新型コロナウイルスが日本経済に及ぼす影響と景気底割れ回避に向けた対応
新型コロナウイルスは日本経済に大きな影響を与えています。今後、アフターコロナ、ウィズコロナの時代を迎える上で、景気底割れを回避するためには何が求められるのか。これまで2回にわたって新型コロナウイルスに関する緊急提言を行ってきた野村総合研究所(NRI)の梅屋真一郎に、新型コロナウイルスが日本経済にどのような影響を及ぼしているのか、それに対してどのような対応が求められるかについて聞きました。
「コロナ対人4業種」では対人接触の削減が売り上げに悪影響
新型コロナウイルスの流行という未曽有の困難にも拘らず、企業倒産件数は前年同期とほぼ同じ水準であり、失業率も1%以内の悪化にとどまっています。これは、企業向けには資金繰り対策や持続化給付金、雇用向けには雇用調整助成金・特別定額給付金などの緊急避難的な政策が打たれたことが功を奏したと言えます。こうした政策の総動員により厳しい環境下でも、何とか企業・雇用は持ちこたえているというのが現状です。
しかし、足元の経済指標に見ると、対人接触業務が前提である「コロナ対人4業種」(宿泊業、飲食サービス業、生活関連サービス業、娯楽業)においては、人々の外出などの活動が依然として低迷しているため、売り上げの減少に歯止めがかかっていません。こうした業種にとっては、コロナ感染拡大時に採られた「接触7~8割削減」という政策は、「対人3割経済」を意味すると言えます。実際、ターミナル駅等の人流データを見る限り、外出などの対人接触は依然として前年レベルを大きく下回っており、今後も感染の状況によっては「対人3割経済」が継続する可能性があります。
融資が積み重なり過剰債務問題に直面する「コロナ対人4業種」
政府は、売り上げの減少に苦しむコロナ対人4業種を支えるための資金繰り対策を発動しています。具体的には、政府系金融機関による融資と民間金融機関による信用保証(100%保証)付融資で、この制度は実質的に3年間、利息も元本も返済しなくて良いという特殊で強力な融資と言えます。2020年9月10日付の日本経済新聞の報道によれば、コロナ対策融資は官民累計で40兆円を超えています。
一方で、これは資金繰りの面からは融資が積み重なっていくことを意味します。「対人3割経済」が継続すると、2年以内に「コロナ対人4業種」の債務返済が困難な水準に達する恐れがあります。
しかも、「コロナ対人4業種」は地産地消型であり、仕入れや外注の多くを同じ市区町村内・都道府県内で行っていることから、地域内の他業種への影響は否定できません。このことから「コロナ対人4業種」の事業者の経営不振は、同じ地域の取引先の経営に影響を及ぼすことが想定されます。よって、地域内の小売り・卸売りに携わる中小企業従業者の695万人への影響も否定できません。
コロナ感染の「完全収束」にはまだ相当程度の時間を要します。感染拡大ごとに経済行動自粛を強化し「対人接触7~8割削減」とした場合、「コロナ対人4業種」では「対人3割経済」が長期化する恐れがあります。その場合、「コロナ対人4業種」の多くが債務返済困難な危険水準に達して「企業持続性の崖」に直面する可能性があり、日本経済全体の底割れリスクにもつながりかねません。これを避けるには、接触制限を3割程度にとどめる「対人7割経済」への早期回復が求められます。
短期的混乱も長期的混乱も回避する政策のナローパスの模索を
これまで述べてきたように、「コロナ対人4業種」の過剰債務積み上がりを放置することは「企業の維持困難化」を引き起こし、長期にわたる経済低迷を招く恐れがあります。一方、経済活動低迷下での「清算主義に基づく企業淘汰促進」は、「企業の突然死」とその「連鎖」につながり、政策を引き金とした恐慌を引き起こす可能性があります。
「コロナ対人4業種」および関連業種は、就業者が多いことから短期的・長期的混乱が雇用不安に直結し、社会全体への影響も大きいと考えられます。政府としては、そのいずれをも回避する「政策のナローパス(狭き道)」の模索が必要です。
そのためには、「当面の経済活動・企業下支え」と「中長期的な企業再編・雇用移動促進」といった「時間軸を活用した施策」が必要であり、コロナ対策融資の猶予期間である3年間をいかに有効に活かすかがカギとなります。つまり、コロナ完全収束までの間は、経済活性化と企業・雇用支援策継続で激変を抑えながら「出口」に向けた環境整備を行い、コロナ完全収束後には、企業の新陳代謝促進と失業なき雇用移動促進で、企業再編・産業再編・生産性向上を目指せば良いのです。
2021年春には、宿泊業の平均債務償還期間が危険水準である20年を超える可能性があります。そのような事態が生じる前に、経済を支え、出口への準備に取り掛かる「コロナと付き合いつつ経済活性化する」フェーズヘ移行すべきなのです。
新たなフェーズヘの移行のタイムリミットは2021年春
日本経済の底割れを阻止するには、来年春までに新たなフェーズヘ移行することが不可欠です。そのため、安心・安全を担保した上での「対人7割経済」回復によって「企業持続性の崖」からの転落を回避し、コロナ「完全収束」後の「出口」に向けた環境整備を行うために、「コロナをコントロールしつつ経済を活性化するフェーズヘの移行」を政府として明確に宣言してはどうかというのが、私たちの提言の主旨です。
突破口となるのは、暮らしや社会のデジタル化です。2020年5月に政府が発表した「新しい生活様式」を超えた感染拡大予防に加え、国民の福祉を向上させ新たな機会を生み出す「攻めと守りを両立」させた「DXによる新しい生活様式2.0」を作り出すのです。
それは、適切な情報提供・支援提供により安心して暮らせる生活であり、新しい便利さ・サービスの提供により便利でワクワクする生活であり、さらにアイデア実現の場が提供され新たなことに挑戦したくなる社会です。こうしたことを可能にするデジタル社会資本を整備することで、安心安全を担保しながら経済活動を行える仕組みの構築にもつながると考えています。
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