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木内登英の経済の潮流――「バイデン政権成立で米企業のビジネス環境は大きく変わるか」

金融ITイノベーション事業本部  エグゼクティブ・エコノミスト  木内 登英

木内 登英

時事解説

2020/08/18

11月3日の米国大統領選挙がいよいよ近づいてきました。トランプ大統領に対して、野党・民主党の大統領候補の座を確実にしているバイデン氏が優位の状況が、現在続いています。労働者重視の政策をとりやすい民主党政権が仮に成立しても、極端に左寄りの経済政策はとらず、米企業のビジネス環境が大きく悪化する可能性は低いのではないかと現状では考えられます。

バイデン氏は副大統領候補を指名

バイデン氏は8月11日に、黒人女性のカマラ・ハリス上院議員を副大統領候補に起用することを発表しました。同氏はインド人とジャマイカ人の移民の2世です。17日から4日間の日程で開催されている民主党大会の中で、両氏は民主党の正副大統領候補に正式に指名され、大統領選挙戦がいよいよ本格的に始まることになります。
バイデン氏は以前より副大統領候補に女性を指名する考えを明らかにしていましたが、黒人の女性を選んだことで、黒人差別デモへの対応で批判を浴びたトランプ大統領に対して、人種差別問題を選挙戦略の中核に据える方針を明確にしたと言えます。さらにハリス氏は、不法移民への人道的な対応を強く訴えてきた、という経緯もあります。
ところで、民主党政権下では反企業、反富裕者的な政策が一般的にとられやすいことから、米企業は民主党政権の成立を嫌う傾向があります。しかし、仮にバイデン政権が成立しても、「企業が心配するような極端な左寄りの経済政策が採用され、ビジネス環境が大きく悪化する可能性は低い」のではないか、と現状では考えられます。主な理由は以下の3点です。

バイデン政権は中道左派政権に

第1は、バイデン氏は民主党の中では極端に左寄りではない、中道的な経済政策を掲げていることです。
バイデン氏は7月に、地球温暖化対策とインフラ投資に4年間で2兆ドルを投じる政策案を発表しました。2035年までに電力部門からの温室効果ガス排出量をゼロに抑えるほか、交通網などインフラの刷新、電気自動車の普及促進などを掲げています。
バイデン氏は、自らの地球温暖化対策は、米国の国際競争力を強化するもの、と主張しています。「地球温暖化対策は米国企業に大きな負担をもたらし、企業の国際競争力を削いでしまう」、とするトランプ大統領への反論です。地球温暖化対策は進めるが、それは反企業的な政策ではなく、企業、雇用、経済にプラスの政策であることを、バイデン氏は強調しているのです。
他方でバイデン氏は、富裕者増税、法人税率引き上げや公的医療保険の拡充など、伝統的な民主党の左寄りの経済政策も掲げていることは確かです。それでも、左派色はそれほど強くはありません。同氏は、法人税率を28%とする考えを示していますが、これは、オバマ政権下での35%とトランプ政権下での21%とのちょうど中間で、トランプ政権が引き下げた税率の半分を戻す、という比較的穏健なものです。
そして、バイデン政権の経済政策が左寄りに振れる可能性をさらに低下させたのが、ハリス氏を副大統領候補に指名したことです。副大統領候補の候補とされる人の中には、極端に左寄りの経済政策を掲げる女性のウォーレン氏も含まれていました。仮にバイデン氏が、民主党内左派を取り込む目的でウォーレン氏を副大統領候補に指名し、そのもとで大統領選挙を制した場合には、バイデン政権の経済政策も左寄りの性格を強める可能性があったでしょう。
他方で、人権問題、移民問題などでは舌鋒の鋭さで知られるハリス氏も、経済政策の議論での存在感は薄い状況です。同氏はバイデン氏の中道左派の経済政策を支持するものと考えられます。

政権交代で米国は国際協調路線に回帰か

第2は、バイデン氏がトランプ政権の自国第一主義を修正し、国際協調路線に一定程度戻ることを志向していることです。
貿易政策については、バイデン氏はトランプ政権の追加関税の導入を強く批判する一方、TPP(環太平洋経済連携協定)復帰に意欲を示しています。歴史的には、自由貿易を強く支持する傾向が強い共和党政権下で、トランプ大統領は保護主義傾向を強めましたが、民主党のバイデン政権の成立が、皮肉なことに自由貿易政策への回帰を米国にもたらすことになる可能性があります。
先に述べた地球温暖化対策でも、バイデン氏は、トランプ政権が脱退を決めた地球温暖化対策の国際枠組みである「パリ協定」に復帰し、環境問題で世界をリードするとしています。
バイデン政権のもとで自国第一主義が修正され、国際協調路線へと戻ることになれば、日本や欧州諸国など他国との関係改善にもつながり、米グローバル企業の活動にとっては追い風となるでしょう。
第3は、新型コロナウイルス問題の影響です。仮にバイデン政権が成立しても、当面の政権の経済政策はコロナ対策に忙殺されそうです。また、トランプ政権がコロナ対策に既に巨額の財政資金を投入したことで、財政環境は急速に悪化しています。その結果、景気情勢に悪影響を与える富裕者増税、法人税率引き上げとともに、財政環境を一段と悪化させる公的医療保険の拡充などの伝統的な民主党の経済政策も、当分の間、事実上封じ込められる可能性があります。

「反企業、反富裕者的な政策がとられやすい」と民主党政権の成立を警戒する傾向が強い米国株式市場が、現在、大統領選挙戦でバイデン氏優位の状況を静観しているように見えるのも、以上のような背景があるからではないでしょうか。仮に政権交代があっても、米企業のビジネス環境や株式市場の環境が一気に悪化する可能性は小さいように思われます。
ただし、バイデン政権が成立した場合、どのような人物が主要閣僚に据えられるかなど、まだ不確定要素も多い点には留意しておきたいと思います。

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プロフィール

木内登英

エグゼクティブ・エコノミスト

木内 登英

経歴

1987年 野村総合研究所に入社
経済研究部・日本経済調査室に配属され、以降、エコノミストとして職歴を重ねる。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の政策委員会審議委員に就任。5年の任期の後、2017年より現職。
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株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp

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