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「○○ペイ」で給料を受け取る日がやってくる?

金融イノベーション研究部 上級研究員 竹端 克利

#Fintech

2019/02/25

日本では法律上、雇用主が労働者に給料を支払う際、現金払いか口座振り込みに限ると規制されています。現在、政府内ではこの規制を緩和し、スマートフォンのアプリでも給料を受け取れるよう、ルール作りが進められています。資金循環分析や通貨・金融制度論を研究する野村総合研究所(NRI)の竹端克利が、この規制緩和がもたらすインパクトについて解説します。

――一口に「決済アプリ」と言ってもたくさんあります。給料を受け取れるようになるのはどのようなアプリなのでしょうか?

近年、「○○ペイ」という名称の決済アプリが数多く登場し、ユーザーからみると何がどう違うのか、ややわかりづらいです。いくつかの分類方法が考えられますが、ユーザーの財布や銀行口座からお金が出ていくタイミングに応じて、「前払い」「即時払い」「後払い」の3つに分けてみるとわかりやすくなると思います。

「前払い」とは、「nanaco」や「Suica」などの電子マネーがアプリになったようなものです。アプリに登録した銀行口座等からアプリのウォレット(口座)にチャージして、QRコードやバーコードなどで支払いをする仕組みです。「即時払い」とは、買い物した際にその場でユーザーの銀行口座から代金が引き落とされるもので、アプリの中では「Origami」が有名です。また、最近では、横浜銀行の「ハマPay」や福岡銀行の「YOKA!Pay」をはじめ、銀行自身が提供する決済アプリも急拡大しています。「後払い」とは、あらかじめクレジットカード情報をアプリに登録しておき、買い物時にQRコードなどを提示すれば支払いができるものです。実際は、「前払い」や「後払い」を選択できるなど、一つのアプリに複数のタイプが組み合わされていることが多いです。
このうち「前払い」の形は、チャージした金額を現金や銀行口座に払い戻せるかどうかでさらに分かれます。大まかに言うと、払い戻し可能なタイプは「資金移動業型」、原則不可のタイプは「前払式支払手段型」と分類でき、前者は「LINE Pay」、後者は「Kyash」などが代表的です。細かい話に聞こえるかもしれませんが、法制度上は「現金での払い戻しができるかどうか」という点はとても重要で、資金移動業型と前払式支払手段型では法的根拠が異なります。

今回、給与の振込先として解禁されると言われているのは、払い戻し可能な「資金移動業型」のアプリです。資金移動業とは、資金決済法で定められた業であり、現時点(2019年2月)で64社が登録されています。現在、労働法制を所管する厚生労働省を中心に、資金移動業者の口座を給与振込先として利用できるようにするためにどういうルールが必要か、詳細な検討が進められているようです。64社のうち要件を満たす「資金移動業型」が組み込まれているアプリが、給与振込先として利用可能になるでしょう。

――この規制緩和が実現した場合には、社会や企業にどのような影響がありますか?

まず、キャッシュレスが一段と推進されると見込まれます。そもそも給与振込とは個人にとってお金のはじまり、「起点」です。この起点が銀行口座から日常生活により近いスマホアプリに変わると、細かな手間が省ける分、利便性が向上し、アプリユーザーの裾野がさらに広がるでしょう。そうすると、お店側も「みんな使うのなら」ということで導入するようになり、ユーザーと加盟店の双方が増加していく可能性があります。こういった「資金移動型」の拡大に対抗する形で、他の類型の決済アプリも導入が加速するでしょう。結果的に、スマホ決済市場全体が活性化してキャッシュレスが促進されるのではないでしょうか。

さらに、スマホを入り口とした金融サービスが拡大する可能性もあると思います。アプリ決済事業者には利用者の嗜好や購買状況、ライフイベントといった、金融サービスの提案に直結する情報が集まりますが、自らは金融商品やサービスの提供はできません。他方、既存の金融機関は厳格な規制下におかれているため、アプリ決済事業者のように直接情報を集めたくても制約が多いです。そうすると、両者が提携し、消費者との接点はアプリに、金融商品の提供などは既存金融機関に、という形での役割分担が進むのではないでしょうか。結果的に、決済アプリが給振先になることで投資や保険といった金融取引の入り口としても使われるようになり、一般の人にとってはハードルが高いと言われてきた金融取引がより身近になっていく。こういった動きの起爆剤としても、今回の規制緩和が持つ意味は小さくないと考えています。

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