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デジタル社会下で生み出される新消費スタイル

NRI上海 劉 芳
ICTメディア・サービス産業コンサルティング部 郷 裕

#グローバル

2020/07/22

中国では、流通・サービス業において、企業と消費者がともに進化を続け、リテール・イノベーションが常態化しています。そのような中、「新消費スタイル」と呼ばれるトレンドが誕生し、さらなる成長の萌芽となる様相を示しています。 中国の流通・小売業界の事情に詳しい野村総合研究所(NRI)上海の劉芳とNRIの郷裕に、中国流通・小売市場の現状、新型コロナウイルスの影響などを聞きました。

中国消費市場に占めるEC市場のシェアは全体の2割にまで拡大している

中国商業連合会がまとめた中国小売業の売上上位企業を見ると、2019年度のトップ3は全てEC企業でした。またEC市場は、消費市場※1全体の20.7%までシェアが拡大しています。
EC市場の成長と共に、小売・サービス領域でのデジタル活用が次々に起こっています。EC企業がこれまでの経験を生かして実店舗運営に乗り出したり、価格だけでなくサプライチェーンや商品企画の質を重視する消費者への対応が求められたりと、時代が大きく変わってきています。
2020年1月15日、中国商業連合会が「中国商業十大ホットイシュー2020」を発表しました。ここにはまだ新型コロナウイルスの影響が反映されていませんが、中国の流通・小売市場の新しい動向を示すものとして注目されます。
本レポートからは、中国の消費市場が、商業施設の営業時間延長や深夜営業の飲食街の開設などに伴い、「夜間経済」という商業のブルーオーシャンを創出していることや、政府と民間が役割分担しながら強い国内市場作りに取り組んでいること、新たな販売手法や、多様な消費ニーズに応えるための動きが起きていることなどがわかります。

デジタル社会の進展をベースに、リテール・イノベーションが常態化

中国では今、デジタル社会の進展に伴い、リテール・イノベーションが常態化し、その領域は既存業務の改善からビジネスモデル革新レベルに拡大しています。商品開発分野ではC2B(Consumer to Business)の進化、販売手法ではライブ配信、実店舗ではモバイル事前オーダーなどが発展してきています。
C2Bモデルのイノベーション例では、アリババ・グループのTMIC(天猫イノベーションセンター)とロレアルパリ中国による「零点クリーム」の開発が挙げられます。この開発には、過去1年間に天猫または淘宝でクリームを購入した消費者1,000人が関わり、コンセプト開発から最終製品の選定までをすべてオンライン上で行いました。そのため、開発期間はわずか59日間。化粧品の通常の開発期間1〜2年を大幅に短縮しながらも、販売初日に10万本を売り上げるという大成功を収めました。
その他にも、テレビショッピングのオンライン版ともいえる「ライブ配信」で、キャスターが個性を発揮してファンを引きつけ、視聴者からの質問にも中継中にすぐに答える新しい販売手法や、店頭での待ち時間を短縮たり、ピークタイムの人手不足を解消したいできる、「モバイル事前オーダー」と店頭受け取りの仕組みも普及しています。
その他にも、人気漫画やアニメ等のテーマショップ・イベント開催などを通じて収益を上げる「IP経済」、2.2億人を超えた独身者をターゲットとした「一人消費」、国内・海外の有名ブランドを誘致し、第一号店のオープンによって経済活性化を目指す「一号店」経済などの新しい動きが加速し、「新消費スタイルの萌芽」の様相を呈しています。

消費習慣と価値観の面で先進国に近づき、精神的な豊かさの追求も生まれる

経済成長によって人々の可処分所得が増え、北京や上海などの大都市では、その購買力は先進国に近づいています。SNSなどで海外の生活習慣や商品に対する価値観などが中国の生活者にも浸透し、モノだけではなく精神的な価値の追求も始まっています。
このような背景の中で、3つの変化が起きています。1つは大都市の生活リズムの変化です。1人暮らしで時間の余裕がないため、買い物だけでなくさまざまなサービスを受ける場合にも、スマホで完結する利便性を求めます。
2つ目が、質の高い生活の希求です。消費の価値観も大きく変わり、自分のためにお金を使って、楽しく満足度の高い生活を送りたいと希望する人が多くなっています。海外旅行ブームもその表れです。コロナ禍の落ち着くころには、海外旅行が爆発的に成長していくといわれています。
3つ目が、精神的な欲求の追求です。物質的な要求が基本的に満たされた次には、精神的な欲求を追求し始める流れが生まれています。中国では最近ペット関連の消費が増加し、また音楽や動画配信サービスに対価を支払う意識も高まっています。

家族社会から一人暮らしの一般化へ、「一人消費」「男性消費」が拡大

都市で暮らす20代・30代は独身が多く、比較的高い学歴をもち、月収は10,000元、日本円で160,000円位です。彼らは両親の扶養はほとんどしません。かつては社会人になれば親を支える義務があると考えられていましたが、今の親世代には年金があり、子供から支援を受けなくても生活できるため、独身者は自分の収入を自分のために使います。
そのため「一人消費」に向けたビジネスが盛んになってきています。例えば独身者向けマンション運営です。中国の住宅は基本的に50平方メートル以上の家族向けの住宅が多いのですが、単身者用アパートメントの経営に乗り出す企業が増えています。こうしたアパートメントの運営は全てオンライン。契約のみならずビル管理や清掃、修理の依頼も全てスマホで、余分な時間を使うことなくできるようになっています。
また、従来家族重視で自分のための消費に意欲が低かった男性も、経済力の向上にともない自分向けの消費を拡大しつつあります。例えば男性向け化粧品では、化粧水・乳液に加えメイクアップ化粧品が販売を伸ばしています。
男性が興味をもつカテゴリに特化し、ファッションシューズから衣服や腕時計まで幅広く取り扱う男性向けソーシャルECユーザーも増えています。

新型コロナウイルスの影響でデジタル社会化が加速し、新消費スタイルへの移行が進む

中国政府は5Gに関してより大きな投資計画を発表しています。一方で消費者は、新型コロナウイルスの影響で巣ごもり消費が拡大する傾向にあります。 この2つの条件が重なった結果、オンラインでのカウンセリング、ライブ配信、診療や教育などコト消費のオンライン化の加速も予測されます。
中国では今、リテール・イノベーションの常態化、新消費スタイルの誕生、それに対する政府による投資が相乗し、さらなる成長が見込まれています。中国は今後も、さらに先進的なデジタル社会として進展するでしょう。そして徐々に成熟した市場へと変化していきます。
夜間消費、一人消費、男性消費、IP経済※2など新消費スタイルの萌芽は、成熟した市場において、スモールマスを狙う緻密なマーケティングに取り組んできた日系企業にとって、中国市場開拓の新たな機会となる余地が大いにあると考えます。

  • 1 中国における消費動向を示す指標。卸売業、小売業、宿泊業及び飲食業が個人消費者又は社会団体に直販した消費財・サービスの総額を指す。
  • 2 人気漫画、アニメ、ドラマ等テーマショップ・イベント開催、関連商品開発、販売などのビジネスを指す。
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