デジタル技術の進化により、AIやIoT、5Gなどを実際に活用する機会が飛躍的に増えてきています。そうした中で、顧客のDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援するには、データサイエンスを活用して新たなビジネスモデルをデザインし、その基盤を構築してオペレーションを変革していくことが欠かせません。多種多様な業界のニーズに応えるために、野村総合研究所(NRI)の産業分野の顧客を担当する舘野修二はどのような考え方で取り組んでいるのでしょうか。
NRI多様な組織での経験が強みに
NRIに入社して、最初の10年間は流通業のお客さまのアプリケーション開発を行いました。その後、情報技術部門を経て、システムコンサルティング部門に移り、主にサービス業・製造業のお客さまのシステム企画を支援するプロジェクトに携わってきました。そして2017年からはシステム開発部門に戻り、産業分野全般のお客さまを担当しております。
本業はアプリケーションを開発するシステムエンジニア(SE)ですが、情報技術、コンサルティングと全く性格の異なる組織を経験できたことは私にとって幸運でした。情報技術部門ではシステムのアーキテクチャー設計の重要性を学びました。品質や生産性の多くはここで決まるといっても過言ではありません。24時間リアルタイムのシステムニーズが急増している今、アーキテクチャーの重要性はますます高まってきていると思います。コンサルティングに在籍した10年間では、お客さまの事業や課題を構造化することで問題の本質を理解していくプロセスや方法論を学びました。またお客さまの事業そのものに目を向けることで、ITが競争力を引き上げるための最重要リソースであることを実感しました。
このように、SEがアーキテクチャーや顧客の事業を理解することで、お客さまにとってもっと価値のあるシステムソリューションが提案できるはずです。お客さまの事業に最大の貢献ができるよう、社内各部門との相互連携を強く意識した組織マネジメントを心掛けています。
情報のリアルタイム性と将来予測の精度を高め、お客様と新しい価値を創出する
お客さまからはDXに関するご相談が増えています。DXという言葉の意味するところは、お客さまによって必ずしも同じではありませんが、昨今のテクノロジーが事業にもたらす変化の大きさについては共通認識となっているように思います。新しいテクノロジーとしては、ロボット、自動運転、センサーなどが世間の注目を浴びていますが、企業のビジネス変革という意味で最も影響を与えている点は「情報のリアルタイム性」が飛躍的に向上したことでしょう。
例えば航空・旅行業界で導入が始まっているダイナミックプライシングは、事業者が在庫や需要をリアルタイムに把握でき、消費者が最新の変動価格にアクセスできる基盤があることで実現できています。「いつでも、どこからでも最新の情報にアクセスすることができる」、これは簡単なようで従来の情報システムでは実現が難しかったことなのです。
そして、DXにおける、もう一つの中核技術は「将来の予測」です。統計解析の技術は以前からありましたが、一般の情報処理に組み込めるものではありませんでした。それがここ数年の間に劇的な進化を見せていて、最先端の研究成果を誰もが簡単にシステムに組み込めるようになりました。需要を予測する、ルートを予測する、消費者の嗜好を予測する、といった将来予測の技術がリアルタイム情報と組み合わせることで、新たなサービス創出の可能性が広がってきています。
お客さまといろいろなアイデアを出し合いながらビジネスを考えていくことはとても楽しい時間です。われわれはお客さまのビジネスを勉強するし、お客さまもデジタルについて勉強する。DXが進んでいくと、これまでのような委託と受託の関係ではなく、お互いの専門領域をクロスオーバーさせながら新しい価値を共同で生み出していく、そういう関係に切り替わっていくのではないかと思います。
「目利き力」を鍛え、お客様の変化にスピード感を持って対応できる組織づくりを
そのためには、まずわれわれNRI自身が変わらなくてはなりません。アイデアを生み出すためには、まずベースとなる知識と経験が必要です。そして、新しい技術やサービスが絶え間なく登場している中では、その「目利き力」を鍛えることが必要でしょう。
テクノロジーが多様化する状況にあって、経験値と目利き力を継続的に強化していくために、現在二つのことにハンズオンで取り組んでいます。
一つは社外人材の採用です。単に即戦力だけを目的としたものではなく、多様な業種業態での業務経験がアイデア創出には必要となるからです。情報サービス業よりも製造業や通信会社など事業会社出身の方々の比率が増えています。もう一つは、昨年からスキルマネジメントの仕組みを本格的に動かしています。これは評価のためというよりも、各社員が自己研鑽して得た知識を実業務の経験値として身に着けてもらうために構築しました。現在、産業IT部門のエンジニア1,000名以上がこのプログラムに参加しています。
技術の多様化は個々人の生産性にも大きな影響を与えています。経験値の差が何十倍もの生産性の差につながるのがデジタルです。個々人の生産性を最大限に高め、お客さまのビジネス変革にスピード感をもって対応できる組織づくりを目指しています。
お客様の事業活動の支援を通じて社会貢献を果たす
データセンターなど自らの設備運用に伴う環境影響を最小化していくことはもちろんのこと、お客さまの事業活動の支援を通じて社会に貢献することも重要な使命だと考えています。現在、お客さまの多くが人手不足、廃棄ロス、環境負荷などの問題に取り組んでおり、私たちはその問題解決を支援するための取り組みを始めています。例えば、業務の自動化、事業リソースの最適配置、サプライチェーンの最適化などは、デジタル化による社会貢献が可能な分野であり、積極的な研究開発活動を行っています。
「お客様の信頼を得て、お客様とともに栄える」という企業理念を体現し、お客さまと共創しながら、社会貢献も果たせればと思っています。

専務執行役員
産業ITソリューション事業担当
舘野 修二
Profile
- 流通システム開発部門、情報技術部門を経てシステムコンサルティング部門、品質管理部門で部長職を歴任した後、
2014年4月基盤サービス事業本部副本部長、
2016年4月システムコンサルティング事業本部長、
2017年4月サービス・産業ソリューション事業本部長、
2020年4月から現職。