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NRI トップ NRI JOURNAL 木内登英の経済の潮流――「米大統領選挙後に未曽有の混乱が生じるリスク」

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木内登英の経済の潮流――「米大統領選挙後に未曽有の混乱が生じるリスク」

金融ITイノベーション事業本部  エグゼクティブ・エコノミスト  木内 登英

木内 登英

時事解説

2020/10/08

11月3日の米大統領選挙が目前に迫ってきました。選挙戦はバイデン民主党候補が優位に立つ展開が続いていますが、トランプ大統領が新型コロナウイルスに感染したことは、選挙の行方に複雑な影響を与えそうです。また、大統領選挙の結果が長らく決まらずに、米国の政治、社会、金融市場が大きく混乱する歴史的な選挙となる可能性も出てきました。

大統領の感染が「オクトーバーサプライズ」か

米国には「オクトーバーサプライズ(October surprise)」という言葉があります。これは、米大統領選挙の1か月前の10月には、選挙の行方に大きな影響を与える予想外の出来事が起きやすいことを意味するものです。
例えば、前回2016年の大統領選挙の際には、10月28日にFBI(連邦捜査局)のコミー長官が、ヒラリー・クリントン民主党候補の国務長官時代の私用メール問題で新証拠を発見し、再捜査すると突如発表しました。これによってクリントンの支持率が低下し、大統領選での敗北につながったとの見方もあります。
10月2日に明らかになったトランプ大統領の新型コロナウイルス感染が、今回の大統領選挙で最大の「オクトーバーサプライズ」となった可能性があります。
トランプ大統領は5日には病院を退院し、重篤化は免れたようです。しかし、大統領夫人も含め、ホワイトハウス内ではスタッフの感染が次々に明らかとなりました。

トランプ大統領の感染は選挙に逆風

トランプ大統領の感染によって、新型コロナウイルス問題への対応が、改めて大統領選挙の大きな争点に浮かび上がってきた感があります。感染は多くの点から、トランプ大統領にとって選挙の逆風になり得ると思います。
第1に、今まで感染対策を軽視する姿勢も見せてきたトランプ大統領が感染したことは、「感染対策の失敗を自ら示すもの」、との批判が出やすいことです。
第2に、自らの感染によって危機管理能力が問われることです。
第3に、今後トランプ大統領の健康不安が広まれば、大統領職に適さないとの見方に繋がることです。
第4に、トランプ大統領の選挙活動が制約されることです。集会で直接有権者に呼びかけるといった、トランプ大統領が得意とするスタイルでの選挙活動の実施が、少なくともしばらくは難しくなるでしょう。
トランプ大統領は、再選に向けて全米各地を飛び回る中で、マスクの着用の有効性に疑問を投げかけ、また、大規模な選挙集会を開くことで生じる感染拡大のリスクを軽視してきました。トランプ大統領は、遊説先の州・地方自治体の当局者から感染リスクを高めかねないとの警告を受けていたにもかかわらず、過密スケジュールで集会を続けてきたのです。
トランプ大統領は、9月29日の大統領選の第1回テレビ討論会でも、「必要ならマスクを着用するが、彼(バイデン氏)のようには着けたくない」とし、常にマスクを着用する民主党候補のバイデン氏を揶揄する発言もしていました。

まだ不確定な要素も残る

早期に容態が回復し退院したトランプ大統領は、選挙活動の早期復帰に強い意欲を示す一方、ツイッターに「新型コロナを恐れるな。(新型コロナに)あなたの生活を支配させるな」と投稿しています。自身の早期回復を、「感染のリスクは誇張されてきた」ことの証拠として最大限利用し、自らの感染対策が正しかったことを改めてアピールする戦略です。また、新型コロナウイルスを克服した強い大統領、というイメージを打ち出す狙いもありそうです。
そうした前例がブラジルにありました。ブラジルでは今夏に、感染リスクを軽視する発言をしていたボルソナロ大統領が自ら感染しましたが、軽症で終わりました。大統領は自身の早期回復を理由に、感染のリスクは過大評価されているとして、「ブラジル国民はウイルス対策のために日常生活を止めるべきではない」との主張を強めたのです。トランプ大統領も同様な戦略を通じて、自身のコロナ対策への国民の支持を回復させる可能性が残されています。
このように、トランプ大統領の感染は、大統領選挙に向けて逆風となる可能性が高いとみられるものの、なお不確定な要素は多く、トランプ大統領の敗北を決定づけたとは言えない状況です。

11月3日に選挙結果が確定しない可能性

ところでトランプ大統領は、大統領選で自らが敗北した場合、それを受け入れずに、選挙結果について裁判で争う可能性を強く示唆しています。トランプ大統領は、新型コロナウイルスの感染拡大で郵便投票が増えることで、選挙結果が民主党に有利となるような不正が横行する、と繰り返し主張しています。ただし、その根拠は示していません。
トランプ大統領が不正の温床と指摘する郵便投票が、今回の大統領選挙では相当数に上る可能性が高いとみられます。郵便投票は通常の投票に比べて、開封作業により手間がかかります。また、郵便投票が多いと遅配の可能性も出てきます。
トランプ大統領が郵便投票を不正の温床とする考えの一つには、事前に郵便投票を実施した上で、さらに当日も投票所に出向いて投票を行う、いわゆる「二重投票」があると見られます。実際には、二重投票は集計の際に発見できる仕組みになっていますが、その確認にもまた時間がかかるのです。
このように、郵便投票が多くなる今回の大統領選挙では、選挙当日に開票作業が終わらず、勝敗が決まらない可能性があります。

フライングの勝利宣言で大混乱も

米ピュー・リサーチ・センターの世論調査によると、トランプ大統領の支持者のうち80%が選挙当日あるいは期日前に投票所で投票を行なう予定、と回答しています。郵便投票をするとの回答は、17%にとどまっています。これに対して、バイデン候補の支持者のうち、実に58%が郵便投票を行うと回答しています。民主党支持者の方が、感染リスクをより警戒する傾向があるためです。
この点を踏まえると、両者の得票が拮抗する場合には、郵便投票分が十分に反映されない開票初日の速報値ではトランプ大統領が優勢となり、その後、郵便投票分の集計が進むに従って、バイデン氏の得票数がトランプ大統領の得票数に迫っていく、あるいは逆転する、という展開が予想されます。
ところが、開票初日の速報値を受けて、トランプ大統領が勝利を既成事実化するために、勝利宣言をしてしまう可能性が指摘されています。フェイスブックは、結果が確定する前には政治広告を受け付けない方針を示しており、トランプ大統領によるフライングの勝利宣言を投稿できなくする考えです。
バイデン氏は、こうしたトランプ大統領によるフライングの勝利宣言を受け入れることはないと見られることから、その時点で勝敗が決まることはないでしょう。しかし、トランプ大統領の勝利宣言やそれに対するバイデン陣営による強い批判を契機に、米国内では大きな混乱が生じる可能性があります。
FBIは、大統領選挙の結果が確定しない混乱に乗じて、国内外の扇動者が、選挙違反に関するフェイクニュースを広め、選挙の正当性を損ねることを画策することを、強く警戒しています。

選挙結果は司法の判断に委ねられるか

また、郵便投票分の集計が進む中でバイデン氏の勝利が確定した場合には、トランプ大統領は、選挙結果は不正行為によって歪められたとしてそれを受け入れず、最高裁に提訴する可能性が高いと見られます。その判断が下されるまでに時間が掛かり、大きな混乱が続いてしまうでしょう。
2000年の大統領選挙でも、最高裁の判断に委ねられ、選挙結果が1か月も確定しなかったことがあります。その際には、民主党のゴア大統領候補が、混乱を収束させるために最終的には自ら敗北を受け入れた、という経緯があります。
2000年の大統領選挙では、候補者の得票数が実際に拮抗していたことが、選挙結果の確定に時間を要した背景にありました。今回、仮に得票数に明確な差があるなかで、不正を理由に現職大統領が敗北を認めなければ、民主主義の根幹をなす選挙制度への信頼性は、2000年当時と比べても格段に大きく傷つくことになるでしょう。
それは米国政治・社会を未曽有の混乱に陥れると共に、米国株の大幅安やドルの急落など、金融市場にも大きな混乱を生じさせるかもしれません。またその影響は米国にとどまらず、世界規模での金融市場の混乱へと繋がるでしょう。
このように、今回の米大統領選挙には、未曽有の混乱を生じさせる歴史的なイベントとなる可能性があることを、予め認識しておく必要があるでしょう。

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プロフィール

木内登英

エグゼクティブ・エコノミスト

木内 登英

経歴

1987年 野村総合研究所に入社
経済研究部・日本経済調査室に配属され、以降、エコノミストとして職歴を重ねる。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の政策委員会審議委員に就任。5年の任期の後、2017年より現職。
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株式会社野村総合研究所
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