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木内登英の経済の潮流――「バイデン政権巨額インフラ投資計画の功罪を考える」

金融ITイノベーション事業本部  エグゼクティブ・エコノミスト  木内 登英

木内 登英

時事解説

2021/04/08

バイデン米大統領は、3月31日にペンシルベニア州ピッツバーグで演説し、8年間で総額2兆ドル規模(約220兆円)とされる、インフラ投資計画を中心の経済対策案の概要を説明しました。今年2月には、1.9兆ドル(約210兆円)のコロナ経済対策が議会で成立したばかりです。

相次いで打ち出された経済対策

ただし、今回のインフラ投資計画はコロナ経済対策ではなく、いわば「ポストコロナの経済対策」です。より長期の視点から経済構造の転換を促す施策、と位置付けられています。
このインフラ投資計画には、バイデン大統領が昨年の大統領選挙で公約に掲げていた、地球温暖化対策が多く含まれています。この分野で、米国が国際協調路線に戻ったことを改めて印象付けるもので、大いに歓迎したいと思います。例えば、EV(電気自動車)充電施設を2030年までに50万カ所設置するために1,740億ドル支出すること、脱炭素化を進める電力・エネルギー部門に1,000億ドル支出すること、リチウムイオン蓄電池の技術開発支援、などです。
ちなみに選挙公約では4年間で2兆ドルのインフラ投資計画とされていましたが、実際には8年間で約2兆ドルの計画に修正されており、1年ごとの支出規模は減額されています。これは、バイデン政権が財源の問題に配慮した結果であるかもしれません。また、4年間の計画を8年間へと延長した背景には、民主党政権あるいはバイデン政権が8年続く可能性をアピールする狙いもあるかもしれません。

中国への対抗を強く意識

予想外だったのは、今回のインフラ投資計画で中国への対抗が強く意識された点です。バイデン大統領は、「来たる中国との競争に勝利する態勢を築く」と述べています。それは、半導体生産の補助金に500億ドル、量子コンピューターやバイオ技術などの研究開発に1,800億ドル投じる点、などに表れています。
米国には、「政府が民間の経済活動にできるだけ介入すべきでない」とする経済政策の長い伝統、思想があります。しかし、今回のインフラ投資計画では、中国に対抗するために、米国政府がそうした伝統を大きく覆して、経済・企業の競争力強化を主導すべく本格的に動き出したようにも見えます。これは非常に画期的なことだと思います。
また同時に、中国が製造業の強国を目指して半導体の内製化などを進める「中国製造2025」への対抗策と言えるのかもしれません。トランプ前政権は、5G(次世代通信規格)等の先端分野で米国が中国に抜かれることを怖れて、ファーウェイなどの中国企業に制裁を科した側面もあったように思われます。それに対してバイデン政権は、米国企業に対する政府の支援をより強めることで、中国に対抗することを目指す方針なのであれば、それは正しい選択と言えるのではないでしょうか。
そうした中、市場主義と言われる米国の経済政策も、国家資本主義と呼ばれる国家主導色の強い中国の経済政策に、一歩接近することになります。

財源はしっかりと確保されていない

一方で、この巨額のインフラ投資計画の財源が大いに気になるところです。「インフラ投資は法人税率の引き上げなどの増税策によってその財源を賄う」、と説明されてきました。実際、バイデン政権は、連邦法人税率を現行の21%から28%に引き上げ、また多国籍企業の海外収益に21%を課税する方針です。
ところが、8年間の歳出増加の合計と等しい額の追加税収を得るには、こうした増税措置を15年間続ける必要があるといいます。向こう8年間のインフラ投資は財政に中立とはならず、財政収支を悪化させてしまうのです。増税措置が15年間続く保証もありません。仮に4年後あるいは8年後に共和党政権が成立すれば、再び法人税率が引き下げられる可能性も十分に考えられるところです。
こうした点から、今回のインフラ投資計画は当初の説明とは異なり、財源がしっかりと確保されたものとは言えません。

金融市場への配慮が欠かせない

インフラ投資計画が実行され、財政環境が一段と悪化する見通しが金融市場で認識されれば、それは長期金利の一段の上昇を招き、株価の調整などを伴って経済に悪影響を与える可能性もあるでしょう。このように、バイデン政権が打ち出したインフラ投資計画には、評価できる面と評価できない面とが混在しています。
ところで、今回のポストコロナの経済対策はいわば第1弾であり、医療改革、育児支援、貧困対策などを柱とする第2弾の経済対策の計画が今月中にも公表される予定です。それは富裕者増税などで賄われるとみられます。2つの経済対策の規模は、合計で4兆ドル程度にまで膨れ上がる可能性があります。
ただし、共和党はこうした増税策には強く反対するでしょう。また民主党の急進左派は、この経済対策に増額方向での修正を求める可能性があります。最終的にどの程度修正された形で、この経済対策が議会で可決されるかはまだ見えてきません。今後の議会審議を受けて、金融市場の期待は経済対策による景況感の改善と財政悪化の弊害との間で、大きく揺れ動くことになると思われます。

「大きな政府」の流れが加速

この巨額の歳出拡大と大型増税の組み合わせを、金融市場が円滑に消化できるどうかは不透明です。景気過熱リスクや財政悪化への懸念から長期金利が一段と高まれば、それが対策のプラスの経済効果への期待を打ち消し、株価が下落傾向を強める可能性もあるでしょう。また、キャピタルゲイン(譲渡益)増税が打ち出されれば、株式市場には直接打撃となります。
さらに、財政の悪化がドルの信認低下に繋がり、海外からの資金流入に悪影響を生じさせれば、株安、債券安、ドル安のトリプル安へと繋がり、米国経済にも大きな悪影響を与える可能性も出てくるでしょう。
金融市場が足もとで不安定な状況にある点や、新型コロナウイルス問題が依然として深刻である点を踏まえると、政権発足間もないバイデン政権が、このタイミングで「大きな政府」の流れを加速させるポストコロナの政策を一気に打ち出すことは、やや拙速であるようにも思えます。
経済の安定的な成長には、金融市場の安定が必要不可欠です。バイデン政権は、金融市場の安定にもっと配慮した形で、慎重に経済政策を立案、執行する必要があるのではないでしょうか。

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プロフィール

木内登英

エグゼクティブ・エコノミスト

木内 登英

経歴

1987年 野村総合研究所に入社
経済研究部・日本経済調査室に配属され、以降、エコノミストとして職歴を重ねる。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の政策委員会審議委員に就任。5年の任期の後、2017年より現職。
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