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量子コンピュータはビジネスをどこまで変えていけるのか――未来を最適化する

プラットフォームサービス開発部 大野 真一朗
IT基盤技術戦略室 藤吉 栄二

#DX

2020/05/19

従来型のコンピュータでは容易に解くことのできない複雑な計算を、解くことができる量子コンピュータ。この技術を最適化計算に利用し、さらに機械学習による予測計算と組みわせて利用することで、ビジネスの価値を最大化できるとNRIは考えています。量子コンピュータの研究に取り組む野村総合研究所(NRI)の大野真一朗と藤吉栄二に聞きました。

最適化分野で注目を集める量子コンピュータ

――量子コンピュータに取り組むことになった背景や経緯を教えてください。

藤吉: 私は、『ITロードマップ』(東洋経済新報社)の執筆など、NRIのITナビゲーション活動を通じて、お客さまのビジネスに変化をもたらす先端技術を調査しています。2015年にGoogleが、カナダのベンチャー企業のD-Wave Systemsが開発した量子コンピュータを使い、特定の条件下では従来型のコンピュータより1億倍高速であるとの論文を発表し、注目を集めました。この発表を受けて、「何かすごいことが起こりそうだ」と思ったことが、量子コンピュータの調査に取りかかった大きな理由です。

大野:私は、AIの一分野である機械学習という技術のビジネス適用、技術支援を担当しています。例えば、機械学習を使ってお客さまが持つ営業履歴などのデータを分析すれば、来月に売り上げが見込める訪問先を予測することができます。近年、お客さまから、「来月行くべき訪問先が予測できるのであれば、その予測に基づき、訪問ルートや営業員のシフト等を最適化し、さらに効率性を増すことができないか」等のご相談を頂きます。そこで、機械学習と量子コンピュータを使った最適化計算とを組み合わせれば、お客さまの課題を解決できるのではないかと考え、数理最適化の領域で注目されている(アニーリング型と呼ばれる最適化計算に特化した)量子コンピュータの調査をはじめました。

従来のコンピュータでは解くことが困難な課題に、解をもたらす

――量子コンピュータで、社会や企業のどのような課題が解決できると期待されるのでしょうか。

大野:機械学習を用いることで、小売りで言えば来月の売り上げ、物流で言えば来月の貨物量が予測できます。しかし、来月の予測だけでは、現場を変えることはできません。具体的にはその予測に基づき、来月、どの店にどれだけの商品を配置するか、配送員を何人配置するか、どのルートで配送を行うか、といった具体的なオペレーションに落とし込むことが必要です。そこで、事業において守りたい要件(品質・コスト・納期)を満たしつつ効率性を高めるオペレーションを探索、発見する用途で、最適化技術を用いたシミュレーションが役に立ちます。

この意味で、最適化技術は機械学習による予測の価値を高めるものであり、現場の変革に不可欠と言えます。しかし、実際にオペレーションを最適化しようとすると、多種多様な要因を考慮する必要があります。すなわち、計算で扱う変数が膨大になり、従来型のコンピュータを使って解くことが難しくなってしまうのです。
量子コンピュータを利用すれば、従来型のコンピュータで解くことが難しい膨大な変数を扱う問題を解ける可能性があります。その対象は物流に限りません。製造ラインの最適化や金融におけるポートフォリオ計算の最適化、新薬の開発、交通渋滞の解消に向けたルート計算など、多くの産業に対して変革をもたらす可能性があると考えています。

ゴミ収集の最適経路算出、最適なタクシー配車も

――最適化問題への取り組みは、どのような分野・ビジネスに活用できるのでしょうか。

大野:例えば三菱地所は、福岡市に本社を置くAIベンチャー、グルーヴノーツの支援のもと、丸の内エリアにおけるゴミの発生量を機械学習で予測し、量子コンピュータでゴミ収集車の最適な移動ルートを探す取り組みを行っています。この予測と最適化という2つの計算の組み合わせは、近年、注目を浴びているMaaS(Mobility as a Service)の領域にも適していると考えます。近隣で複数のイベントが開催されているケースで、どのイベントに何人くらい参加者が集まるかを予測し、どの場所で何時くらいにタクシーの需要があるかを算出して、どの順番で配車すると一番売り上げが上がるかを予測することもできます。

藤吉:ただ、ここで注意していただきたいのは、量子コンピュータのビジネス利用は一筋縄ではいかないということです。量子コンピュータには大別してゲート型※1とアニーリング型※2の2つの方式がありますが、いずれも技術進化の途上です。アリーニング型はすでにD-Wave Systemsが商用化し、日本ではアニーリング型を従来型のコンピュータを使って実現しようという取り組みも始まっています。企業を交えた最適化計算の研究が盛んですが、実機はまだ膨大な変数を解くだけの計算能力を備えておらず、最適化された計算結果が得られないこともあります。一方、ゲート型はグーグルやIBMの取り組みが世間を賑わしていますが、ビジネスで使うには5年から10年先を見越さないとなりません。

世の中の課題を解決したいと考える企業とNRIとがタッグを組んで

――量子コンピュータの活用について、NRIはどのような支援ができるのでしょうか。

藤吉:前述したとおり、量子コンピュータはすぐさまビジネスで使えるものではありません。目先の利益より長期的な視点で、量子コンピュータが本格化する時代に自社がどう対応してビジネスを変えていくのか、を考えることが重要になります。NRIは、量子コンピュータの現状と課題、今後の展望に関する情報提供を通じて、どのような用途であればお客さまのビジネスに貢献できそうか、検討のご支援を行っています。

大野:機械学習や量子コンピュータによる最適化をビジネス適用するためには、適用テーマの検討、データ活用に向けたインフラの整備、そして、機械学習や最適化技術を使いこなす専門能力の3つが必要となります。
NRIでは、コンサルタント、インフラエンジニア、データサイエンティストが三位一体となって、ご支援することができます。この総合力で、世の中をより良くできるユースケースを一つでも多く生み出せたらと考えています。
また、現在、NRIも所属しているMCPC量子コンピュータ推進WGという団体において、量子コンピュータおよびその派生技術を提供するメーカーとその技術の産業応用を担うユーザーがタッグを組んで、社会課題の解消に向けたユースケースの探索とPoC(概念実証)を進めています。こういったコミュニティ活動を通じても、先端技術の社会適用に貢献できればと考えています。

  • ※1:

    ゲート型は、量子状態にある素子の振る舞いや組み合わせで計算回路を作り、問題を解く。超電導やイオントラップ、トポロジカルなど様々な実現手法が提案されている。従来型のコンピュータの上位互換として期待が高く、グーグルやIBMの大手ITベンダー、またリゲッティ・コンピューティングやIonQなどのスタートアップがハードウェアを開発中。

  • ※2:

    アニーリング型は、高温にした金属をゆっくり冷やすと構造が安定する「焼きなまし」の手法を応用して問題の解を求める。商用化で先行するD-Wave Systemsのハードウェアでは、格子状に並べられた素子に相互作用を設定し、横磁場という信号をかけて、素子全体のエネルギーが最も低くなる状態を探し出す。日本ではNECが2023年までの実用化を発表している(NECプレスリリース「NEC、量子アニーリングの組合せ最適化機能を大幅に向上する方式に目途、実用化に向けた取り組みを加速」(2018年1月23日))。

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株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp

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