2020/02/26
デジタル化に伴い、実店舗で販売していたモノ、サービスが次々とオンラインショップなど、ネットワークを介して販売されるようなりました。対面での顧客とのかかわりが減少するなか、顧客接点を担うコンタクトセンターの重要性は非常に高まってきていますが、多くの企業が課題を抱えています。DX時代のコンタクトセンターには何が求められ、どのような可能性があるのか、AIに着目しながら3回にわけてご紹介します。第一回は、年間50社以上の企業を訪れ、コンタクトセンターの現状に詳しい野村総合研究所(NRI)の神田晴彦に、課題解決への糸口を聞きました。
ITリテラシーや心理的要因が人材確保の壁になる
――企業のコンタクトセンターで共通して見られる問題はありますか。
人手不足の深刻化です。近年、1つの企業が取り扱う商品・サービス数が増え、顧客層も広がってきています。それに伴い、問い合わせの内容も多様化し、コミュニケーターに求められる知識が増えています。さらに、2000年頃からコンタクトセンターのIT化が進み、電話応対に加えてパソコンの操作もしなくてはなりません。「増加する商品・サービスの知識」、「多様な問い合わせへの応対力」、「ITリテラシー」。この3つを持つ人材を確保・育成する必要がありますが、多くの企業が苦戦している状態です。
コンタクトセンターの仕事は本来、困っているお客様をサポートし、満足して頂き、その企業のファンになって頂くという働き甲斐がある仕事です。ですが、働き甲斐以上に、求められる「知識」、「応対力」、「ITリテラシー」の3つが、働き甲斐を上回るほどの高い心理的なハードルとなってきています。
――人手不足には、どのような対策がとられてきましたか。
採用時の賃金を上げたり、採用基準を下げることで新規コミュニケーターの獲得に注力したり、また既存のコミュニケーターの生産性を高める試みが見られました。生産性を高めるには、応対時間や保留時間、記録時間の短縮、1時間あたりの処理件数の増加など、管理を徹底することに注目が集まりがちです。しかし、無理に時間を短縮しようとすれば、応対品質や従業員満足度が下がり、逆効果になります。
コンタクトセンターの品質が企業評価に大きく影響
――コンタクトセンターの対応が企業の評価に直結するという指摘もあるようですね。
「コールセンター白書2018」によると、業界や業種に違いはあるものの、コミュニケーターの対応は企業の評価に影響すると8割の消費者が考えているようです。また、サービスや製品に不満を感じた場合、顧客の離反を招きます。特に、コミュニケーターが前面に立つことが多い通信販売分野では、不満を感じた消費者の4割が離反しています。携帯キャリア、保険、証券など切り替えが起こりにくいとされる業種でさえ、顧客の離反原因となっています。さらに、不満を持った顧客は否定的なクチコミを発信しやすく、SNSが普及した昨今では、企業イメージにも無視できない影響を及ぼします。
このようにコンタクトセンターの品質は重要である一方で、コミュニケーターの採用難によってその運営が困難をきたしはじめてきていることを、経営陣が認識できていない企業も実はかなりの数あるのが実情です。
――問題解決に向けて、どのような動きがありますか。
今、コンタクトセンターで注目されているのが、AIでコミュニケーターの業務や知識面を支援する動きです。電話での応対後に内容を記録する業務を、通話の音声データを認識して自動的にテキストに変換するAIに置き換えたいと考える企業は増えてきています。また、ただ記録をとるだけでなく、要点をまとめる機能なども拡充されつつあります。
通話中に必要な情報をコミュニケーターに提示し、知識面を支援するAI活用も増えています。商品名をキーワードに、その商品で頻繁に聞かれる主要な質問と回答を先回りして提示したり、複雑な問い合わせについては確認すべきポイントを示すことで、経験の浅いコミュニケーターでも速やかに問題点を明らかにできるように支援する試みもあります。
コンタクトセンターの重視度合いは業績にも相関する
――一般的に、コンタクトセンターのデジタル化は優先課題とされているのでしょうか。
業種業態によって差があります。店舗を持たない通販などの小売業や、金融機関などは積極投資をしています。社内におけるコンタクトセンターの位置づけや経営層の関心の高さも影響します。特に、経営層が定期的にコンタクトセンターに足を運び、積極的にコミュニケーターに話しかけるだけでなく、音声認識技術を使って顧客から感謝された回数を見たり、覆面調査で応対品質を確認するなど、担当者の努力を適切に評価し表彰などで報いている企業は、デジタル化が進んでいるだけでなく、業績自体も好調な傾向にあります。
――デジタル化を推進する上で注意すべき点はありますか。
AIを初めて導入する場合、一からPoC(概念実証)をしようとする企業が多いのですが、その分、時間やお金がかかってしまい効率が悪いこともあります。先行事例が少ない業務と異なり、コンタクトセンターでのAIの適用領域はかなり具体化されており、業界業種に限定されずに共通利用できるものがあります。すでに、コンタクトセンター向けの経験値や実績を持つAIプログラムが存在することも多く、それを自社の状況に適合させるアプローチも早期に効果を出していくには有効です。
マーケティングの現場でAIを活用して売上げを強化する方向に注力している企業もあります。ただ、注意すべきは、マルチチャネルやオムニチャネルが当たり前になったこの時代にこそ、コンタクトセンターの応対品質が問われます。「企業の顔」となる重要な顧客接点として再認識し、実態を正しく理解していくことが大切です。
20年以上にわたるNRIのコンサルテーションと研究開発の知見が、DX時代の「企業の顔」であるコンタクトセンターの課題解決に貢献できるものと私達は考えています。
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