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デジタル・フードチェーンで食品ロス解消へ

グローバル製造業コンサルティング部 岩村 高治

#DX

#食料品

2019/11/13

日本国内で年間650万トンにのぼる食品廃棄は社会問題となっています。2019年10月には食品ロス削減推進法が施行され、自治体に削減計画策定を求めたり、食品ロスを排出する事業者に食品ロス削減に取り組むよう努力義務が課せられました。生産から加工、流通、小売りに至るフードチェーン全体でデジタル化と情報連携を進めれば、食品ロスの削減や効率化、付加価値の向上につながると、長年にわたり食品業界に携わってきた野村総合研究所(NRI)の岩村高治は考えています。食品業界はデジタル化でどう変わるのでしょうか。

追跡されてこなかった情報を価値に変える

――食品業界のデジタル化はどのくらい進んでいますか。

食品業界は生産から販売まで、多様なステークホルダーが介在します。流通経路の川上である生産現場ではあらゆるものをネットにつなぐIoT農業、川下となる販売・小売りでは電子商取引(EC)やネットと店舗などを連携させるオムニチャネルなど、デジタルを活用した活動が見られます。その一方、食品加工や流通、チェーン全体のデジタル化・情報活用は発展途上にあると見ています。

――チェーン全体での情報活用として、これまでにも原産地や生産者を示してトレーサビリティを高める動きがありましたが。

2000年頃から、トレーサビリティの確保は地道に続けられてきました。どこまでデジタル化されているか別として、畜産業で個体識別番号を付与して追跡する、スーパーで野菜をつくった農家を表示するような取り組みはあります。しかし実際に多くの生鮮食品は、収穫日や加工日、消費期限といった情報が、個別に管理・表示されているわけではありません。また、同じ農家で採れた野菜でも、温度管理が徹底されていたか、常温で放置されたかというように、どんな状態で運ばれ保管されたかによっても、その後の鮮度、栄養価、消費期限に差が出てきます。
近年、単身者や高齢者を中心に、カット野菜やサラダ、カットフルーツの消費が伸びていますが、概ね加工から1~2日を消費期限として定めているため、店頭で厳密な商品管理が必要になり、廃棄ロスの発生につながっています。しかし、あるカット野菜メーカーでは、集荷から加工、貯蔵すべてのプロセスを4~5℃で徹底してつなぐことで、カット野菜の消費期限を2倍に伸ばすことを実現しています。
栄養価についても大きな違いがでます。例えば、ブロッコリーのビタミンC含有量は、暗所冷蔵貯蔵の状態でも、収穫から3日で3分の1に減るというデータがあるのですが、目の前に並べられたブロッコリーが今朝採ったものか、3日前に収穫されたのかは外見だけではわかりません。本来なら、収穫からより早く届けられた野菜は、栄養価の面で価値があり、それに見合った価格が提示されてもよいはずです。
従来はトレースされてこなかった付帯情報も含めて個品レベルでデータを管理すれば、もっとフードチェーン全体の価値を高める事ができると考えています。

ブロックチェーンで個品管理する

――しかし、フードチェーン全体で個品レベルの一貫管理するには、多大な労力やお金がかかりそうです。

これまでは、管理コストとメリットがバランスしませんでしたが、デジタル技術の伸展で環境が大きく変わろうとしています。

米国では、IBMとウォルマートが共同で、ブロックチェーンを用いて生鮮食品の生産や流通履歴を個品管理する仕組みを導入しています。ブロックチェーンを活用することで、多くの流通・加工事業者が関わるフードチェーンでも、一貫性と透明性を担保したかたちで流通履歴などの情報を個品管理できるようになっています。また、大規模な基幹システムと初期投資を必要としないため、中小企業や個人経営の農家も、低いコストでこの情報管理の仕組みを利用できるようになっています。
食品の出荷状態や流通段階での鮮度を測定する際にも、デジタル技術が活用できます。自動収穫機械や選果機のデータ、ショーケースや無人店舗などに設置されたカメラ画像などから、画像解析を通じて食品の状態を診断する事ができるようになってきています。

食品ロス問題を突破口にデジタル化の加速へ

――さまざまな企業が連携しチェーン全体でデータ管理をしていく際に、リーダーシップをとれるのはどのような企業でしょうか。

米国では、ウォルマート、カルフール、アルバートソンズなどの大手小売りが、デジタルを活用してフードチェーンを管理する試みに賛同しています。日本でも大手スーパーやコンビニなど小売企業のリーダーシップが重要になるでしょう。食品廃棄に関するコストはどの企業にとっても悩みの種なので、個品でのデータ管理を検討する良いきっかけになると思います。

フードチェーンは、栄養価や健康への貢献などの付加価値を消費者に明確に提示できれば、それに見合った付加価値を生み出すポテンシャルがありますが、それを十分には活かしきれていません。フードチェーン全体で埋もれている情報を集めて価値に変換し、事業者の収益と消費者の生活の豊かさにつなげていく仕組みの実現を、今後も多様な業種・業界の方々と進めていければと思っています。


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株式会社野村総合研究所
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E-mail: kouhou@nri.co.jp

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