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ESG投資の拡大と企業はどう向き合うべきか~求められるESG対応と投資家への情報開示

コーポレートイノベーションコンサルティング部 プリンシパル 伊吹 英子、金融コンサルティング部 深井 恒太朗

#経営

#グローバルオペレーション

2018/09/21

2017年7月に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、ESG(環境・社会・ガバナンス)指数を用いて1兆円を運用すると発表してから1年余り。日本の企業や機関投資家の間でESGへの関心が高まっています。このような潮流のなか、企業がESGにどのように取り組むべきなのでしょうか。サステナビリティやESG投資に携わってきた野村総合研究所(NRI)の伊吹英子と深井恒太朗にその要諦を聞きました。

日本のESG投資や評価の実態

――欧米と比べて、日本の投資家はESGへの関心がそれほど高くないように思われます。

深井:2016年にGlobal Sustainable Investment Allianceが行った調査では、欧州のESG投資が全投資額の50%超を占めていたのに対し、日本は3%程度と大きな差がありました。しかし現在は、GPIFの資金運用を受託する機関投資家は、投資先の選定についてGPIFへの説明責任を負っていますので、多くの投資家のESGに対する意識が変わってきたという印象を持ちます。

伊吹:「投資家が変わらないと企業は変われない」とも言われますが、機関投資家がESGに強い関心を持ち始めたのを契機に、これまでサステナビリティ経営を重視してこなかった企業も動き出しました。ESGに関する評価を高め、指数に組み込まれるために何をすべきかについて、経営企画、IR、CSRなど関係部門が一体となって検討を始める企業が増えています。

――ESGに関する指数は、なぜ多くの種類があるのでしょうか。

深井:ESGを評価する手段、方法には決定版がなく、各評価機関が独自性を出しながら評価しているからです。GPIFが指定した3つのESG指標のうち、グローバルでも有名な指数提供機関が提供するESG指数「FTSE Blossom Japan Index(FTSE)」と「MSCI ジャパン ESG セレクト・リーダーズ指数(MSCI)」を比べてみても、評価基準は異なります。FTSE の指数は、14個の評価項目のうち、各企業に10項目程度を当てはめて幅広く判断します。一方、MSCIの指数は37もの評価項目がありますが、ガバナンスの4項目は全企業に適用し、残りは企業の業種などで4項目前後に絞り、メリハリをつけて評価しています。このため、FTSEでは高スコアでも、MSCIでは低スコアとなる場合もあります。

日本企業の情報開示はESG評価を受ける上で適切か

――評価の低い企業はそもそもの取り組みが不十分なのか、それとも伝え方に問題があるのでしょうか。

伊吹:両方に改善の必要な企業もありますが、情報開示を強化すれば、グローバルでより正しく評価される日本企業は多いのです。

深井:国内を中心に事業をしている企業は、働き方改革や女性活躍推進など、日本で求められている取り組みに注力しがちですが、評価機関はグローバルの統一基準を用いるので、ESG評価にズレが生じてしまいます。また、強制労働や児童労働の禁止など、日本企業の感覚では「そんなことをしているはずがない」という情報の公開まで求められることもあります。評価を高めたい企業は、評価機関が求める項目を確認し、適切な情報開示について改めて考えてみたほうがよいでしょう。

3ステップで取り組みを強化する

――ESGの取り組みを強化したい企業は何をすべきでしょうか。

深井:大きく3つのステップに分けて考えるといいと思います。ステップ1は「実態の理解」。自社の取り組み状況や評価機関の評価状況を見て、棚卸しをします。ステップ2は「どこか1つの指標をターゲットに定めて、自社の取り組みを高度化させる」。そして、ステップ3では「複数の指標を見ながら、どこに力を入れるかを考え、自社なりのスタンスを決める」ことが望まれます。先進的な企業はさらに信頼度を高めて、地域や国際機関など他のステークホルダーと連携しながら新しい活動をしていく土壌作りに注力しています。

――個々の企業が現在、評価機関にどのように評価されているかを知ることができるのですか。

深井:NRIは評価機関のデータベースの使用に関するライセンスを取得しており、お客様からの依頼を受ければ、評価機関が見ている評価項目と評価方法、各企業の評価点の内訳を把握することができます。また、同業他社やベンチマーキング対象企業の評価状況などもわかるので、それらの情報を提供するほかに、当該企業が何についてどこまで取り組むべきなのか、どのような情報開示をすれば効果的なのかをアドバイスすることも可能です。

伊吹:サステナビリティ経営の取り組みや情報開示をさらに進展させるためには、さまざまな部門を巻き込まなくてはなりません。その際、上記のようなデータに基づく分析結果やスコアで根拠を示すことができれば、社内での検討がしやすくなるという効果もあります。

ESGに取り組む本質的な意義を考える

――最後に、企業のESG対応についてアドバイスをお願いします。

伊吹:企業にとって指数や格付けの組み入れは最初の一歩となりますが、それがゴールではありません。投資家が評価するのは、企業が持続的に成長するために経営基盤を強化すること。したがって、自社なりに優先課題を見極め、意図をもって取り組むことが大切です。私たちもコンサルティング活動を通じて、日本企業がグローバルで正しく評価され、成長できるように後押しをしていきたいと思っています。

深井:これまで企業、機関投資家、資金を提供するアセットオーナーは切り離されていました。ESG情報を用いて対話することで、企業と機関投資家、アセットオーナーの相互理解やエンゲージメントを深める機会になります。そのためにも、企業は評価を得るだけの情報開示ではなく、自社にとってのESGに取り組む本質的な意義を考えてみることが重要です。

 

NRIのプリンシパルとは

特定の業界やソリューションで高い専門性を備え、コンサルタントの第一人者として、社会やクライアントの変革をリードする役割を担っています。

新たなビジネスを作り出し、プロジェクトにも深くコミットし、課題解決に導く責任も有しています。

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株式会社野村総合研究所
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E-mail: kouhou@nri.co.jp

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