のあるべき近未来像を探っています。

生生流転の世界に身を置く面白さ

NRIに入社以来、コンサルタントとして30年以上、ICT分野に関わってきました。なぜICT分野が好きかというと、これまで想像もできなかったさまざまなことを実現し、社会を変えていく、その変化の様子を多くの局面で実感できるからです。まさに生生流転(しょうじょうるてん)の世界に身を置く面白さがあります。
たとえば携帯電話。私たちが調査を始めた1980年代後半は、医師や弁護士が高級車の中で利用するものでした。一般の会社員に携帯電話を持ちたいかと聞くと、大半は「自分は持たない」という回答で、「いつ・どこにいても、会社から電話がかかってくる。携帯電話など普及させるべきではない」という意見もたくさんありました。けれど3~4年たったバブル絶頂期には、ショルダー型の携帯電話を持つようになり、やがて1990年代後半に入ると、一気に普及しました。そして現在、スマートフォンの時代になり、この30年で世の中のコミュニケーションやサービスの仕組みは大きく変わりました。
新しい技術やサービスが現れたときに、供給側のプロの人たちも、それがどう利用されるか・されないかなど、実はあまりよくわかっていません。ただ、必ず変化は起きる。その変化を見通せるかどうかが、この分野の醍醐味です。

見通す力を磨きあげる

これまで、ICT分野におけるさまざまな製品・サービスの市場予測をしてきました。2000年からは書籍『IT市場ナビゲーター』(現・ITナビゲーター)を毎年発行して、ICT業界をはじめ、多くの方々に役立てていただいています。 そのため、私は市場予測の専門家と見られることが多いのですが、失敗もしています。
一例を挙げれば、テレビ電話の普及予測です。1990年代から2005年までの間に、私はテレビ電話の普及予測を3回実施しましたが、結果的にすべて外しました。毎回、思ったほどの普及率にならないのです。端末が高額であったり、通信速度が遅いなど、普及を阻む原因は過去にいろいろありましたが、それらが解決した現在も、実はテレビ電話はあまり普及していません。結局、これは日本人が顔を映して話すコミュニケーション・スタイルを受け入れなかったから、だと思っています。突然かかってきた電話に顔を出す心理的なハードルは想像以上に高かった。いくら技術や利用環境が進んだとしても、それが人に受け入れられるかどうかは、また別の議論なのだと学びました。

「ガラパゴス・ゴジラ論争」

予測だけでなく、業界に対してさまざまな意見を提言し、議論も巻き起こしてきました。その中で印象深いのが「ガラパゴス化」への反論です。2008年頃、携帯電話をはじめとする日本のIT関連製品は国内で独自の発展を遂げたため、「国際標準からかけ離れてしまった、だから国際競争に勝てなかった」と揶揄する文脈で「ガラパゴス化」が言われました。これに対し、私は異を唱えました。これを「ガラパゴス・ゴジラ論争」と呼んでいます。
例えば日本のケータイ。日本のメーカーは最新技術を独自に開発して、ケータイにデータ通信で文字を表示させたり、カメラ機能を付けたり、モニターをカラー表示にしたりと、好きなように作り込み、ケータイをどんどん進化させました。結果的に、世界で負けたからガラパゴスと言われるのであって、勝っていたらゴジラになるのです。

桑津 浩太郎

このスタイルのものづくり、実は現在のアップルやグーグルが行っています。彼らは、iPhoneをはじめとする優れたサービスを作りだし、世界中で受け入れられました。もしアップルやグーグルの製品が世界に普及しなければ、彼らがガラパゴスと揶揄されたでしょう。だから、日本の製品やサービスを特異なものとして否定するのではなく、それがゴジラのようにふるまえなかったことを議論する必要があるのです。逆に、今はゴジラとして見える製品・サービスも、油断すればガラパゴスになる。こうした見方を、先んじて世の中に伝えていくことが重要だと思っています。

新しい社会モデルによって人口減少を強みに転換

2017年4月に、NRIの未来創発センター長に就任しました。未来創発センターは、未来社会のあるべき姿を模索し、その実現に向けた具体策を提言する役割を担う組織です。これまでの私はICT分野のコンサルタントとして、企業の収益アップや、業界の発展をお手伝いしてきましたが、今後は社会とITの対応を俯瞰的にとらえ、ITを取り入れながら、社会はどの方向に進むべきで、産業界はどう変わるとよいのか、人々はそれをどう受け止めるべきか、未来社会のより良い姿を発信していくことが私のミッションです。

目下のテーマは二つあり、一つは、世界における日本のかじ取りです。特に、アジアの隣国とどのような関係を築きながら、日本は成長していけばよいのかを検討していく必要があります。 もう一つは、多くの先進国が抱える少子高齢化への対応です。人口が減ると、働き手が減少し、産業構造も変わってしまいます。そのため、移民を入れる、100歳まで働く、などの議論が国内外で交わされていますが、私はこの問題を、ICTやAI、ロボットで補うことで解決できないかと考えています。

桑津 浩太郎

2017 年は社会環境論をテーマに、IoT(モノのインターネット)によって社会の維持コストを下げ生産性を上げる仕組みについて議論しました。2018年からは産業構造論がテーマです。人口が減り、モノがネットワークにつながる社会において、産業の形がどう変わるかを議論します。そして2019年は働き方をテーマに、少子高齢化社会において人的資源をどう活用するか、また、働き方にICTをどう活用するか、などの方向性を探る予定です。幸い日本国民は、AIやロボットに対する拒否感が比較的少ない。日本社会で低下していく活力を、ICTやロボット、AIで補うモデルを世界に先駆けて組み立て、提言する。人と機械とのバランスがうまくとれた社会モデルを生み出すことで、人口減少というデメリットを強みに転換できないかと思っています。

先人たちに胸を張れる社会を創る

NRIの前身の一つは、野村證券を母体に生まれたシンクタンクです。そもそも、当時の日本にはシンクタンクという概念すらなかった。ところが私たちの先人はNRIを立ち上げ、調査・研究、コンサルティングというサービスを日本に定着させた。彼らは相当先を読んだことを実現したと思います。私は業界の先を読んだり、市場を予測したりはしてきましたが、彼らと同じレベルで世の中に先駆けたことができるかと問われれば、まだまだ、と言わざるを得ません。
日本にとって幸せな社会をつくるにはどうすればよいか。それを実行するための具体的な方策や社会を変えるモデル――しかも、みんなに受け入れられるもの――をさまざまな分野の人と議論を重ね、創出する。先人たちに少しでも胸を張れるように、努力を続け、邁進していく覚悟です。

桑津 浩太郎

 

桑津 浩太郎

未来創発センター長 研究理事

桑津 浩太郎

Profile


1986年野村総合研究所に入社。情報システムコンサルティング部、関西支社、ICT・メディア産業コンサルティング部長を経て、2017年研究理事に就任。 ICT、特に通信分野の事業、技術、マーケティング戦略と関連するM&A・パートナリング等を専門とし、ICT分野に関連する書籍、論文を多数執筆。

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お問い合わせ

株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp