パーパスは、企業経営に関わる概念として注目されている言葉で「社会における確固たる存在意義」を指します。今回のシリーズの第一回では、パーパスがなぜ必要なのか、企業の事例とともにお伝えします。
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この番組はNRI、野村総合研究所が誇るプロフェッショナルな方々が、それぞれの専門分野をテーマにビジネスのヒントになるコンテンツをお届けする音声プログラムです。
今回は「パーパス」をテーマに、様々な角度からお話をお届けします。 お話をするのは、入社以来、20年以上にわたってサステナビリティ経営に関する戦略構築と、実行支援、特に財務と非財務を統合した経営管理制度の構築などの領域をご専門にしている、コーポレートイノベーションコンサルティング部、プリンシパルの伊吹英子さんです。
パーパスとは「企業の社会的な存在意義」
まずパーパスとは何なのか。この点についてお話ししたいと思います。
多くの人が英単語として「目的」ということをぱっと思い浮かべる単語だとは思います。これが経営などに関すると、どういったニュアンスになってくるのでしょうか。
パーパスというのは「社会における存在意義」であるとか、「存在価値」のようなものを指しています。企業が社会において、何のために存在するのかという、より根源的な価値を明文化したものと考えています。
今は、サステナビリティ経営といって、企業がより社会を重視した経営に移行しているタイミングです。その中で企業が「なぜ社会に存在するのか」という価値を、あらためて企業の歴史や文化を振り返りながら、再定義するような流れになってきています。
なるほど。もともとあるものを、あえてパーパスという言葉で定義する必要性があるということなのでしょうか。
そうですね。もともと創業時に社会のことを考えて事業を始めている企業が多い一方で、今の事業の現場を見ると、非常に短期の、財務を重視したPDCAサイクルが回っているという現状があります。当初、掲げていた社会に対する思いというものを、なかなか貫きにくいのが現状です。
一方で、社会環境が刻々と進展し、気候変動などの社会課題が深刻化しています。そうした中で、企業は社会に対してどのような働き掛けをしたら良いのか、自分たちは社会においてどんな存在なのかということを見つめ直す必要が生じています。
思いがあって会社がつくられたけれど、時の流れやいろいろな事情で意識しづらくなるという現状があるわけですね。それをあえて言語化することに意味があるということなのでしょうか。
まずは言語化するということに意味があると思います。理念とかビジョンとかバリューとか、企業には社会における存在意義を示すような様々ないろいろなフレーズがあります。「社会においてどうなのか」というところにフォーカスして言語化することで、そのパーパスをステークホルダーと共有し合える、あるいは共感し合えるものとして、経営の場面で生かしていくことができます。
私としては、例に出た、「ビジョン」の方が馴染みがあります。学生時代に企業研究をされた方は、ビジョンをすごく意識されたのではと思います。このビジョンとミッションに明確な違いはあるのでしょうか。
パーパスは第三者的・社会的な観点を強く持つ
厳密に言うと、ミッションやビジョンやパーパスというのは、明確に切り分けられないところがあります。ただ、そういう意味では企業理念の中に社会的な存在意義をうたっているような企業も、日本には多いのではと思います。
ミッションが、第一人称で自分たちがこうありたい、自分たちがこうしたいという、自分たちのことを中心に定義付けているとすれば、パーパスはどちらかというと、自分たちが社会に対してこういう影響をもたらしたいとか、社会においてこういう存在でありたいといった第三者的・社会的な観点を強く持っているという特性があります。
その他の特性としては、例えばパーパスを策定するときに全く新しいものを作り出すということではなくて、パーパスは組織に内在していて、それを発掘するものだといえます。
パーパスは少し捉えにくい概念かと思うのですけれども、新しい何かを言語化するというよりも、組織の中に潜在的にあって、長い歴史の中で受け継がれてきたものを発掘して言語化していくのだと思います。
創業当時の思いがあって、それが社会の中でどういうふうに自分たちが生かせるかということを言語化するのがパーパスというお話ですから。内在するものであるはずですね。
パーパスは企業の経営の揺るがない原点
パーパスは言語化するだけではなくて、言語化した上で、ちゃんと共感する、共鳴されていることがとても大切だと考えています。私たちは、「感じるもの」とか「感じられるもの」とも言っています。
その他の特徴として、ビジョンがどちらかというとベクトルで向かう方向性を示すようなものだとすると、パーパスはより根源的な存在、つまり原点のようなもの。企業の経営にとって揺るがない原点を示すものだと考えています。
世の中の変化やそういったもので変わりすぎるものではないところが、すごく大きいですよね。柱のように、ドスっと立っている。
最初の話に戻りますが、社会における存在意義が揺るがない形で杭として打たれていれば、不確実な事業環境の中でも、自分たちの存在意義を明確に持って経営をしていけるというメリットがあると思います。
パーパスを掲げている企業
パーパスがしっかりしている会社は強そうというイメージが、すごくできました。例えば具体的にパーパスを掲げている事例を、差し支えない範囲で教えてください。
はい。長年パーパスを掲げて経営をしてきた企業は、海外企業にもたくさんあります。近年、あらためてパーパスというものを発掘して言語化するといった動きも見られています。
例えば、ネスレです。ネスレは2016年にグローバルでパーパスというものを初めて明文化した企業です。創業150周年に合わせて『生活の質を高め、さらに健康な未来づくりに貢献します』というパーパスを策定されました。そこに三つの柱というものがあります。『個人と家族のため』ということでは、『さらに健康で幸福な生活を実現します』。それから『コミュニティーのため。困難に負けない活力のあるコミュニティーを育成します』。三つ目は『地球のため。資源と環境を守ります』といった内容が紹介されています。
今、挙げてくださった三つの柱は、非常に分かりやすいです。個人と家族のため、少し広がってコミュニティーのため、最終的に全部含まれるのですけれど、地球のためという。
こうしたパーパスというのは、「なるほどなあ」とか、社会において共感しやすいものであるとお分かりいただけるかなと思います。
日本企業ではいかがでしょうか。
はい、他の日本企業でもパーパスという言葉を使い始めている企業も出てきています。パーパスを定義する動きがある一方、日本にはもともと創業時の精神や、パーパスとは呼ばなくとも企業理念の中にパーパス的な要素、つまり社会における存在価値を定義付けて経営されてきている企業が多いと思います。
こういった企業の共通点を考えると、国籍関係なく当時からの理念をずっと持ち続けて大切にして、それを今の時代に合わせて掘り出してみようであるとか、明文化しようだとか、言語化しようという、そういう動きがあるということなのでしょうね。これから創業何百年とか書いてあると、「きっと理念があるな」と思ってしまいそうです。
そうですね。社会に必要とされていることを事業で展開している企業は、パーパス的な考え方を持って長年経営を進められていると思います。
パーパスを浸透させるには
こういった企業のパーパスをもっと知らしめていったり、浸透させたりするには、社会に対してや、消費者に対してだけではなく、企業の内部、社員に対しての周知も必要になってきそうですよね。
まず社会、あるいは社外に対して周知する前に、パーパスというものが組織の中できっちりと腹落ちして、自分たちの仕事はこういうふうに社会に役立っているのだということを、経営層の皆さまから社員の方々一人一人が実感できる、そういった状態を作っていくことが、その先のいろいろな社外のステークホルダーに考え方が広まっていくことにつながります。
まずは社内の浸透、共感共鳴をどうやってつくり出していくのか。それにはパーパスを発掘するプロセスにいろいろな人たちが関わっていく必要もあります。社内の考え方や社員の方々の意識を重視したような、そんな取り組みが必要になると思います。
ここまで、パーパスとは何なのか、ということについてお話を伺ってまいりました。次回は、今、なぜパーパスなのか。この点にさらにフォーカスをして詳しくお話を伺っていきたいと思います。
この番組は、AppleやGoogleなどのPodcastの他、NRIのウェブサイトからもお聞きいただけます。NRI Voiceで検索をしてチェックしてください。引き続き伊吹英子さんには、パーパスをテーマにお話を伺ってまいります。ナビゲーターは金子奈緒でした。
※内容をわかりやすくするため、NRI Voiceの音声を一部修正しております。
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2021/07/27
コーポレートイノベーションコンサルティング部
プリンシパル
伊吹 英子
早稲田大学大学院理工学研究科修了、大阪大学大学院国際公共政策研究科博士後期課程終了(国際公共政策博士)。
1998年にNRI入社。
2000年以降、サステナビリティ(CSR/ESG/CSV)経営に関する戦略構築と実行支援、財務・非財務を統合した経営管理制度構築、ESG情報開示支援などのコンサルティングに従事。
※NRI Voiceコンテンツ内における専門家の所属、役職は収録当時のものです。
伊吹 英子 執筆記事
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