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豪雨災害時に住民が適切な避難判断を行うための課題と対策

社会システムコンサルティング部 浅野 憲周、西崎 遼

データアナリティクス

2020/09/02

地球温暖化の影響により、日本では短時間の降水量の増加による豪雨災害が深刻化しています。豪雨時に人的な被害を小さくするには住民の避難が重要ですが、適切な避難の判断を促す仕組みがまだ十分ではありません。
野村総合研究所(NRI)はこうした事態をふまえ、2019年の台風19号被災地域の居住者を対象とした「水害への備えと対応に関するアンケート」を実施しました。今回、結果の分析にあたった浅野憲周と西崎遼に、豪雨災害時に適切な避難行動を促すための仕組みをどう構築すべきか聞きました。

被災地域居住者を対象にアンケートを実施し、適切な避難判断の仕組みを分析

「令和2年7月豪雨」にも見られるように、日本における気象災害は激甚化しています。こうした際に人的な被害を小さくするには、住民の避難が重要であることはもちろんですが、「withコロナ」の環境下では、避難所等への避難者の集中を回避するため、分散避難などへの対応も重視されています。

今回NRIでは現状の課題把握と今後の避難の仕組みづくりのために、2019年10月に大きな被害を出した台風19号の被災地域居住者を対象に、「水害への備えと対応に関するアンケート」をインターネット上で実施し、その結果を分析しました。

アンケートからは、調査対象3,190人のうち警戒レベル発令の有無を認識していなかった人が全体の12.2%、発令されたことは知っていてもそのレベルまでは把握していない人が16.6%存在することが明らかになりました。まず、この層の警戒レベル発令への意識を高める必要があります。

さらに、警戒レベルを認識していた人の行動を分析すると、避難すべきであったのに避難しなかった人が76.8%、そのうちの59.1%は避難の検討すらしていませんでした※1

避難しなかった理由のうち最も多かったのは、「自宅にとどまった方が安全だと判断した」であり、90%以上の回答がありました。洪水ハザードマップの浸水想定区域内で2階以下に居住している人の回答結果であることを踏まえると、洪水ハザードマップに対する正しい認識が不足していることがわかります。次に多かったのは、「避難先の環境が心配だった」でした。このアンケートは、コロナ禍の影響が今ほど大きくない2月中旬に実施したため、現在(2020年7月時点)ではさらに避難率が低下することが予想されます。

適切な避難行動には、適切な情報を用いることが重要

避難すべき状況にあり、かつ適切に避難した人に、避難の決め手となった最大のきっかけを聞くと、「携帯電話に送られてきた緊急速報メールを見て」が最も多く30.7%、次いで「テレビの報道・ニュースを見て」が17.0%、「防災行政無線を聞いて」が15.9%、「インターネット(SNSを含む)での情報を見て」が12.5%と続き、その土地に合わせたピンポイントな情報が上位に来ていました。逆に、結果的に避難が不要であった人が避難したきっかけは、「テレビの報道・ニュースを見て」が37.3%を占めており、ピンポイントではなく広域に発信される情報で避難を決めていることが分かりました。

避難率に影響を与える要因を、避難の検討段階における「避難のきっかけ」と、避難を実行に移す段階での「避難阻害要因」に分けてインデックス化すると、避難のきっかけでは、緊急速報メールや防災行政無線が避難率に大きく影響し、避難阻害要因としては、「自宅に留まった方が安全」という自己判断や、避難先の環境に対する不安が大きいことがわかりました。

避難行動の適正化に向けた自治体向けの「避難率向上チェックリスト」を作成

避難率に影響を与える「避難のきっかけ」と、「避難阻害要因」インデックスをもとに、NRIでは自治体向けの「避難率向上チェックリスト※2」を「住民への働きかけ」と「公助としての整備」の2つの観点から作成を進めています。

「住民への働きかけ」として最も影響の大きいものは、「自宅の方が安全」という自己判断をいかに抑制するかであり、対策としては、災害危険性をわかりやすく伝える工夫をすることにより、自宅浸水可能性の認識を事前に向上させることと災害時の正常性バイアスを解消させることにあります。

一方で「公助としての整備」では、避難先の環境整備が重要で、プライバシー対策や感染症対策の徹底と周知、地域人口に対する収容力の向上、官民連携による既存施設の避難所としての活用などが求められます。情報のピンポイント性では、緊急速報メールやエリアメールを用いたピンポイントな情報提供の整備に加え、個別の位置属性に応じた情報提供の仕組みを構築する必要があります。

避難の適正化を図るための「避難率向上支援アプリ」を提案

避難行動の最適化のために自治体がとるべき対策は、事前対策として個人や家庭に合わせた災害危険性の評価に基づく防災教育や意識啓発、警戒レベル発令時の解決策としては、リアルタイムでリアリティある情報伝達システムの開発・導入、各自の状況を踏まえ適切な行動を促す仕組みの開発・導入に分類できます。

こうした課題解決を支援する方法として、「避難率向上支援アプリ」の開発を提案しています。これは、住民と自治体のどちらにも働きかけができるもので、住民には住所や属性を登録することで、事前段階では個人や家庭向けの減災カルテの提供など防災教育を行い、警戒レベル発令中には、GPSの位置情報なども踏まえた上でリアルタイムでの避難判断支援情報を提供するものです。

自治体に対しては、避難率向上チェックリストをもとにして、避難対策の自己評価をしていただき、フィードバックを行います。また、避難対策の取り組み内容を入力してもらい、優良事例について自治体間のヨコ展開も支援します。住民に対しては、洪水ハザードマップのようなハザード情報の提供に加え、自治体による対策実施状況に関する情報を提供することにより、居住地の災害リスクに対する正しい認識を促します。

インプット情報としては、Lアラートサーバーや自治体サーバー、気象庁サーバーの指定河川洪水予報情報や土砂災害警戒情報などをリアルタイムで自動入力し、ハザードマップや避難所の位置情報なども事前に取り込んで、住民側に提供することで的確な避難を支援する仕組みです。

現段階では、まだ形となったものはありませんが、今後、フィールドでの実証実験などを踏まえてwithコロナの環境下での最適な分散避難を支援するアプリとして開発・利活用を進めていきたいと考えます。

  • 1 避難すべき人の判断条件:自宅が「洪水ハザードマップの浸水想定地域」の「戸建てまたはマンション2階以下」で、台風19号の際に「警戒レベル4以上を認識」または「警戒レベル3を認識かつ高齢者と同居」していること。
  • 2 「避難率向上チェックリスト」:避難対策の検討や実施状況の評価への活用を目的に、避難率に影響を与える要因の大きさを「高」「中」「低」の3段階に区分してリストアップしたもの。
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株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp

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