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中国のデジタル社会実装はなぜうまくいったのか

未来創発センター 李 智慧

DX

2021/04/13

中国は情報インフラの整備に着手してからわずか20数年で、世界トップレベルのデジタル社会を築きあげました。2019年中国デジタル経済の規模は既にGDPの36.2%を占め、経済の成長エンジンとなっています。書籍「チャイナイノベーション2 中国のデジタル強国戦略」の著者であり、中国のデジタル活用事情に詳しい野村総合研究所(NRI)の李智慧に、中国のデジタル社会実装の現状を聞きました。

中国のコロナ禍の短期収束に貢献したデジタル社会実装

中国では、官民一体の「デジタル・社会ガバナンス」が新型コロナウイルス感染拡大の防止と経済の再開の両立を支えました。

2020年1月23日に始まった武漢のロックダウンは、2月12日の新規感染者数15,152人をピークとして感染者が減少したため、4月8日には解除されました。短い期間で封じ込むことができたのは、挙国体制で厳しい施策を実施したことが功を奏したからです。その一連の取り組みの中には、透明性のある情報公開の実施、感染者の追跡と感染の疑いのある人のモニタリング、健康コードといったデジタル証明書による市民の健康状態の可視化などデジタル技術を迅速に導入した効果が大きかったと思われます。

新型コロナウイルスの急速な感染拡大の中で、中国政府は臨時の医療施設を建設して、感染者を早めに施設に収容する施策を展開しました。感染者、感染の可能性のある人の状況把握を迅速化できた背景には音声認識技術を備えたiFlytek(アイフライテック)の発信型AIロボットの存在がありました。このロボットは同時に900回線に電話をかけることができ、武漢市が位置する湖北省ではこのロボットにより、2か月半に累計2,700万人以上を対象に健康調査を行いました。これは、湖北省の職員8,000人分の仕事量に匹敵します。こうして収集したデータで感染状況を可視化し迅速な感染対策につなげることで、感染拡大の抑制にデジタルも大きな力を発揮しました。

デジタル経済が加速する「コロナ後」の中国

新型コロナウイルスの感染拡大が収まった「コロナ後」の経済活動再開で活躍したのは、スマホアプリ経由で地方政府が発行した「健康コード」と呼ばれるデジタル証明書です。感染リスクの高さをQRコードの色の違いで見える化することで、安全に経済活動を再開することができました。

一方、地方政府は消費回復のために、決済アプリや生活サービスアプリを活用したデジタル消費券を発行しました。短時間での配布が可能で、一人あたりの受領回数の設定なども簡単に行えます。「レバレッジを設ける」(支給された額面より多くの金額を消費しなければならない)や「利用先を限定する」ことによる特定の業種における消費拡大の誘導もできます。また、これらの消費行動はすべてデータとして蓄積され、どの程度デジタル消費券が利用されたかといった効果の分析を迅速に行うことができ、施策の有効性を見極めながら新たな消費喚起の展開につなげました。

消費生活だけではなく、コロナ後の中国では、リモートワークやオンライン授業など、様々な分野においてデジタル技術の応用が加速しました。数億人に上る大量なアクセスに対応できるように、これらのサービスは、クラウドシステム上で構築されていることが一般的です。そのため、中国では、「クラウドエコノミー」という新しい名前が生まれるほどです。2020年、中国で毎年実施されている大規模な輸出入商品展示会「広州輸出入商品展示会」も「クラウド展示会」という形で、オンラインで開催することとなりました。システムの構築を請け負ったテンセントはわずか2か月で自社のクラウド会議システム上に展示会システムを開発しました。全世界の数万社のバイヤーと中国の出展企業を結び、24時間オンラインでの商談がスムーズに実現しました。

こうしたデジタル社会実装が迅速に行えたのは、ビッグデータやクラウドコンピューティング、AIなどのデジタル基盤をベースに、政府による個人認証基盤とオープンデータ、及びプラットフォーマーが提供するビジネスインフラが存在したからです。

量から質へとトップダウンの戦略で変化を遂げた中国のデジタル強国戦略

中国のデジタル社会実装がこれほどまでに急速に進展した理由は、第一に中国政府がトップダウンで明確な政策を推し進めたことにあります。
数年毎に策定されるデジタル戦略は、当初の「量」的な追い上げから、近年のイノベーション駆動型の「質」へと変化を遂げてきました。

2006年に公表した「2006‐2020年国家情報化発展戦略」は、中国がデジタル国家をめざすために策定した最初の国家戦略と言えます。この国家情報化発展戦略では、情報インフラの基本的な普及、デジタル・ディバイドの縮小計画、電子政府の推進などを目標に据え、これをきっかけにインターネット利用者が急増しました。2003年のSARSの教訓もありアリババを始めとしたeコマースもこの時期に発展していきました。

この15年の長期戦略のもと、中国の情報通信インフラは「量」的な発展を飛躍的に遂げました。インターネットユーザー数は、2006年の1.37億人から2020年には9.4億人、モバイルユーザー数は2006年の1,700万人から2020年には9.32億人、都市と農村のネット普及率の格差は6.5倍から1.4倍へと縮小しました。基本行政サービスのオンライン実施率は2006年の計画策定時は57%、2020年の目標は80%としましたが結果はそれぞれ100%、125%の達成率を実現しました。1978年の改革開放からわずか40数年で、先進国との差を大きく縮めました。

明確なグランドデザインのもとにすすめられたイノベーションの推進

もちろん中国も発展の過程では、新規参入に対する規制のあり方、縦割り、イノベーションのジレンマ、先端人材の不足など、他国と同じような課題はありました。しかし、政府による後追い規制やイノベーションの環境作り、率先して公共サービスのデジタル化の推進、先端人材の海外からの誘致などにより、こうした課題を解決していきました。

政府によるイノベーションの環境作り政策の一例は、AI等の新興産業の関連企業を育成するために、米国のシリコンバレーを模した先端技術の産業集積基地の創設です。政府が、産業集積基地に入居した企業を資金面、人材面、事業環境面で支援を行うだけではなく、ビジネスの創出に向けて規制を緩める施策も取られました。安徽省が推進したAI産業集積地「声谷(スピーチ・バレー)」は、その成功事例の一つです。

中国のデジタル技術の急速な浸透は、変化を主導した中国テック企業のめざましい躍進が大きく影響しています。成功する中国テック企業は、いずれも研究開発や優秀な人材の確保に力を入れています。例えば、5Gで世界をリードしているファーウェイは、19年の研究開発費はシスコ、エリクソン、ノキアの合計を超え、特許出願件数も年間4,411件に及びます。人材面でも、型破りなインセンティブ制度を設け、従業員のモチベーションを引き出しています。2019年に「天才少年計画」を打ち出し、世界中から優秀な学生を採用。年俸は89万元~200万元、日本円で1,424万円~3,200万円とするなど、継続的な成長のための布石を着々と打っています。

経済産業省が2018年に発表した「DXレポート」では、日本国内の企業が市場で勝ち抜くためにはDXの推進が必要不可欠であり、これに失敗すれば2025年から年間で現在の約3倍、約12兆円もの経済損失が発生すると予測し、「2025年の崖」と表現しました。こうしたなかで、日本がデジタル改革を推進するためには、中国を含め海外の先端IT人材や先端技術の活用を検討すべきであり、海外からの人材の誘致、留学生の積極的な採用も併せて推進する必要があります。その際、デジタル社会実装が先行して進んだ中国の事例を客観的に理解し、その成功と失敗の経験を参考にしつつ、中国の豊富なIT人材やイノベーション企業の活用を日中双方にとって有益な形で進めることも必要ではないかと考えます。

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